地球の石
若い女性に先導され、小学校低学年ぐらいの少年少女三十名ほどが、その展示室に入って来た。
「さあ、みなさん、静かにしてね。ここが『地球の石』のある部屋ですよ」
少年の一人が手を挙げた。
「先生、質問があります!」
「なあに、ヨシユキくん?」
「本当に、地球にも石があるんですか?」
「もちろんよ。ほら、見てごらんなさい」
教師らしい女性は手を差し上げ、透明なドームの外に見える地球を指した。
「理科の授業で、水色のところが海、茶色のところが陸って習ったでしょ。陸は石が集まってできているのよ」
今度は、別の生徒が「先生!」と言った。
「ノリコちゃんね。どうぞ」
「先生は、地球に行ったことあるの?」
教師は少し悲しそうに首を振った。
「残念だけど、まだないの。生まれてからずっと、月面から出てないわ」
「じゃあ、どうして、陸が石でできてるって、わかるの?」
教師はニコリと笑った。
「倍率の高い望遠鏡なら、ある程度大きな石、というか、岩っていうらしいけど、直接見ることもできるわよ」
すると、列から一人外れて歩いていた生徒が、「ウソだね」と言った。
教師は笑顔のまま、その生徒に尋ねた。
「あら、シゲキくん、どうしてそう思うのかな?」
「ぼく、ネットで調べたんだ。空の上に見える地球というのは、実はCGなんだ。みんな騙されてるんだよ」
教師は真顔になり、少し眉をひそめた。
「まあ、そんなことを信じてるのね。前にも言ったと思うけど、ネットの情報を何でも信じちゃダメよ。面白おかしい陰謀論を書き込む人が多いのよ。第一、それじゃあ、人間は月で誕生したとでも言うの?」
シゲキは、得意げに鼻をうごめかした。
「そうさ。人間は、この月面で、宇宙のエネルギーから生まれたんだよ。でも、月面制服を企む悪の組織が、人間は地球から来たというデマを流しているんだ」
生徒たちに明らかな動揺が見られた為、教師は慌てて否定した。
「違うわ!ちゃんと地球はあるし、人間はそこで生まれたのよ。その証拠に、ほら、ここにちゃんと『地球の石』があるじゃない!」
だが、その『地球の石』の説明書きを読んでいたヨシユキが、「ええーっ!」と叫んだ。
「この石は、水の中で大昔の生き物が固まってできたんだって!」
生徒たちは口々に、「そんなバカな!」とか「もう大人の言うことなんて、信じられないわ!」と大騒ぎになった。
教師はどう説明したらいいのかわからなくなり、『アンモナイトの化石』と書かれた展示品の前で途方にくれてしまった。
(おわり)
地球の石