文恋
あるアプリを通して知り合った2人。
どんどん甘さは加速して……?
高校2年も終わり、春休みになった。
ベットの上で寝転がりながら結菜は新しいアプリを1つ入れた。
〈虹色トーク〜ひまじん集まれ!〜〉
…今の自分にはぴったりかもしれない。
試しに1回やってみようかな。
【プロフィール】
名前:ゆいな
性別:女
年齢:17
都道府県:未設定
自己紹介:お菓子と犬が好きです
よろしくお願いします
無難にこんな感じでいいかな。
プロフィール画像には、ハートで顔が少し隠れているプリクラを載せた。登録、と、、
ピコン
ーかわいいね。話さない?
ピコン
ー女子高生?生足みせてーー
ピコン
ープロフ画本人かな、彼女にならない?
ピコン
ーヤらせて
えええ!まだ登録してから何分と経ってないのに!
こんなにすぐトークが来るとは思わなかった。
みんな本当にひまなんだな…
それにしたって変なひとが多い。
気持ち悪いな。
止めようか…そう思った時だった。
ピコン
ーこんにちは!よろしく!
目を奪ったのは文なんかじゃない、むしろ、、
「超かわいい…」
ダックスの仔犬のプロフィール画像だった。
少しブレている。
【プロフィール】
名前:T
性別:男
年齢:19
都道府県:未設定
自己紹介:大学1年、犬飼いはじめた
気軽にどーぞ
=よろしくお願いします
ー犬好きなの?飼ってる?
=大好きです、ダックス飼ってます
ーおなじやん!俺はチョコタンだよ
=ダップルの方が絶対可愛い…
ー写真送ってみてよ
=〈写真送信完了〉
名前はチューリです
ーおー、可愛いな!名前なんでチューリなん?
=赤ちゃんの頃、庭に咲いてたチューリップを食べちゃったんです。だから笑
ーすげぇなストーリーあるんだ笑
ー〈写真送信完了〉
俺の犬。たけのこ。
=仔犬は反則ですよーっ!笑
なんでたけのこなんですか?
ーたけのこの村めっちゃ好きなんだよね。笑
きのこの森よりたけのこの村派。
=仔犬はずるいなぁ、可愛いすぎます笑
私はきのこの森派です
ーたけのこの村は譲れても、たけのこの可愛さは世界一だよ、譲れねぇ笑
………
結菜は夢中になってトークをした。
全然知らない人なのに、こんなに楽しいことが不思議だった。
その日は1日、相手とのトークで終わった。
=学校お疲れ
ーありがとう!疲れた〜〜
=何?ちっこい頭いっぱいになった?笑
ー今日は体育でバスケやったの!
それにちゃんと詰まってるもん笑
=じょーだん笑
バスケ苦手なの?
ーうーん、運動はあんまり得意じゃないなぁ
………
最初の会話からもう2ヶ月が経った。
あれから2人とも飽きもせずに会話を続けている。
変な人からのトークは後を絶たず、結菜の提案でトークアプリをやめてLIMEという別のアプリに移した。
けれど、少しドキドキした。
会ったことのない人を入れるのは初めてだったからだ。
やがて敬語からタメ口になり、軽口を叩けるようにまでなった今、結菜は少しずつ物足りなさを感じていた。
もっと知りたい、もっと…
それから1週間程経ったある日の夜のこと。
ーねえ、言いたいことがある
=ん?
ー非常識なことはわかってるよ、それを踏まえてなんだけど…
=うん
ー電話とかしてみない?
いつもより遅い返信に、心臓が変な刻み方をした。
ドクン、ドクン、ドックン、、
2分経っても、3分経っても返信は来ない。
やっぱり、駄目だったかぁ……
ーごめん、やっぱりなんでもない!
沈む気持ちを止められないまま、続けて打った。
すると、
=え?
……え?こっちが え? なんだけど!!!
やっと返ってきたと思ったら…
=今の無かったことにしちゃうの?
え。どういうこと?
=しよーよ、電話。
俺もしたい、実はずっとガマンしてた
ほ、ほんとですか…!!
ーいいの?
=それ俺のセリフ!笑
言ったら引かれるとか思って言えなかった
ーかけていい?
=いつでもどうぞ
嬉しすぎて、ベットの上で飛び跳ねた。
もう10時を過ぎてそろそろ寝る時間だ。
部屋の電気を消して、イヤホンをつけて、頭まで布団を被る。
いつも気軽に押す☎︎ボタンは、ドキドキしてなかなか押せない。
「えいっ」
トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、、
「はい、もしもし」
ひ、低めだ!ちょっと低めだっ!
「こんばんは、ゆいなです」
なぜか小声で自己紹介。
んんっ、と小さい咳払いが聞こえて、
「こんばんは、太陽です」
「名前、太陽っていうんだ」
「そうだよ、言ってなかったっけ」
うーん、と結菜がうなる。
「どしたん?」
「呼び方!どうしよう」
少し声が大きくなってしまった。
「なんでもいいよ」
「じゃあ…タイちゃん」
「やだ。たい焼きみたいでやだ。」
「なんでもいいって言ったのに」
思わずわらってしまった。
あんまり拗ねた声を出すから…
仕方ないなぁお兄さん、太陽って呼んであげるよ。
そう言うと、よろしい、許してつかわす。と返ってきた。
それから沢山たくさん話して、時計はもう1時半を回っていた。
「どうだった?俺と話してみて」
「楽しかった!しかも太陽さ、微妙に方言入ってるじゃん??可愛いなぁって」
「…結菜のが可愛い」
ボソっと声が返ってきた。
「え?なんて?」
「結菜のが可愛いよ、なんか、」
やばい、なんかドキドキしてきた。
「声がさ。甘いんだよな」
…食っちゃいたいくらい
「っつ〜〜」
なんてこと言うんだろう!
それに時々色っぽい声出すし。
たまんねぇよ
そう言って笑った。
いや、太陽の方が色っぽすぎるっ…!
「太陽お兄さん、年下からかっちゃだめだよ…免疫とかついてないんだもん」
「年下とか年上とか関係ねーよ
結菜に免疫なんてつけさせてやんない」
ねぇ、、
今にして思えば、この瞬間こそ【魔が差した】
と言うんだろう。
俺たち、会ってみねえ?
「うん、いいよ」
文恋
文恋2へ続く