小さな私 大きなあなた

小さな私 大きなあなた

私はとてもとても小さな人間です。
いいえ、私は人間ですらないのかもしれません。

みんなは私よりお歌が上手だから、
お絵描きが上手だから、
お仕事が上手だから、
綺麗な身体をしているから。
私はみんなより劣っているのです。欠陥だらけなのです。

私もみんなも雲に隠れててっぺんが見えない大きな樹に上っています、樹にくっついた細いつるにしがみついて、一歩一歩上っています。

てっぺんに行った人は誰もいません。
どうしてって?
それは樹が更に伸びていくからです。終わりがないのです。

私もつるにしがみついて、必死に上っています。けれど、みんなが私を追い越していくのです。
待ってと言っても、誰一人待ってくれる人はいません。

下ばかりを見ていると今までの自分を褒めるだけの自惚れに終わり、次の一歩が上手く出せません。
だからつい、上を見てしまったのです。
樹の上を上っていくみんながとても眩しくて、しがみついていた手を離して眩しさに焼けた目を覆ってしまいました。

小さな私はまた樹から落ちました。
また最初から上らなければいけません。
私はまた自分が何をやるべきがわからなくなりました。

樹のてっぺんにはあの方が待って居ます。
どうして、私をお作りになったのか使命とはなにかを問うても樹のてっぺんから答えは帰ってきません。

いいえ、あの方は教えてくださっているのに私の耳が聞こえていないのかもしれません。

使命が分からずただ無心で樹を上っても、つるがパッと消えて思わず尻餅をつきました。
心も身体も傷だらけになり、着ている服にも穴が開き、なんともみすぼらしい姿になってしまいました。
自分は本当はみんなのように必要される人間ではないのではないか、瞳から涙が溢れました。

しばらく上ることを諦め、一生懸命上を目指すみんなを見ていました。
使命を強く持ち、必死に樹を上るみんなの太陽のような眩しさに勝てず、私の身体は灰のように黒く焼け焦げていきました。

私はまるで灰のように軽くとても小さな人間です。
もし大きな風に吹かれたら、跡形もなく吹き飛ばされてしまうでしょう。

私はとてもとても小さな人間です。
みんなの眩しさを敗北感と嫉妬心で心から喜ぶことが出来ない人間です。
あの方もみんなもこんな醜い私なんて誰も愛してくれないでしょう。

あなたを呪うようなことは絶対にしません。
どうしてあなたは私をお作りになったのですか。
どうすれば、私もみんなのように眩しい存在になれるのですか。私に教えてください。

私はまた樹を上っては今日も尻餅をつきます。
自分の持っている輝きはきっと見つかるはずだと信じながら、上るしか方法がないからです。

私もみんなのように輝ける日が来ると良いな。と思いながら。

小さな私 大きなあなた

小さな私 大きなあなた

誰しも授けられている使命に気づけていない、小さな私の話です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-07

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