「背伸び」「付け合わせ」「教室」

三題噺です。恋愛ものっぽくしてみた。

「やっぱり、パセリはいらないと思うんだよね」

彼女は突然そう言い出した。放課後、一人教室に残って明日までの課題を処理していたら、ふらふらとやってきて、僕の前の席を勝手に使ってこっちを眺めているなと思ったら。
 数学の課題は後二問のみ。このくらいまで終わればいいやと、ノートから彼女へ視線を移した。
「何の話?」
「何って、昨日の。ファミレスでしたじゃん、付け合わせの話」

 あぁ、そういえば。彼女が頼んだハンバーグにパセリがついてきたんだっけ。食事のときって、食べてることに集中しちゃうからよく覚えてないんだよね。

「僕はあってもいいと思う……って、昨日も」「言いました」

 はい。彼女はご機嫌斜めなようで、机をとんとんと指で叩いた。それから、僕の筆箱の中からシャーペンを取り出すと、ノートの空白部分にパセリの絵をかきだした。やめてくれ。
 この人は絵心があるからいいんだけど、消すと怒るからこのまま提出しなくちゃならなくなるのだろうと考えるとちょっと憂鬱だった。

「多分忘れてると思うからもう一度言うけど、私はいらないって思うわけですよ。たいして味がするわけでもないし、いろどりの面だってそんなに変わらないでしょ。だったら、緑より青とかピンクとかの方が可愛くていいもん」

 僕はハンバーグにピンク色の某かが付け合わせとして存在していることを想像して、

「……そうかなぁ」

 大変微妙な心持になった。ハンバーグと同系色だしね。青は問題外ですよ。

「そうだよ!」

 こちらの意見を採用してもらえない意見交換会は開かないでもらいたい。でも案外、これが社会の縮図なのかなと考えて悲しくなった。もうどうにもならないなと思って、「そうだね」と賛同しておいた。
 追及されても困るから、僕は話題を変えることにした。

「足はもう大丈夫?」
「大丈夫だと思う?」

 質問に質問で返された。機嫌が悪いから、まだ痛んでることは間違いないと思うんだけど。
 普段ヒールなんてあまり履かないのに、昨日は珍しく履いてた。結構歩かなきゃならなかったから、履き替えるよう言ったのに聞き入れてくれなくて、案の定道中で靴擦れを訴えたのだった。そういえば、ファミレスに入ったのもそういう経緯があってのことだったっけ。

「だから、ヒールの靴はやめなって言ったのに……」

蒸し返す必要はなかったのについつい口に出してしまうと、彼女はむっと口を曲げて、急に立ち上がった。そして今度は僕の頭をたたいてくる。

「君の背が高いのが悪いんだよ! 縮むべき」
「そんな無茶な」

 彼女だって、それほど背が低いわけではない。むしろ、女子の平均値より高かったはずだ。僕はと言えば、ちょうど男子の平均くらい。だから、ものすごい身長差があるわけではない。
 僕の頭に手を置いたまま、彼女は背伸びをした。

「あーあ、身長伸びないかなー。2メートルくらい」
「それは困るな……」

 現在1.6メートル。つまり合計3.6メートルの彼女。どうして困るの、と尋ねられたので正直に答える。

「手ぇつなぎにくいから」
「……そっすね」

 彼女はそっと背伸びをやめ、僕の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。

「座っててくれれば見下ろせるのになー。ちょっとくやしい」

 そうか、見下ろされるのが嫌だったのか。解決するのが難しそうな問題を、次から次へと持ってくるなぁ、この子は。

「まぁ、パセリなら僕が食べるから。結構、好きなんだよね」
「……ほんとうに?」

 嫌いではないし、いらないとも思わないから、嘘ではないだろう。肯定すると、彼女は何とも言えない表情になった。

「私も嫌いではないからね、いらないって思うだけで。……食べられるもん」

 そういったとき、ちょっと目をそらしていた。あぁ、嘘だな。
 彼女の言葉が本当か確かめるために、今週の日曜日も一緒にファミレスに行かなくちゃならなくなった。
 背伸びしたがる、僕の彼女と。

「背伸び」「付け合わせ」「教室」

「背伸び」「付け合わせ」「教室」

三題噺です。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-06

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