帰り道
昼間の熱気から逃れるように、涼やかなコンクリートを歩き始めた。頭から足まで1日の下半期に突入していく。
いつもなら15分程でその下半期に瞬く間に全身が浸かっていくが、今日は違う。
幼馴染みから連絡があり、久しぶりに会おうと言う。特に予定も無い、いや、予定に邪魔されるような関係ではないのだ。いつから互いを知っていだろう。記憶に無いころから共に時間を浪費しているのだ、電話ごしにでも考えていることは分かる。
「あそこのラーメン食べようぜ」
そういうだけで全ては解決してしまう。幼馴染みと顔を会わせながら麺をすするだけで、さっきまで纏っていた責任と無垢の歯車はすっかり抜け落ちる。
湯気で眼鏡を曇らせながら幼馴染みは、自らの伴侶を決めたと言う。
昔から熱意はあるが思いきりがなく、不甲斐なさに気落ちし、肩を落とす彼を自分と重ね合わせ、共に世間への不満を吐き出した時もあった。
その世間から埋め込まれた灰色の歯車で私達は幾分の自由を得た。そこから何をしようが誰の縛りもないが、大多数が歯車を止め、油を差すことによって満足する間に、君は新たな歯車の開拓をし、何かを変えた。犠牲になった自由を糧に、光を増して立った。
おめでとう、君に幸あれ。新たな階段を踏み出したんだな。一緒に昇る人を見つけることができたのだな。
スープの味はしょっぱく、チャーシューは固い。いつものラーメンだ。いつも変わらず、僕たちの間を取りつくろってくれる。鼻水が出るのも君らしい。私も、今日は鼻水が出る日だ。
頭も足もすっかり向くべき方を忘れていた。歯車を逆に回し、油は差さず、闇に赤提灯を探す。
冷えていたコンクリートは暖かくなり、さらに足を軽やかにする。
帰り道