筆をとる

 筆をとる。かなりの分量を書く夢を見た。かなり良い兆しだ。美里の寝顔を思いだし、思わず微笑んでしまう。洋子は、旅からまだ帰らないのか。あの濃厚な性交が待ち遠しい。原稿用紙を見ながら、ぼんやりと構想をつくっているふりをする。昔、遥香という女性を落とした横顔だ。頭の中で、明日の夕飯を考える。昨日お手伝いが、死んだために、インスタントラーメンでしのいでいる。大きな蛙が部屋に入ってくる。薄暗い書斎が、にぎやかな宮殿にかわる、はずもない。魔法使いの蛙ではないらしい。蛙は頬をふくらませて、しばらくピアノのソで鳴くとペニスを見せびらかす。私はうらやましそうに横目でみながら、落書きをする。かつてインカ帝国が十二人の生贄を悪魔に捧げたときに使った印章。それは、どこか時代遅れの酒場へと連れて行く。「書いたの?」ふいに声がした。「書いてないよ」答える。いつも聞いてくる生き物がいる。彼らか、彼女らか、それとも、それらと言うべきか。とにかく生き物たちは、大きな心臓を持っているらしい。鼓動がドンドンと響く。グロの本を読みながら、寝そべる。自慰を誘う陽気に起業でもしようか。「やめろ」生き物はまだ、部屋にいた。気がつくと、窓が開いている。鍵をはずした覚えはないのだが。不思議なこともあるものだ。これは良いネタができた!!と殴り書き。読み直して、コーヒーを飲んで泣きたくなる。私の書いた文章は、窓をあらゆる角度からきりとっていた。シュレッダーにかけた後の紙のような文章だけが残された。つまり、バラバラだ。薬草茶を持ってきたお手伝いさんに挨拶をする。いつのまに生き返ったのだろう?「では、さようなら」お手伝いさん、本名荒谷佐美。急に65才の佐美に欲情する。「結婚してくれ」かなりの覚悟だった。本気だ。その瞬間、佐美は笑った。そのシワは、いっそう老いをきわだたせる。「ヨーグルトでも食べてなさい」佐美が去っていく。よくみると足がない。ひさから先が消えている。紙を結局破いて、窓の外に投げつける。「あの~」ふて寝していると、隣の町内会長が、訪ねてくる。私は居留守を使う。着物からのぞく乳房を黙ってみる会長。からかう気持ちで足もひろうする。冷たい手の動き。はうように動く。ああ!瞳!そうよ!!もっと強く!!目をあけてみると、もう町内会長はいなくなっていた。唐突に思い出した瞳。彼女は強い視線をもっている男だ。おかしな話だが、瞳は「ぼくらのシリーズ」にでていた。だから文章でめちゃくちゃにしてやった。そして、その後恋仲になった。かなり厳しい顔をした母親がいた覚えがある。たしかアルジェリア人だった。ヴェニス生まれのアフリカ人。肌は、緑色をしていた。藻が好きで、肌に藻を植えたそうだ。今頃、心臓まで藻がたっしているかもな、と大笑いする。丸いめがねを取り出してかける。「ようやく見えたかい?」「誰だ?」「私だよ。メガネだよ」「メガネが何のようだ?」「あなたね。私を使ったの20年ぶりでしょ」また愚痴が始まる。だから、このメガネは嫌いなのだ。面倒になって、メガネをはずして、大事にしまう。「さようなら」寂しそうなメガネの声に私は無表情に、タンスを閉める。そろそろ書くか。筆をとる。かなりの分量を書く夢を見た。かなり良い兆しだ。美里の寝顔を思いだし、思わず微笑んでしまう。洋子は、旅からまだ帰らないのか。あの濃厚な性交が待ち遠しい。原稿用紙を見ながら、ぼんやりと構想をつくっているふりをする。昔、遥香という女性を落とした横顔だ。頭の中で、明日の夕飯を考える。いつも私は食事を作っている。洋子が帰ってきたら、マイトレイを呼んでみよう。あの女性ならきっと洋子も気にいるはずだ。けれど、ナスターシャ・フィリポーヴナはまずい。洋子と衝突するだろう。来たな。ボスがやってくる。DIO様に似た一般人だ。カリスマがある。「さあ!!先生!!書けましたか?書いてない?先生には才能がある。とにかく書いてください。後は何とでもなります。この出意雄にお任せください」「そうはいっても・・・・・・」「先生。書くまでここを動きません」変に頑固なデイオさん。これでも、出版社の社長なのだ。このまま、居着いてしまうと困るな。筆をとる。かなりの分量を書く夢を見た。かなり良い兆しだ。美里の寝顔を思いだし、思わず微笑んでしまう。洋子は、旅からまだ帰らないのか。あの濃厚な性交が待ち遠しい。美里の大きな乳房を考えていると、デイオが鼻血を出している。血が床に落ちる。「死ぬの?」聞くと同時に声がする。「ただいまー」美里だ。22才のはつらつさに吸血鬼のようなデイオは身を縮める。書けた。私は原稿用紙に大きなバッテンを書いて、デイオに渡した。「これは!先生すごいですよ!!」デイオは美里から逃げるように帰って行く。後には、血が点々と模様を描いている。「どうしたの?」美里はエヴァ初号機のパイロットが気になるらしい。よく来たね、という気持ちとは裏腹に、「知らない」と素っ気なくしてしまう。「ああああああああああ」美里が私を蹴った。意識が途絶えた。



                       終

筆をとる