()書きの多い桃太郎
むかしむかし、あるところに、(意識すると無意識に逆の行動をしてしまう奇癖の持ち主ではあるが、おばあさんに対する愛情では誰にもマケナイと自負している)おじいさんと(そのおじいさんの行動心理を巧みに利用し操作する)おばあさんが住んでいました。
(おばあさんから「川ではなく山ですよ。川ではないですよ」と出発前に念入りに忠告された)おじいさんは山へしばかりに、(一年位前に、普段とは別の川へせんたくに行った際、そこにいた子供たちと一緒に釣りをすることになり、その時に釣ったニジマスを「昔、魚食べた時にエライ目にあった」というおじいさんに「今までずっと食べてきませんでしたが、もしかしたら、今は大丈夫かもしれませんよ」と、なかば強制的に食べさせ、翌日おじいさんの体全体にじんましんを発生させるも、釣りあげた瞬間の興奮が忘れられず週一で釣りをしている)おばあさんは川へせんたくに行きました。
(申し訳ないな、と思いつつも、幼少時に男子達に混じって釣りをしていた頃の―天才釣り少女と呼ばれていた頃の―ジョウネツがよみがえり、今日もおじいさんの奇癖を利用し川へおびきよせ「おじいさん、川ではなく山ですよと言ったじゃないですか」「なんでか知らんが来てしまった」「きっと心の深い所で私の事を心配してくださってるからなのかもしれないですね――冷たっ。今日は川の水が冷たいわ。私のひ弱な手でちゃんとせんたくできるかしら」「今日はわしがやろう」「ありがとうございます。では私は山菜を取りに」という釣りをする日には必ず使っている話の流れを持ち出し、まんまと別な川へ移動することに成功し、わずか一年でメキメキと腕前は復活し、約束していた場所ですでに釣りを始めていた子供たちから「釣り天女が来た」と言われる程になっていたが、おじいさんは魚を食べられないので、子供たちが釣りをする前に採ってきた山菜と自分が釣った魚を交換というやり方で小一時間ほど釣りをした後、子供たちと別れ、場所を川上に変え、汚れた手拭いを)おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。
「おや、これは良いおみやげになるわ」
(そうつぶやいた途端、持っていた釣竿に大きなアタリがあり「もしかしたらこの川のヌシかもしれない、しかしこれだけ大きな桃も捨てがたい」と仕方なく釣竿を持ったまま桃を取ろうとするが失敗し、桃の上に体を乗っけた形で川下りをすることになり、釣竿は何が何でも離すまいと両手でぎゅっと持ち、桃はもう正直どうでも良くなっていたが足の力を抜いて落ちた衝撃で釣り糸が切れるのを恐れて両足でぎゅっと挟み込み、とりあえず桃はあきらめて陸地に戻るための案を考え始めた瞬間、「ブツッ」という振動と共に釣竿から重みが消え、釣り糸が空中にフラフラ浮遊するのを見てとてもがっかりし、せめて桃だけでもと、川の真ん中の石を蹴り上げた反動で陸に近づき、木にしがみつき両足で桃を体をひねりながら陸地へ放り込んだ)おばあさんは大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました。
そして、(コチョコチョされるのが大好きな)おじいさんと(桃を運ぶおじいさんの脇を「落としちゃだめですよ」と言いながらコチョコチョしておじいさんが何度も桃を落とし、ボコボコになっていく桃そっちのけで、新婚以来のイチャイチャを満喫した)おばあさんが桃を食べようと桃を切ってみると、なんと中から元気の良い男の赤ちゃんが飛び出してきました。
「これはきっと、神さまがくださったにちがいない」
子どものいなかった(というかお互い60歳を過ぎての初婚のため、最初から子供は考えていなかった)おじいさんと(そんなおじいさんが村の子供たちと遊んだ後、別れ際に両目に漂わせる一抹のサビシサを感じ取り、あわよくば一緒に釣りをしている子供の一人でいつも背中に赤ん坊を背負っている子をいいくるめて、赤ん坊と釣った魚を交換しようかと、わりと本気で考えていた)おばあさんは、大喜びです。
桃から生まれた男の子を、(家の周辺の川や山に独自に名前を付け、そのたびにおばあさんから「良い名前ですね」と言われ続け、今回も「この子の名前は"桃"に"真"に"寿"と書いて"桃真寿(トーマス)"だな」と自信に満ち満ちた顔で言い放った)おじいさんと(協議の結果「おじいさんが以前『桃から子供が生まれたらその子の名前は桃太郎にしよう』と言った時に、ぴったりだ、それしかないと二人で言ったではないですか。お忘れですか」「そうじゃったかの」と自分がつけようと思っていた名前をおじいさんが以前言っていた名前ということにし、これまた巧みに命名権を奪い取った)おばあさんは桃太郎と名付けました。
(おばあさんの機転で、しゃべる機関車みたいな名前を付けられずに済んだ)桃太郎はスクスク育って、やがて強い男の子になりました。
そしてある日、(年がら年中しばかりのみで収入もなく、おじいさんが若い頃に鬼ヶ島へ行ってわるい鬼を退治して得たという金銀財宝も、村や町で少しずつ食物と交換した結果、残りわずかとなり、おじいさんは病で床に臥せ、おばあさんも足腰が弱くなり桃を取るために見せたアクロバティックな動きは元より家事すら困難を極め普段は基本的に寝たきりの状態で、この現状を打破するためにはどうしたらいいか、そして、世にも奇妙な生まれ方をしたにもかかわらず大切に育ててくれた二人の恩義に報いるためにはどうしたらいいかと考えた結果、最終的におじいさんの武勇伝をもとにして考えをまとめた)桃太郎が言いました。
「ぼく、鬼ヶ島(おにがしま)へ行って、わるい鬼を退治します」
(おばあさんは大反対したがおじいさんと一緒に説き伏せ、刀の修練は一度もしたことが無かったが、イメージトレーニングは晴れた日に縁側で寝転がりながらいつもしていたので、鬼退治も「まあ大丈夫だろう」と踏んでの発言だったが、一人で行くのは寂しいなという思いもあり、以前、おばあさんにきび団子を作ってもらった時に、それを持って散歩していたら次々と動物がついてきたことを思い出し)おばあさんにきび団子を作ってもらうと、鬼ヶ島へ出かけました。
旅の途中で、(鬼ヶ島に行く際に通過する島に買い出しに言った飼い主が何日経っても帰ってこず、心配しながらずっと腹を空かせて待っている)イヌに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
(どうにかして飼い主ともっと親密なコミュニケーションをとりたいと思い、人間が話す言葉が何を意味するのか理解しようと、努力に努力を重ねた結果、人間の言葉が理解できるようになるばかりか、流暢に話すことも可能になり、それからというもの、他の動物と人間との間に立って通訳することもある)イヌはきび団子をもらい、(さびしさで泣く寸前だった)桃太郎のおともになりました。
そして、こんどは(親がエサを持ってくるのを待っていたが、ついさっきスズメ達から「お前の親は鬼に喰われちまったぞ」という話を聞き「鬼に復讐したい」と固く心に誓ったが、あまりの空腹に道端でへたりこんでいた)サルに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
そしてこんどは、(以前、吉四六(きっちょむ)という男の「キジだと思わせてカラスを売る」という少し間違えれば暴動になりかねないスリル満点の詐欺まがいの商法に加担し、その後男と別れ、平凡な毎日を送っていたが、最近日々の単調な生活に飽き飽きし始め、何か刺激が欲しいな、それはともかく腹減ったな、エサ探すの面倒だな、と考えながら道の真ん中でぐでっとしていた)キジに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
こうして、(鬼ヶ島に向かう途中立ち寄った島で、別の犬と暮らしていた飼い主を見つけ、その飼い主が「やっぱり言葉をしゃべる犬は気持ち悪いな」とつぶやいてるのを聞き、心神喪失に陥り、何をするのにも無気力になってしまった)イヌ、(同じく鬼ヶ島に向かう途中立ち寄った島で、親が鬼に喰われたというのは間違いで、実は人間に捕えられたらしいという情報をスズメ達から聞き、復讐する相手は鬼ではなく「人間」で、そして今、目の前に桃太郎という「人間」がいることに気づいた)サル、(これまた同じく鬼ヶ島に向かう途中立ち寄った島で、以前世話になった吉四六と偶然再会し「またオレと組まねえか(通訳:イヌ)」と誘われ、わざわざ鬼退治なんてリスクを背負わずともこの男といれば刺激あふれる毎日を送れそうだ、戦況次第では隙を見て鬼ヶ島から逃げよかなと考え始め、吉四六にはとりあえず「ちょっと考えさせてくれ(通訳:イヌ)」と伝えた)キジの仲間を手に入れた(「これで鬼退治もうまくいきそうな気がする。大勝利して家に帰ったら、おじいさんとおばあさんに恩返しをするんだ」と、無気力なイヌと人間に不信感を持ち始めたサルと桃太郎軍団の戦闘力を持ち物や動きなどでチェックしているキジに語って聞かせた)桃太郎は、ついに鬼ヶ島へやってきました。
鬼ヶ島では、(約70年前に鬼の一人が若かりし頃のおじいさんに親切にしたにもカカワラズ退治され、その後、人間に対する復讐として代々、村を襲うようになった)鬼たちが近くの村からぬすんだ宝物やごちそうをならべて、酒盛りの真っ最中です。
「みんな、ぬかるなよ。それ、かかれ!」
(とは言ったものの、みんな動こうとしないので「臆したか、みなのもの、今こそ、決戦の時じゃ!」とは言ったものの、みんなよそ見しているので、これはおかしいと思いそれぞれから話を聞くことにし、まずイヌに対して「どうした、イヌよ」「実は―(以下前述参照)」それを聞いて「自分の努力が必ずしも自分の都合の良い形で報われるとは限らない。ただ、一つ言えることは、努力は何らかの形で報われているということだ。現に、僕は君のおかげで君達とコミュニケーションが取れ、そしてここまでこれた。これでもまだ、君の努力が報われていないというのかい?」と言われた)イヌは(「桃太郎さん、かっこいいー!」と叫びながら)鬼のおしりにかみつき、(続いてサルに対して「どうした、サルよ」と聞いたものの、サルが何を言ってるのかわからないので、鬼と戦っているイヌを呼び戻し、鬼に追われながら通訳してもらうと「実は―(以下前述参照)」それを聞いて「"カチカチ山"という話を知ってるか。自分の親を喰われて人間に復讐した結果、逆に復讐されるという話だ。復讐に成功しても、逆に復讐されて歳若くしてこの世を去ってしまうことになったのでは、君の親は悲しむはずだ。良い嫁さんをめとって、子供をいっぱい作って幸せになってほしい、そう思ってるはずさ。それでも、どうしても復讐しなければ気がおさまらないというなら、人間を代表して僕が君の恨みを全て受け入れてやるよ」と言われた)サルは(「桃太郎さん、一生ついていきますー!」と叫びながら、その勢いに乗っかったイヌと一緒に)鬼のせなかをひっかき、(続いてキジに対して「どうした、キジよ」と聞いたものの、キジが何を言ってるのかわからないので、サルと一緒に行っちゃったイヌを呼び戻し、サルには一匹で全鬼を相手にしてもらいながら、通訳してもらうと「実は―(以下前述参照)」それを聞いて「刺激を求めて人をだまそうが何しようが君の自由だ。けれど今は、ぼくに力を貸してくれないか。というのも、ぼくは弱い。すこぶる弱い。イメージトレーニングはしこたまやったからイケるだろうと思ってたけど、今サルと鬼の戦いを見て、ぼく一人では全然勝てる気がしないと感じた。こうやって話している間にもサルは一匹で鬼たちと戦っている。そしてチラチラこっちを見ている。早く行ってあげないとサルは再び復讐の鬼と化して、ぼくに襲いかかってくるかもしれない。それはともかく、君に知ってほしいのは、誰かを騙して得る喜びもあるが、誰かに尽くすことで得られる喜びもあるということだ。尽くすことの喜びを知ったら、きっと、君の世界の見え方が変わるはずだ」と言われた)キジはくちばしで(桃太郎の服の乱れをなおすと「桃太郎さん、あなたの言葉を聞いただけで、もう、世界の見え方が変わってきましたよ」と言って飛び立ち、今にも復讐の鬼になりかけているサルを助けるため)鬼の目をつつきました。
そして(鬼ヶ島に上陸後すぐ、その辺に転がっていた酒の入ったひょうたんを拾い、何気なく飲んでしまい、その後、ほろ酔い気分で歯が浮くような台詞を適当にペラペラしゃべりまくった)桃太郎も、刀をふり回して大あばれです。
とうとう(唯一、人間の言葉がしゃべれて、必殺技が土下座で油断させてからの猛毒のつばである)鬼の親分が、
「まいったぁ、まいったぁ。こうさんだ、助けてくれぇ」
と、手をついてあやまりました。
(酒がまわって眠くなってきた)桃太郎と(鬼の親分の言葉をわかりやすく桃太郎に伝えようと言葉選びに集中している)イヌと(復讐の鬼になる一歩手前までいっちゃったことを桃太郎のひざに手をついて深くハンセイしている)サルと(桃太郎の衣服の乱れを整えることに余念がない)キジは、(突然土下座の体勢から起き上がった鬼の親分に対して隙を見せるも、桃太郎以外はすぐに反応し、桃太郎を守るため体を張って猛毒のつばを受けてその場に倒れこみ、それを見た桃太郎は、鬼の親分が恐れおののくほどの鬼の形相になり、親分を刀で真っ二つにした後、猛毒のつばを浴びたイヌは「桃太郎さんに会えてよかった」サルは「桃太郎さんのおかげで鬼にならずに済みました」キジは「桃太郎さんの言葉で一瞬でも世界が素晴らしいものに見えました」そういって目を閉じたのを見て「これでは、復讐の連鎖は終わらない」と嘆き悲しんだが、それはそれとして桃太郎は)鬼から取り上げた宝物をくるまにつんで、元気よく家に帰りました。
(実は幼少時、親から捨てられ一人でどうにか日々を暮らしていた時に、かごいっぱいにニジマスを持った優しい鬼からもらったニジマスでひどい目に遭い、ダマサレタと思って、報復として数年後に鬼ヶ島の鬼を退治した)おじいさんと(実は桃太郎の鬼退治に反対したのは桃太郎のことを心配してというだけではなく、鬼を退治すること自体に反対で、というのも幼少時、魚を釣っている時に足を滑らせ高い場所から川に落ちそうになった所を優しい鬼に助けられ、お礼にかごいっぱいのニジマスをあげたという思い出があったからで、それでも最終的に桃太郎を鬼退治に行かせてしまったことを一人煩悶していた)おばあさんは、(手足をだらりと伸ばしているイヌ、サル、キジを抱いた)桃太郎の無事な姿を見て大喜びです。
そして (桃太郎の看病の結果、全快したイヌ、サル、キジと一緒に)三人は、宝物のおかげでしあわせにくらしましたとさ。
おしまい
()書きの多い桃太郎