桜咲くまで、それまでに。

加筆修正してみました。

いとうせいこう原作の、NHKの連ドラはついに見ることがなかった。

朝起きて、スマホで夢占いをした。
耳垢がごっそり取れる夢を見た。健康運上昇とのこと。
それから双子と末っ子に「おはよー、今朝はあったかいね」と声掛けをし、低音でラジオをかける。
最近日課になった儀式だ。

うちのマンションはペットが飼えないので、兼ねてより考えていた植物を育てる、ということに本格的に乗り出している。
双子とは二鉢のクワズイモの赤ん坊、末っ子とは近くのコーナンへ行った際、一目ぼれして買った小さなサボテンである。
どちらもちまちまとしていて愛らしい。

田舎に住んでいたころは気にも留めなかった草木が、ここ都会では特に大事にされると知ってから、急激に自分の中で株価が上がり、ミニバラなど買って玄関に添えてある。こちらは二日に一度水をやって、たまに腐った葉っぱを取っておくと、小さな花を付ける。まことに愛らしい。
ニュースを見ながら、時計を見た。
めざましテレビの紙兎ロペはまだ始まらない。20分の散歩に出かける。

近所の交番の近くに、お地蔵様が立っている公園があり、そこの桜が早咲きしている。その一本を見るために町内を回り、誰もいない道に佇み、首をあげてじっと眺める。
濃い桃色の結構雑な咲き方。これは桜というより、桃だな。桃だった。
桃の花を眺めてから、しんとした街を歩き、帰宅する。紙兎ロペを見てから、コーヒーを淹れて食パンにチーズを乗せる。オリーブオイルに浸して食べる。
ここより都心へ行ったほうに、有名なパン屋があり、たまに従姉の家に行く際帰りに寄ってクルミパンを買うのだけれど、それをこの間車に乗っていた時従姉に言ったら、「え、こんなとこまで歩いてくんの!?」とかなり驚かれていた。
私の生活は小規模且つ大胆な一面を持っているらしい。
自転車事故を起こしてから、何処へ行くにも歩きで、前に四時間かけて大通りにあるブックオフへ行った際、近所の中学生に「この先には~、電車とバスが~?ある~~~!」と合唱して笑われてしまった。
ぜいぜい息をして帰ってきた私も「そりゃそうだった、私はアホか」と思い、本を売った金で得た戦利品の焼き芋とみかんゼリーの入ったスーパーの袋をくるくる回しながら、冬だというのに汗をかいて帰宅し、植物たちに「ただいまー」と声をかけた後、糖分摂取に買ったばかりのみかんゼリーを頬張った。

私が植物に愛を注ぐ理由は、単に難しいとされるサボテンの花を咲かせてみたいのと、最近見直し始めたジブリの映画を見てだ。
天空の城ラピュタや、となりのトトロ、平成狸合戦ぽんぽこなど、「森を大切に」と訴える作品の世界観に感化されたのもあり、そういえば京都にジブリ専門店などあったなと思い出し、ネット上で同志がいるのを確認してから、私はその若干スピリチュアルな思想にとても癒しを覚えた。
一生に一度で良いから、長野県の森や沖縄の石垣島へ旅行に行ってみたい。
NHKの野生の鷹を保護して森へ帰す番組など、たまに見つけてはじっと見入っている。
彼女は「つまんないー」と言いながら、それに付き合ってくれる。

昔から、オオイヌノフグリなどが好きで、女の子のおままごとに交じって花まんまなど作っていた。
笹舟を川に流した。
数年前、彼女に、四葉のクローバーの冠と指輪を作ってあげたら、ひどく喜ばれた。
彼女は自称画家の私と、「結婚は、しないよ?」と言いながら、面白がって大学であったことや将来の夢について語ってくれる。
私はそれを、できるだけ作品に投影させて、文章を書く。いつかは去ってしまう彼女の代わりに、サボテンよ咲け、と念じながら。

「ただいまー」と玄関から声がした。
彼女は、「向日葵の種買ってきたから、植えてみてよ」と言う。それには大きな鉢植えも買わなくちゃな、と私は後で買い物に行く決意をする。

彼女が大学を卒業するまで後一年。今年こそ、サボテン咲け、と、ぽこぽことハートの葉っぱを生やしているクワズイモの隣に並ぶ、若干膨らんだサボテンを見る。
残念ながら、まだ蕾も着く気配はない。

咲かぬなら、咲かせてみせよう、サボテンの花。
字余り。

麻婆豆腐を作る支度をする彼女を見て、スケッチの用意をしながら、私は決意を新たにぐっと鉛筆を握った。

桜咲くまで、それまでに。

実生活からヒントを得て。

桜咲くまで、それまでに。

植物を家族のようにめでる男子。いや、男子という年齢化も怪しい。

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更新日
登録日
2016-03-28

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