リバースノート①

もし人を生き返らせるノートを拾ったらあなたはどうしますか。

主人公A、ノートを拾う

クラスの皆が泣いている。
田舎の学校だから全学年併せても十数人くらいしかいないけど、幼い頃からずっと一緒だったからBの死を誰一人泣かない人間はいなかった。
俺はBのことが好きだった。卒業式に告白するつもりでいた。高校も別々だからふられてもしょうがないと諦めるつもりだった。
しかし卒業を控えたこの時期にBが亡くなるとは思わなかった。
ただ俺一人、茫然として涙も流れなかった。

葬式の帰り道、一言も言葉を発さない俺を見て幼馴染のCは言った。
「じゃあな。あんま思いつめんなよ」
ぽんと肩を叩かれて、傍を離れた。
その言葉すらも俺の胸には響かなかった。
BはCのことが好きだった。
運動も出来てリーダーシップがあって誰からも好かれるC。
対して俺は勉強するしか取り柄がない軟弱野郎だった。
だからCを見返すために、Bに振り向いて貰うために県内の進学校を受験し見事合格した。
その矢先に、これだ。何のために頑張ったのかわからなくなった。
とぼとぼと林道の中を歩いていると、一冊のノートが落ちていた。
ここでは不法投棄やゴミのポイ捨てなんか珍しくない。
普段なら気にせず通り過ぎるが、何故だか俺はそれが気になって足を止めてそれを拾い上げた。
「リバース…ノート?」
白いA4サイズのキャンバスノートに、表紙に英語でそう綴ってあった。
馬鹿馬鹿しい。昔アニメで見たデスノートのパクリか?
鼻で笑おうとしたが、俺はそれが出来なかった。
半信半疑で恐る恐る中を開くと真っ白だった。使われた形跡の見当たらないそれは誰かの落し物なんだろうか。
家に持ち帰って明日クラスの皆に聞いてみよう。
そう思って鞄にそれをしまいこんだ。


「ただいま」
返事はない。母は葬式の手伝いでまだ帰ってきていなかった。
部屋に行って鞄を下ろす。ベッドへ制服のままねっころがった。
何もする気になれなかった。
Bは事故で死んだらしい。
学校の帰り道、山道を自転車で帰宅していたBはそのままトラックに跳ねられた。
そのまま崖下に落っこちてしまったBは翌朝無残な姿で発見された。
Bを跳ねた犯人は逮捕されたけどそれじゃ俺の怒りはおさまらなかった。
くやしかった。
まだ若いBの人生を奪ったこと。
そして何も出来ない自分自身が。
寝返りを打つと、さっき拾ったノートが鞄からはみでていた。
リバースノート。
あれを使えば、Bは生き返るのだろうか。
何かにつき動かれるように再びそれを手に取った。
そばにあったシャーペンを手に持ち、それに名前を書こうとした瞬間。
「ただいまー」
母親が帰ってきた。そして俺の名前を呼びながら階段をあがってくる。
その音に思わずノートを机の引き出しに隠し、再びベッドの中へ潜り込んだ。
「A?あ、寝てたの。今日はもう疲れたでしょ。ゆっくり休みなさい。夕飯はどうする?」
いらない、とくぐもった声で答えると母親はそう、とだけ言い残して部屋を出た。
さっき俺は何をしようとしていたのだろう。
Bがもう生き返ることなんてないのに。
あのノートは明日元の場所に返そう。
そう決心して俺は意識を手放した。

リバースノート①

リバースノート①

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-27

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