初春の夜明け

天埜 梅子

「初春」と言われて「はつはる」と読んだ。
そんなTwitterでの募集お題になります。

 初春の夜明け
 (お題*初春の早朝)
 ――春よ、来い。今すぐ来い。
それが友人の口癖だったことを思い出したのは三月も終わりに近づいたある初春の夜のことだった。
三寒四温とはよく言ったもので、使い古したせんべい布団は気温に侵食されて温かみなんて全くなかった。
仕方がないと膝を抱えてもだもだと考え事をしていた時に、古くからの友人の、それでこそ悪友や親友と言っていいのかもしれない奴の冬の口癖を思い出した。何故思い出したのかと聞かれた場合はわからないとしか言いようがないのだけれど。
 それは、記憶にある限りでは高校生の頃だろう。昼食を終えた昼休み、これから眠気と戦うという重大な任務が待っているというのに友人は今にも眠ってしまいそうな目で窓の外を睨みつけていた。
「春よ来い、今すぐ来い。でないと目玉をほじくるぞー。」
「物騒だなあ。あと、色々混じってない?」
 何やら色々混じっているが友人は暖かい昼の日光の降り注ぐ教室の机にベタリと突っ伏した。
「春、春早くこないかな。春。寒いのヤだ。」
「そうだな、お前、寒いの嫌いだったな。」
「一年中春でいいよ。暖かいじゃん。丁度いいじゃん。お前は?」
「そうね、春よりは秋がいいかなあ。」
「……食いしん坊さんめ。」
 別に食べ物が美味しいだからとか、そういうわけでは無かったのだが目の前の友人は何やらこのやり取りが気に入ってしまったようでくふくふ笑いを噛み締めていた。見えるつむじを人差し指で押すと、抗議の声。
「やーめなさい。」
「……お前も食いしん坊じゃん。」
「そうだよ?」
「じゃあなんで春?花粉滅びろとか毎日のように言ってるじゃん。」
「そうね。なんでだろう。花粉は滅びていいと思うんだ。主にスギの。……、そうねえ、桜が好きだからかね。」
「桜、」
「そ、桜。好きっしょ、お前も。」
「うん、え、でも、」
「だから、」
 突っ伏していた身体を起こして、友人はにっこり微笑んだ。
「だから春が好き。」
 そうだ、コイツはそう言う奴だった。人間たらしというか、こう、恥ずかしいことをサラっと言ってのけるある種の怖いやつだった。
 顔が熱くなるのは初春の日差しのせいだと言い訳して、なんだか無性に腹がたったのでスカシた顔の友人の頭をパーで叩いておいた。グーじゃないのは行き過ぎた友情だと思って欲しい。
 そんなことを思い出していたら、さらに寝れなくなって遮光カーテンの向こう側では雀の目覚ましがチュンチュン鳴っていた。
 春、初春、確かに春は好きだ。暖かいし、なんか幸せになる。ただ花粉は滅びていいと思う。
 自分の体温で温くなった布団の中でもう一度瞑想に浸る。確か、あのあと、仕返しとばかりこんなことを言ったんだっけ。
「春、そうね、春も好きだよ。だって、お前が生まれたのが春だから。だから、だから好き。」
 初春の夜明け。
 そういえば今日はアイツの誕生日だっけ。
 全く眠れなかった仕返し(ただの八つ当たり)に年甲斐もなくおめでとうメールでも送ってみるか。

初春の夜明け

初春の夜明け

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-24

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