物語作家七夕ハル『紙は死んだ!』

 私が再婚した相手は、とても美しい。以前の妻とは、にても似つかない。何より、新しく妻は思いやりを身につけていた。私が新聞を読んでいると、さりげなくコーヒーを置いてくれる。しかも、その甘さ加減は絶妙で、私の専属コーヒー係として、雇いたいくらいだ。それだけなら、まだしも、新しい妻は、スーパーウーマンに変身していた。株への投資で、常に貯金が増えていくばかりだ。私の仕事が、お金目的ならば、すぐに辞めていただろう。それほどに、お金は、十分にある。さらに、妻は男の喜ぶツボを知り尽くしている。特に、何も手伝いをしなくても、家事を完璧にこなす妻は、恐ろしくさえある。「ねえ、あなた。旅行に行きましょうよ」この性癖も私にぴったりあった。私は、仕事のために常に刺激を必要としている。そのために、旅行ほど良いものはない。しかも、妻の選ぶ国は、何の変哲もない、ヨーロッパの一都市などではなく、アフリカから南アジアまで、変化に富んでいる。なぜ、これほどまえでに、前の妻と違うのか、私はむしろ不安だった。何故、以前あの女と結婚したのだろう。思っても、思っても、それが恋愛という悪夢だったと結論づけざるをえない。私たちは、明日のジンバブエ旅行をひかえて、くつろいでいた。私は、妻といるだけで、安心できたし、何を心配する必要もなかった。夜になって愛し合った後に、妻のお尻に奇妙なアザがあるのを発見した。いや、発見したというより知っていたのだ。今の妻は、私の前の妻と同じ人物である。何が彼女を変えたのだろうか?彼女は、離婚して目ざめたという。「自分の人生は、自分で切り開かなければならない」と決意した日、全てが変わったのだ。誰に頼ることもなく、厳しい社会に放り出された孤独な魂は、高貴な孔雀へと変じた。それから、私に依存するだけだった妻は、私にふさわしい女性となった。まったくなんてことだ。前の妻は、嫌いだったけれども、今の妻は、好きなんだ。どうしようもなく愛している。シーザーは裏切られた。さて、私を今度は妻が捨てる番か?おもしろくなってきたな。これ以上に刺激的な人生があるだろうか?二度も同じ女性に惚れるなんて、ばかげているだろう?でも、事実なんだよ。妻は、私を受け入れてくれた。何故に?おそらく女というものは、一度惚れると取り返しがつかないらしい。特に年齢がいくと、その傾向は強い。力を抜いて、旅行先で、妻が言う。私は、言われたとおりにする。妻を信じていたからだ。妻は、私を銃で撃ち、生きている私を埋めた。薄れゆく意識の中で、私は、一つのことを知った。「女は、怖い」ためこんだ屈辱をプライドがそうさせるのか。私は、そのまま埋められて、地上の足音をしばらく聞いていたが、やがて、息が切れて、死んだらしい。そんな一生であったと占い師が言ったのだ。