火星の大統領

セレソン28

 どこまでも広がる赤茶けた大地。そこに点在する空気の泡のようなものは、透明なドームに覆われた居住区である。居住区の間は、これも透明なチューブで繋がれ、この惑星にかつて存在したという運河のように見えた。
 中でも際立って巨大なドームこそ、首都グレートキャナルシティであった。その中央にある、古代ローマのコロッセウムを思わせる円形競技場を、群衆が埋め尽くしていた。
「さあ、お待たせしました。この国の未来を託すべき人物は、この方以外、考えられません。次期大統領候補、ウノ・タロット氏です!」
 割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
 すると、競技場の中央からステージがせり上がってきた。そこには、プロレスラーのような立派な体格の男が立っている。ステージが止まると、男はスタンドマイクに向かってしゃべり始めた。
「今から百年前、我々の先祖は、たった一隻の宇宙船でここに来た。水もない、空気も薄い、赤い砂嵐の吹き荒れるこの惑星に、ただ、自由だけを求めて。先祖たちは、勇気を持って困難に立ち向かい、少しずつ、少しずつ、居住区を広げていった。そして、豊富な地下資源を武器に、ついに独立を勝ち取ったのだ!」
 再び、拍手と歓声。男は満足げに頷いた。
「つい先日、我が国の人口は百万人を超えた。もちろん、経済も成長を続けているから、今後も豊かな生活を維持できるはずだ。しかし!」
 競技場は静まり返った。
「環境の悪化した地球からの移民が年々増え、我々の生活を脅かしつつある!この惑星は、我々の先祖が犠牲を払って開拓し、苦労の末に文明化したのだ!この惑星は我々のものだ!その犠牲や苦労も知らぬ連中に、断じて渡してはならない!」
 男の呼びかけに応えるように、地響きのようながシュプレヒコールが沸き上がった。
「タロット大統領!タロット大統領!」

 その頃、ドームの外側には、この惑星の原住民である、タコのような姿をした生き物が大勢集まっていた。彼らは手に手に、プラカードのようなものを持っている。地球人は知らなかったが、そこには、彼らの言葉で次のように書かれていた。
《この惑星は、元々我らのものだ!》
《地球人、ゴーホーム!》
(おわり)

火星の大統領

火星の大統領

どこまでも広がる赤茶けた大地。そこに点在する空気の泡のようなものは、透明なドームに覆われた居住区である。居住区の間は、これも透明なチューブで繋がれ、この惑星にかつて存在したという運河のように見えた。 中でも際立って巨大なドームこそ......

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-23

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