White egret flower
彼の手が、私の頬に優しく触れる。
擽ったくて肩を竦める私を、彼は微笑みながら抱きしめる。
耳元で囁かれた愛の言葉は、私がずっと欲しかったもので、大粒の涙が次から次へと溢れ出てくる。
それを彼は笑いながら親指で拭っていく。
私の髪を梳いていく彼の指先は、愛おしいものに触れるかのように優しくて、また涙が溢れる。
おでこをくっつけ合って、私は泣きながら笑う。
二人の唇の距離が、少しずつゼロに近づいていく。
はっと目を開けると、見慣れた真っ白な天井が映し出される。
上半身を起こすと、一筋の雫が頬を濡らした。
「夢、か」
それを指で拭って枕元にあった携帯を見ると、アラームをセットした時間よりも少し早かったが、ベッドから出ていつもより少し熱めのシャワーを浴びた。
ウォータープルーフのマスカラをいつもより念入りに塗って、アイラインを目尻より長めに引く。
乾かした髪を緩く巻いて、頭頂部から編み込んでいく。
ハンガーにかかったアイスブルーのドレスに袖を通す。
全体を鏡で確認し、ポーチからあの日以来付けていなかったピンク色の口紅を取り出し、薄い唇に引いていく。
「こんな日に、あんな夢見なくてもいいのに。」
薄く笑って届いた招待状を手に取る。
私宛に届いたカードは、夢の中で私に愛を囁いた彼と、その彼が人生の伴侶として選んだ人の名前が並べられていた。
十年間思い続けた彼から結婚すると報告を受けたあの日から変わったのは、髪の長さだけだった。
その証拠に彼の結婚式当日にあんな夢を見てしまうほどだ。
カードをバッグへ入れて、ネイビーのハイヒールを履いて玄関のドアを開ける。
蛍光灯とは違う明るさに、思わず手を目の前にかざす。
九月に入ったばっかりの太陽は、まだまだ夏真っ盛りの日差しだった。
「いい加減、前に進まなきゃね」
呟いた独り言は、真夏の光の中へ吸い込まれていった。
サギソウの花言葉
『I think you even in a dream.
(夢でもあなたを想う)』
White egret flower
White egret flower(サギソウ)
純白で細やかな切れ込みの入った花姿が、白鷺が飛んでいるかのように見えることから、その名がついたそう。
東京都世田谷区の「区の花」になっている。
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幸せ(http://slib.net/56928)の続きだったり。。。