シャッター・イズ・ヒム

ツイッターの楽しさ、及び怖さ=つながりって素晴らしい?

朝起きて、今日も帯をきりっと締める。

京都に行った際、土産物屋に褌が売ってあるのを見つけ、ふざけて買ったが、二年以上履いてない。
タンスを開けた際、見つけて「あ」と思うのだが、どうも使いどころがなく、迷彩柄のいけてるそれは、まだ封も開けず眠ったままだ。

今朝起きて、下着が大分すたれてきたのを見て、なんとなくタンスをひっかき回していたところ、それが手に当たった。
しばらく眺め、長考する。

街歩きに出た。
ちょっときつかったのか、股が擦れて痛い。締め付けられている感じが大分する。駅前のトイレに入り、帯を若干緩めたところ、落ち着いたので、またデニムを引き上げ、トイレを出た。

キオスクでおばちゃん相手にお茶を買うのは緊張しなかったが、ファミマでお姉さん相手に雑誌を買うのはちょっとどきどきするものがあった。

へへ、俺今褌履いてるんだぜ。そんな安っぽい優越感。
実は変態だったんだろうか。

しかし世の中の褌男子は大体これをクリアしてるのだろう。ただしがっちりかスマートなイケメンに限る。自分は体力はあるが、いたって普通の青年だ。自分では好青年だと思ってはいるが。

今日のファッションは古着サイトで買った半袖のシャツに白のVネックベスト。下はぴったしのさらのデニムに、ワラビーの革靴。頭にはベレー帽。
眼鏡もかけて、少しでも知的に見えやしないかと考える。褌を履くと決めたせいか、大分背伸びした格好だ。

喫茶店に入り、メロンソーダを注文して革鞄からスマホを取り出す。
ツイッター上ではかなりのお笑いキャラを演じていて、「へへ、俺今日は褌履いちゃった~笑」と打つと、「マジか」とか、「漢の中の漢っすね」「この・・・変態が(ペッ」「受けるvv」などなど、文章だけのツイートになかなか返してくれる。
朝に鏡の前で褌を履いた下半身のみ写した画像をあげたので、反響がすさまじい。
「今日は楽しい一日になるな」とほくそ笑みながら、ウェイトレスが持ってきたメロンソーダを受け取り、「ありがとう」と無駄に格好つけた。

褌を履いている。ただそれだけなのに、何だろう、この「俺は周りとは違う」という達観した感じは。
向かいの席でかなりの営業トークを白熱させながらマックを弄るリーマンにすら今なら勝てる気がする。だけど俺はそんな勝負はしない。俺は俺の道を行くのだと、心中密かにぬふふと笑う。

その日は町中をただ散歩して、本屋によって帰った。普段読みもしない活字を買った。


次の日は普通のパンツだった。
ただの青いトランクス。高校のとき母がしまむらで買ってきたやつ。
その日の俺は普通だった。普通にトレーナーを着て、いつもの着古したデニムを履いて、足元はプーマ。背中にノーブランドのリュック。
久々に友達と遊んだ。そんな一日だった。
銃でばんばんとゾンビを打ちながら、「ゾンビ撃退なう」とツイートした。普通に反響があって、それなりに楽しかった。


そのまた次の日、褌の日。
昨日あれから、褌を洗った。褌は色落ちが怖いので、洗面器で手洗いして、ベランダに干しといたら、道から女子高生が「やべー」と言ってスマホを向けていた。
ツイッターを確認すると、「これ、新鮮侍さんの褌ですか?」と、俺のマンションのベランダに吊るされた褌が映っていて、焦った。

「いやいや、俺褌洗ったの今日だから!なにこれ、真似じゃね!?」と返信し、その日は褌を結局履いたのだけど、非常にどきどきした。

いやいや待て待て、履いてる間は誰が誰かなんてわからないんだから、こんな緊張する必要はないんだ。しかしあの女子高生検索したら顔出しもなんもかんも当然のように書いていて、逆にこっちが個人情報大丈夫か。心配になるわ!

「若さってこえー」と怯みながら、俺は今朝調べた女子高生の情報を頭の中で反芻していた。


そのうち、年が明けて四月になった。桜の季節。
仲間と海べりの公園でどんちゃん騒ぎをして、酒に酔った俺達は突如脱ぎだし、「褌愚連隊!」と円陣を組んでわーっと桜の下を走り回り、女子を追いかけ、お巡りさんに「ごらぁ!このクソガキども!」と追いかけ回され、一人、また一人と海に飛び込み、泳ぎだした。
俺たちは水泳サークルなので、泳ぎは得意だ。

わざと平泳ぎで逃げ出し、「あばよー!」とお巡りに叫んで、対岸に着いた。
はーはーと肩で息をしながら、浜辺に寝そべっていると、「パシャ」と音がし、見上げると、こちらは海辺で飲んでいたであろう女子たちがケータイ片手に笑っていた。
俺は立ち上がり、砂まみれになりながらマッチョのポーズを取った。

「褌侍、見参!!」

その後、俺たちは猥褻物陳列罪で捕まり、ツイッターは更なる熱を帯びて炎上した。
俺はその後も褌侍として、世の中の人に広く知られるようになった。

あれも青春だもの。
不思議と後悔はしていない。

「盗撮されました」「またあんたか」俺は警官にため息を吐かれた。

さて、あのツイッター炎上、猥褻物陳列罪によりしばらく刑務所暮らしをした俺だが、俺達褌侍は牢屋の中でもアットホームな歓迎を受け、暗に本物の犯罪者たちから「お前らの人生、まだまだこれからだ」と激励され、三か月後に出所した。

俺はその後、就職活動にも一発で合格し、「君褌侍だよね」と喜んで声を掛けられる中、ツイッターからは追放され、今度はフェイスブックにて活動し、その後も褌を晒し続け、親には怒られ、友人らとは語らいながら、何気に楽しく暮らしていた。

さて、会社も休みのとある日である。

俺は便所の窓を軽く開けて、換気しながら便座に座っていた。
今日のは、大物だな。

やはり昨日の婆ちゃんが送ってきたえのきが効いたか、と俺はいきんで、50センチは繋がっていそうな獲物を見て、ふふんと笑って尻を拭くため腰を浮かした。

と。

「カシャ」

ん?と思ったときには遅かった。

裏の家の窓が開いており、その家のヤンキーな奥さんがカメラを向けていた。
目と目が合う。

にや、と笑ってぱたんと窓を閉めた。

えーっと。
俺は考えた。考えて、警察に電話した。

「盗撮されました」「またお前か」

交番のおっちゃんは俺には懲りている。
はーあとため息吐かれ、で、どこで何を撮られたの、と聞かれ、俺はかくかくしかじかと話した。

「それもういんじゃね?あんた男だし」

そう言われ、でもネット炎上したら怖いんで、ちょっと消すように注意してくださいよ、と頼むと、「わかったわかった」とおっちゃんは言い、そして「身から出た錆だぞ」と怖い声を出した。

はは、はい。俺は笑って電話を切った。

さて、その後、奥さんとおっちゃんが二人で来て形ばかりの挨拶と謝罪をし、俺はいえいえ、俺も悪かったんです、油断してたから、と言うと奥さんが「ふっ!」と笑い、おっちゃんに睨まれていた。

「とりあえず、これ」

と奥さんはこの地で有名な直産物、えのきの束を差し出し、俺は「かはっ!」と思いながら、「ありがとうございます」と慇懃に受け取った。

これでお相子。手打ちと来た。

俺はそのえのきを鍋に入れ、仲間たちと語らいながら食べた。
どいつもこいつも、今日も褌を履いている。

俺達は鍋の前で褌一丁になり、「いーいーなーいーいーなー、にーんげんっていーいーなー」と歌った動画をユーチューブにアップした。
褌侍は、今日も健在である。

シャッター・イズ・ヒム

楽しい花見がしたいです。

シャッター・イズ・ヒム

俺は褌男子である。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-22

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  1. 朝起きて、今日も帯をきりっと締める。
  2. 「盗撮されました」「またあんたか」俺は警官にため息を吐かれた。