三題噺「メイド服」「喫茶店」「女子高生」
――俺は夢を見ているのだろうか。
目の前では、小柄でショートヘアのメイドが優雅な仕草でコーヒーを入れている。
「さ、どうぞお召し上がりください」
微笑みを投げかけるメイド服姿は、まるで店内に咲く一輪の花のようだった。
――しかし、こいつは……。
「どうかされましたか、ご主人様?」
微笑を絶やさない従者喫茶の店員が問いかける。
いや、だってさぁ。
「お前……男、だよね!?」
今朝のことだ。俺は学校で幼馴染の美和子に声をかけられた。
「ねぇ、大和君。可愛い女の子たちが手取り足取りサービスしてくれるお店があるんだけど、一緒に行かない?」
「ぶっ! ……み、美和子。あいにく俺は女の子と一緒に風俗店に行くようなハードな趣味なんか、これっっっぽっちも持ってないぞ!?」
「ふぇっ! ふ、ふふふふふふ風俗なんて!! な、なんてこと言ってるの大和君!?」
「いや、それこっちの台詞だから!」
「で、でででででも大和君が良いって言うなら私は別に……」
「別にじゃねええ! なに勝手に俺を鬼畜な変態にしてんだよ!」
思わず大声を出してしまったせいか、周りから白い目で見られる。
(女の子を風俗に誘うなんて最低……)
(偽物だけじゃ飽き足らずリアル女子高生とのハードプレイとかキモ……)
(大和君ってやっぱり鬼畜な変態さんなんだ……)
「って、やっぱりって言ったの誰だよ! 聞き捨てならねえぞ!?」
「も、もう大和君! ちゃんと聞いてる?」
「お、おう悪い……。それで何だ?」
「だからー、駅向こうに新しい喫茶店が出来たから、今日一緒に行きたいのー!」
「はは、なんだ驚かすなよ。それなら別に良いぜ」
つまりはそういうことらしい。
なんでも最近駅向こうの雑居ビルに、従者喫茶なるものができるらしい。
店員はみんなメイドか執事の格好で、基本的なシステムはメイド喫茶や執事喫茶と大差はない。のだが――。
「なんで突然そんな店に行きたいなんて言い出したんだ……?」
俺のそんなつぶやきは、始業のチャイムによってかき消されたのだった。
そして最初の場面に戻る。
店内で俺たちはなぜか女装したクラスメイトから接客を受けていた。
(おい、どういうことだこれは?)
(え、えええと、あの、その……)
しどろもどろになる美和子の様子からして、健司が働いていることは知っていたようだ。
(まさか、こいつのメイド服姿を俺に見せるために連れてきたのか?)
(そ、そんなつもりじゃないってば。私だって知らないよ!?)
「私が美和子さんにお願いしたんですよ、ご主人様」
健司は柔らかい笑顔から一転して、真剣な眼差しで俺を見つめる。
「ご主人様、いや、大和。俺と――メイドやらないか?」
――俺は夢を見ているのだろうか。
そうだ、きっとこれは夢に違いない。
俺は今日、女装したクラスメイトに「俺と一緒に女装して、奉仕活動やらないか」と誘われた。
これ、なんてエロゲ?
三題噺「メイド服」「喫茶店」「女子高生」