パーティーの招待状【5】
ハナは”それ”を唖然としてまじまじと見つめていました。すると…、
「わん!」
まるでしっかりしろというように、ミミがハナに向かって吠えました。
その声にハッとしたハナ、”それ”から目を離しミミの顔を見ます。頼もしい友達の顔を数秒見つめると、大きく深呼吸、そして再度”それ”に目をやります。
ユラユラ。
“それ”は相変わらず、左右に揺れています。…どう見ても動物の尻尾です。ハナは、ごくりと唾をのみ込むと、意を決してシッポに近づいていきます。
一歩、また一歩…。
ミミはもう吠えていません。しかしハナにぴったりと寄り添い、シッポを睨み付けています。そうして、ようやくシッポに手が届きそうな距離まできたその時です!
ガサガサッッ、バタン!!!!!
急にシッポが扉の奥へ、視界から消えたと同時に食器棚から何かが飛び出してきました。
「きゃっ!」
驚きに、思わず後ろへ仰け反りながら、目をギュッとつぶるハナ。
その目を恐る恐る開いてみると…、
倒されたお酢やらケチャップやらの臭いが漂い、イスや新聞紙が散乱した部屋のテーブルの上その中央に、ようやく侵入者が姿を現していました。ちょうどミミと同じくらいの大きさで、ふさふさと柔らかそうな縞模様のシッポを持っています。体は背中側が焦げ茶色、お腹側は明るい茶色と白色が混じったような細長い毛に覆われていて、顔は目の周りは黒く、おでこはねずみ色で、丸くて黒い鼻の周囲には白い髭が生えています。丸みを帯びた三角の耳がピクピクと動いています。
(なんだ、狸が迷い込んだだけだったのね。びっくりしたわ。)
ハナはひとまずホッとしました。そうです。侵入者は人ではなく、ハナよりも小さな動物だったのでした。泥棒ではありませんし、悪い人と出くわすような怖い思いもしなくてよさそうです。しかし、安心してばかりはいられません。危害は加えられなくとも、侵入者には帰って貰わないといけません。なにより部屋を片づけなくてはなりませんし、これ以上荒らされるのも困ります。今は大人しくしている、ミミもまだ警戒しているようで、ハナにぴったりと寄り添いながら侵入者を睨み付けています。ミミも落ち着かせなくては。
まず、侵入者を外にだしミミをなだめて、物を拾って床を拭いて…、ああ、やることがいっぱいです。
「まったく、困った狸さんね。こんなに部屋をぐちゃぐちゃにして…。掃除が大変じゃない…。」
思わずため息をつきながらハナがそんな風に呟いた、その時です。
「失敬な!!私は狸などではない!私は、レン。まあお前たち人間は勝手にアライグマなどと呼ぶらしいがな。」
突然、ハナの声でも、ミミの声でも、ましてやパパやママの声でもない、低い神経質そうな声が部屋に響き渡ったのでした。
パーティーの招待状【5】