Zero trigger ~漆黒の闇 エピソード0~

 無謀にも、と言うべきだろう
真正面から斬りかかって来たバトラータイプのアファームドへとバズーカを振るう
 当然、普通に振るっていたのでは間に合うはずも無い

 左手をバズーカの銃身に添えて、真っ直ぐに打ち出す
拳法で言うところの発勁に近いモーションで叩きつけられたバズーカの砲身が、衝撃であらぬ方向へとねじ曲がり
攻撃を放った当人が予想していたのを遥かに上回る衝撃が伝わってくる
 
 直撃を受けたバトラーは、その衝撃に耐え切れず後方へと大きく跳ね飛んでいった
決して薄い訳ではないバトラーの装甲は大きく歪み、派手にスパークを撒き散らしている
どうやら、動力ケーブルかコックピットのどちらかへ直撃したらしい
バトラーはそのままがくりと倒れ込み、完全に動きを停止した

 ライデンは、軽くブーストを吹かし姿勢を立て直すと
自分の目の前まで迫ってきていた後続のバトラーに向けて一気に間合いを詰め、前屈みの状態で脇を走り抜けた


 自分の予想に反した行動を取られたバトラーは間合いを外され、トンファーが空を切る
その弾みで僅かながら、機体バランスを崩しふらふらと揺れ動く
ライデンは、その僅かな隙に反撃を試みようと、間合いを計り、身構えた
 だが、相手も歴戦のパイロットだ
反対の腕を軽く振ると、その反動で機体を立って直し、すぐさまこちらに向けてトンファーを構え直す
相手は、あくまで接近戦にこだわる気のようだ
バズーカの使えなくなったこちらにとっては、願ったりな状況だが……


「3機…か」

 正面から接近する機影は、三角形の陣形を取っており、頂点にコマンダータイプが、その後方にストライカータイプが2機確認できる
目の前の相手も含むと、同時に4機を相手する計算になる
 だが、こちらの後続は望むべきも無い
味方の存在を示すマーカーは、既にこの周辺から消え去っているのだから


 唯一幸い、といえるべき事は、現在の位置関係ならば
目の前のバトラーが邪魔になって後続のアファームドからの援護射撃が飛んでくる事は無く
谷間に入り込んで戦闘しているため、敵が横側に抜けるのにも、もう少しだけ時間が掛かるだろう

 ここまでは狙い通りだった
だが、敵も馬鹿ではない

ライデンのレーザーによる一掃を嫌ってだろう
可能な限り広く展開している

(……RNAは叩く、全て、だ…その先にどんな結末が待っていようとも、それだけは変わる事は無い!)

 とは言えど、今が絶望的な状況である事に変わりはない
手持ちの武器も、既に射撃武器としては使えないバズーカが一本残されているだけ
機体に電力はまだ大量に残されているが、機体の装甲も、Vアーマーもかなり損傷を受けている
これ以上の長期戦は不可能といえるだろう

(ならば、やるべき事は!)

 ライデンに砲身が大きく捻じ曲がってしまったバズーカを構えさせ、そこから前方へとダッシュする
機体を覆うゲートフィールドの出力を一時的に上昇させ、加速度を稼ぐ
通常の1.5倍程度のスピードで加速していったライデンは、一気に相手との間合いを詰める
先ほど攻撃を空振りしたバトラーが目の前に迫り、ライデンに向けてトンファーを振るってきた
先ほどの大振りな攻撃とは違い、コンパクトに、確実に相手を捕らえる一撃だ。当然反撃は間に合わない…筈だった


 だが、ライデンにとっては、そこに生じる僅かな隙ですら
今から行おうとしている事にとっては十分すぎるものだった


バズーカのトリガーを引く


 誰かに向けて、ではない。何も無い空間への一撃
Zero trigger、虚空へ向けて放たれたその弾丸は、砲身のねじ曲がったバズーカの中を暴れまわる
強烈な爆発がバズーカから起こり、密着といっても良いほどの距離にいたバトラーが装甲を溶かされ、後方へと吹き飛ぶ
 もちろん、ライデンもただで済むはずが無い
右腕の肘から先と、前面の殆どの装甲をその爆風で失った

 だが、爆風によって吹き上げられた砂が相手の視界を奪い、敵と自機とを完全に切り離す
あまりの出来事に、アファームド部隊は一瞬足を止めてしまった
それが命取りになる

通常では考えられないほど強力で、広い光の帯が、そこにいたアファームド4機を飲み込み一瞬にして蒸発させる
リミッターを外し、出力を限界まで高めたレーザーの一掃が、ためらいを見せた敵を焼き払ったのだ

砂煙の晴れた谷間に、満身創痍のライデンが立ち尽くしている
機体に残った、ほぼ全ての電力をレーザーに回した為、もはやまともに動く事は出来そうも無かった

「ここまで、か」

”彼”は、シートの下の脱出プラグを抜き、完全に変形した胸部ハッチを吹き飛ばした
ライデンの前面装甲はあらかた剥げ落ち、残った装甲も、最後のレーザーを発射した際にその熱で溶けてしまっている
もはや、立っている事はおろか、爆発していないのが不思議な位の有様である

手早く、昇降用のワイヤーで地面に降りた”彼”は、ゆっくりとした足取りでDNAのベースを目指す

(また、生き残ったか…)

”彼”は自分の目の前に広がる”道”を見つめる
その”道”がどこへ続いて行くのか、今の”彼”には分かるはずも無い

 だが、何かが語りかけてくる
今の自分自身が、偽りであるということを……
 その答えが、いつか見える日が来ることを望みながら、”彼”は戦場を後にした



 時にV.C.00a6
この戦いの後、”彼”の戦いは火星へと移る……

そして……



物語は動き出していく、漆黒の闇へ、その中にいるモノを目覚めさせる戦いへと……

Zero trigger ~漆黒の闇 エピソード0~

 とにかく、自分の筆の遅さを呪った作品 
以前に、某所に投稿していた作品がベースになっているのですが、2話に手を付けた辺りで設定やその他が大幅に変わってしまい 
結局日の目を見なかった連載作のプレストーリーになります
 今はまだ名も見えぬ”彼”がこれからどういう物語を紡ぐのか、自分自身の中では既に出来上がっていますので、あとは作者本人の遅筆さとの戦いになります

 以前は完結はおろか、二話目のHPへの掲載すらなされなかったこの作品ですが、今度こそ完結を目指して書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします

Zero trigger ~漆黒の闇 エピソード0~

電脳戦機バーチャロン二次創作、漆黒の闇プレストーリー 電脳戦機バーチャロンフォースの時代を舞台に、表舞台に決して現れることの無かった戦いを描く長編小説”漆黒の闇” そのプレストーリーとなる短編小説です

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-14

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work