月下の孤独

月下の孤独

■宿雨■

今宵は月が見えない夜。
激しく叩きつける雨音があたしの呼吸を乱れさせ
胸に恐怖のスイッチ入る。
爆破のカウントダウンを刻む心臓
あたしの全てが誤作動を起こす。

こんなはずじゃなかった・・・と
たどり着けない未来思考
流れ落ちるは涙じゃなく
紅の雫が
 ぽとりぽとり

嘲笑うように窓を叩く雨の調べ
今宵は月も星もない闇の夜。
悪戯な秒針は、ニヤリニヤリ刻み続ける。
胸掻きむしり滴る紅と闘う 
 残酷なる洗礼は春の戯れ


こうして【私】が【あたし】になってから
何千回の月が昇り
太陽が沈んでいったんだろう
無駄な時間を過ごしていると人はいう
死んだように生きてる意味を問いかける
【あたし】に価値などないのだろうか?

詰め寄る気力さえ消え失せてしまった。
選択肢は降り注ぐ刃を浴び続ける事
人は矛盾の生き物だ。
指一本でぶら下がる【あたし】に
美しい言葉と冷淡かつ残酷な笑みで
爪の間に針を刺す。

 落ちてしまえば偽りの涙と
  ありふれた無念さで嘆いてみせるだろう
 奥歯がすり減るほどしがみつけば
  泥まみれの靴底を【あたし】の指で拭うだろう

こうして人が怖くなり
恋しさも愛おしさも、記憶から消えていく 。
こんな世界があるなんて
【私】は知らなかったんだ 。
きっと【私】も沢山の指を針で刺し
靴の汚れを拭っていたのかもしれない。

【私】と【あたし】
どちらがシアワセで
   どちらが人として正しいのだろう
答えは空に還る時
  月光の奥にみつけるのかもしれない。

雨は止む気配を見せず心も身体も蝕んでいく。
月に祈る事さえ出来ない無情な日々。
春に心を躍らせる人々を
不愛と共に羨む哀しき孤独。
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■陰鬱■

ふらつきながらも歩いてきたはずなのに
    何故、あたしの心は立ち止まってるんだろう

意地悪なほど正確に時は進み続けているのに
    何故、あたしは過去を生きているんだろう


月日の流れ
刻まれている手が物語る
残酷だね、現実は。
確実に時間は流れ、あたしは老いていく。

楽しくても…辛くても…
孤独感に襲われても、
不信感に覆われても
流れる時間に寸分の違いなどない。

『ならば楽しい方がいい』

そうね、誰でもそう思うでしょう
なのに、あたしの司令室は誤作動繰り返してばかりいる

早く光を掴まなくっちゃ・・・
早く1歩を踏み出さなくちゃ・・・

焦れば焦る程、空回りを続け
きな臭さを撒き散らしながらショートして動けなくなる

人が怖い
1人は嫌い
心の中のゼブラゾーン
行ったり来たりで渡りきれない
あたしの未来はぬかるみの雲海

まもなく夜は眠りにつき
静寂は急いで姿を隠す
茜色が空を覆い【いつも】の幕が開いてしまう

今度こそ!の願い虚しく
冷淡な日常は我関せずと流れゆく
夏草絡まり、埋もれゆく花の如く。

あたしの居場所はどこにあるのだろう

月下の孤独

月下の孤独

  • 韻文詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-19

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  1. ■宿雨■
  2. ■陰鬱■