無題

「あたしってへんなのかな」
彼女は唐突に、誰に聞くでもなく、ひとりごとのように、呟いた。
「そんなことないよ。ただ、他人より性欲が強いってだけじゃないかなぁ。」
そう言いながら、キスの雨を降らせてくる彼に身を任せ、喘ぐ声を抑えることなく、彼女は快楽を貪った。
肯定されて嬉しかった反面、そういうんじゃないんだよなぁと、一人ゴチながら、都合が良けりゃいいんじゃねぇかと、心のどこかで、二人を蔑んでいた。

彼女は、つい先日、成人式を終えたばかりの、どこにでもいる平凡な人間だ。
少し他人と違うところがあるとすれば、処女で、でも性的好奇心が旺盛で、オカズが耽美系で、彼氏(という関係なのかは不明だが)が妻帯者というところだろうか。
・・・どうしてこうなった!?
ファーストキスの相手だからだろうか?それともその時の、まるで恋人たちのような雰囲気に充てられてしまったからだろうか?
・・・否。彼に初めてあった瞬間から、彼女の心には、恋の種が植え付けられていてのかもしれない。
初めは彼に妻があることを知らなかった。左手の薬指に光るものがなかったから。
それでもきっと、10歳以上離れているのだから、恋人くらいはいるのだろうと。同時に、もし、万が一にもフリーなら、私にもチャンスはあるのだろうかと、彼女は思っていたのだ。
・・・淡い期待は叶うことなく打ち砕かれるとも知らずに。

その日もまたサークルに行くと、遅れて彼がやってきた。
ーあれ、指輪?・・・やっぱり結婚してたんだ。
そうだよなぁ、と納得する反面、予想以上のショックを、彼女は受けていた。指輪を見た瞬間、心がスーッと冷たくなっていくのがわかった。
ーまぁでも、不用意に近づかなければいい話だし、ダイジョブでしょ。そもそもサークル以外で合うことないし。

そうして、特に何が起こるでもなく、一年が経った。

「今度の週末空いてるかしら?」
サークル長からそう声をかけられたとき、飲み会なら断ろうと思っていたが違ったらしい。
なんでも、全国大会の出場が決まったが、人が足りないらしくこのままでは棄権せざるを得ない状況とのこと。これと言った予定もなかったため二つ返事でOKしたらとても喜んでくれた。
数集めとは言え、半年以上休んでいた私に声をかけてくれたのは正直、嬉しかった。

・・・今思えば、このときから歯車は廻り始めていたのかもしれない。

無題

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  • 小説
  • 掌編
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2016-03-17

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