嘘とSF

「君のことが好きだから、美味い手料理を持ってきてやったぞ」
 と、クラスメイト兼、妹・佐奈の親友であるところの芝岡ヒカリが、夜中に家にやってきた。
 4月1日のことである。
「もう夕飯終わったんだけど。あと佐奈は塾…」
「持ってきてやったぞ」
 聞いちゃいない。というか、この顔は半分くらいふざけている。
 うちに上げるしかなかった。

*   *
 
「……なんだ、この料理」
「フフフ、よくぞ聞いてくれましたよ」
「聞かなきゃ食いもんともわからんのだが…」
 そんな感じの、一言で描写すると、「具材が混在しているオートミール」だ。
 それが平皿に盛られていて、スプーンで食えというらしい。箸では無理だ。
 お世辞にも、美味そうには見えない。
 ヒカリは対面に座し、コーヒーにミルクを入れながら力説する。
「うちのひいおばあちゃん、昔、食品会社に勤めてたんだ。JAXA御用達の、宇宙食の加工してたの」
「う、宇宙食…?」
「昔のだよ。そのレシピ本みたいの残ってたから、ゼロから作ってみた。もちろんフリーズドライ(凍結乾燥)はできないから、温度安定化食品ってやつ」
 ヒカリは胸を張る。
「だから、何なのコレ?」
「お好み焼き」
「ええっ?!お好み焼きかこれ!」
 オートミールっぽいこのドロドロ加減は何だ。
「召し上がるがよいぞよー」
「……」
「よいぞよー」

*   *

「うえー…」
 夜道である。
 気分はすぐれない。
 お好み焼きをミキサーでかけたような感じであった。
 もしかしたら生焼けに近かったのかもしれない。
 具材に火は通ってたから、食えないこともなかったが、ほぼ流動食だった。
 ヒカリを家まで送る義理はないのだが、現にそうしている。
 腕時計は20時を指していた。
 日付が目に入ったところで、ようやく、あらためて気がついた。
「あ、じゃあ、ここまででいいや」
 歩道橋の中腹まで来て、ヒカリは言った。
「おいコラ」
「ん?」
「どこからが嘘だ?全部食ったんだから言えよ」
 ヒカリは僕の手の届かない距離まで進んで、
「『美味い手料理持ってきた』てところから全部」
 と、あっさり白状して、街明かりの中に消えていった。

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  • 小説
  • 掌編
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-17

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