功労者になろう!
ビックリするほど適当に作ってます。
キャラ崩壊するかもしれないので御注意を
功労者になろう!
ある日………
トラックの交通事故、なんてものがありまして、……俺は引かれてしまったのであるが……。
全く、人の命というものはよくわからない。
その存在は重いのにも関わらず、簡単になくなってしまったりする。
次生まれ変わったら気を付けよう。
……なんて、まるで他人事のように教訓を得つつ。
……ただ、死んだらどうなるんだろう……?という不安を抱え、真っ赤に染まっていく世界を眺めながら、走馬灯のような記憶の逆再生を呆然と受け入れていた。
そして、深い眠りへと……誘われる。
……生きている。
「おはようー」
……何かがおかしい。というのは昨日のうちに問題が問題ではなくなっていた。
もう、おかしいとかそんな区分ではなくて、これはもう自分は小説の中に引き込まれたんだと思い込ませなければどうにかなりそうだった。
思い込んでる時点で実際はなってるけど(白目)
そう、俺は―――目が覚めたら、異世界に来ていた。
それもファンタジーな世界だ。幻想的な世界なのだ。この際、どっちも一緒じゃねーかというツッコミは無しにして欲しい。
……とにかく、この世界は魔王が支配していて、侵略を食い止めるために冒険者たちを派遣するという、まんまRPGを思わせるような世界であった。
最初は、ゲームで繰り返し見たような風景を自室の窓から眺めながら『やべー、冒険して夢想してーっっ!』みたいな中二心が小中学生のように活発だった。
……高校生なのにね、俺。
今思うと、相当恥ずかしい子だったよ……。
……だが、だからといってそんな興奮が一日二日と続くわけがない。
そして、ようやくこんな世界に慣れ始めた三日目の朝だ。
俺は妹のセルテに挨拶される。
ちなみにここは四人家族、俺と妹と両親で四人だ。これで五人とか言っちゃうと明らかに両親の生殖方法が疑われるが、そんなことはないのでスルー。
家族設定は死ぬ前の世界の家族構成に妹が追加されたくらいで、まぁ問題はない。両親は顔違うけど。
皆さん出会って初日で家族のように接してくれるので俺は戸惑いっぱなしだったが、……今の俺を見よ!
「…おはようさん」
最初は状況を理解できず、妹(最初は年が近い幼なじみだと勘違いする黒歴史を植え付けられる。要注意)に対して、挨拶ですら緊張しまくりだったこの俺が……。凄い成長じゃないですか!
と、女を見るだけでキョドりまくっていた俺の成長に感激する。いや、マジで道行く女、全員メデューサに見えた。固まるもん。
しょうがないじゃないか……、初対面の女子に挨拶するって、レベル高すぎる。
まあ、三日も経てば素っ気なく、挨拶できるよ。
……というか、誰でも出来るよ。俺くらいだよ、こんなにキョドってんの。
と自身のコミュ力の成長量の低さに嘆いているとセルテは背中にまでかかる髪を揺らしながら、もう農業の用意を始めている。
「あ、ご飯、できてるってー。早く下いった方がいいよ? どうせ、ハルヤ兄はなんもしてないんだろうしさ……」
というか、その文章だと俺がいない間に食事が終わってしまっている、ということになるんですが……。団欒の大切さとか無いんですか……。
まあ、いい。気にしないことにする。
「はいはい、分かった今すぐ行くよー」
しかし、もう朝飯か、早いな……
と思いつつ。ベットから這い出る。前までは、後一時間くらいはぐっすりだったことを思い出しながら欠伸をする。
ちなみにハルヤ兄とは俺のことだ。異世界に来てから違う名前になったので少し呼ばれ慣れない。
セテルはそんな俺のぞんざいな態度が気に入らなかったらしく、
「はいは一回でしょ?」
と、たしなめる。
妹めんどくせぇ………!
昔はあんなに欲しかったのに……!!
(昔、イコール二日前)
「……オーケーオーケー、俺は完璧に何一つ余すところなく全てを理解した。よって、自分の部屋に戻ってもいいぞセテル。」
「はぁ……、本当に分かったのやら……」
と言って、ため息をつきセテルは俺の部屋から出ていった。
そしてまた、考え事にふけるわけだが、
皆さん、……最近飯が非常に旨い。
どうしてだろう、働いた後の飯というものがこんなに旨いとは思わなかった。
……しかし、
……しかしだ、こんなのんびりとした生活を送ってるからこそ思うこともある。
俺は、……この世界に来てから三日経つ。その間、不自由のない暮らしを遅れていると思う。
飯は旨いし、学校もないし。家は農家なので仕事は農作業して、終わりだし。
そう、不自由はないのだ。
……だが、代わりに変わったこともないし、出会いがないし、娯楽もほとんどない。しかし、慣れてしまえばどうってことない。
俺は、セテルが言った『どうせ、なんもしてないんだろうしさ……』という言葉を思い出しながら、食卓へ降りた。
俺は二日目に冒険者になろうとした。つまり、今日が三日目なので昨日の出来事である。
その旨を両親に伝えたとき、俺の頭がおかしいみたいな目をして、一発ぶん殴られそうになった。
慌てて『功労者になりたい』に直したのはここだけの話だ。
……ちょ、ヘタレとか言うなし。
……まあ、そこには俺をぶん殴るに値する理由があったのだ、
もとい、彼らが冒険者を嫌う理由がいくつかある。
理由としてはこうだ。
農家やってた方が経済的だし、冒険には危険が伴うからだ。
というか、この村では冒険者になろうとするやつは一人だっていないのである。
言っちゃえば、
村人『冒険者って「キチガイ」って読むんだよな?』
……こんな感じである。
つまり、冒険者になろうとする者は極上のバカということになる。
逆に、功労者は賢明な判断ということになる。
じゃあ……俺はまんまファンタジーな異世界に来ちゃったのにこれから農家の一族として畑を耕して作物売って、人生を終えるのか?
……そんなことを考えずにはいられない。
なんだよ……それもまあいいかなとか思っちゃってる自分がいるからなんとなく面倒じゃないかよ……、
「困ったなぁ……」
んじゃ、とりあえず冒険者のメリットを挙げてみようか。もしかしたら、両親を言い負かせるかもしれんし、そのまま俺の向上心に繋がるかもしれん。
と思いつき、一つずつ挙げていくことにする。
一、カッコいい
……いや、見た目によるな。
キモデブが冒険者やってたら『気持ち悪い』と思える。
しかし、イケメンが冒険者やってたら『くたばれ死ねッッ!』と思えるな……。
カッコいい程に扱いが悪くなる。矛盾。
二、出会いがある
いや、逆にモンスターとの出会いの方が多そう。確実に死ぬ。
三、一攫千金のチャンス
……いや、モンスターを狩って稼げるお金は命を懸けたお金であることを忘れてはならない。
ライフ イズ ノットマネー。
命は金ではないです。……そうですね。
―――――――ん?
……アレ?ひょっとすると俺の天職は冒険者ではないのか……?
途端に焦りが産まれ俺の頭をフル回転させる。
いや、何処か……何処かにはきっとメリットがあるだろう……? えーと――
・・・10分後
「……チクショウ!!」
本気で頭を抱える。
机をぶっ叩く。うるさいと妹に言われる。
ご、ごめ……ごめんください。
……あれ、脳の調子がおかしいぞ?(震え声)
「……んー、ダメだ。」
冒険者はデメリットしか挙がらない。
そう思うと、少し考えが変わった。
『アレ?……なんで、俺冒険したかったんだろう?』……と。
功労者の方が百倍マシじゃん。
……そのとき、俺の頭に電撃走る。
「…………ちょっと、待てよ。」
功労者のメリット挙げてみようか。
一、カッコいい
必死に汗を流しながら、畑を耕す姿。十分カッコいいと思います。
二、出会いがある?
出会いはない、……だろうけど、この村の農家さんたちの娘は美人が多いと聞く。
なら、自分からなら、あるいは……。(童貞補正)
三、一攫千金を狙える?
土地の改革、新商品の開発、農閑期には日本で食ったものを発売できるかもしれない……、
夢がある。……それも現実的な!
そこで、ガラリと俺のそれまでの意見が変わる。
「なんだ、功労者最高じゃん!!」
天職見つけました。チョロい。
なんじゃこれ?」
村の掲示板のポスターを見て首をかしげる。
『冒険者になろう! イベント』
というタイトル。
内容は、一ヶ月後にこの町に勇者がやって来る。といった感じのもの。
全くと言っていい程興味がないのだが、それはイベント事態であって……
勇者が来るのか、そりゃまた大層なことで……
しかし、冒険者がどれだけのことをすれば勇者だと呼ばれるのかはちょっと気になった。
ポスターを見れば、勇者の戦歴が事細かく記されている。
『勇者 アーサー・レスト』
闇のドラゴン三体を一人で討伐、王都レミュリアに攻めこんだ魔王幹部ザンクスを撃破、西の神殿に住まう創成神サワテルから譲り受けし黄金の聖剣を扱う……等々。
後は、姫様と仲が良く婚約を約束し日夜悪と戦ってるそうです。
吐き気がするね。
どんなイケメン(確定)なんだろう?
あごに手を当てて考えてみる。そして、一つ気になったことがある。
――――――あれ?
「なあ、セテル? この国って勇者いんの?」
本当にRPGみたいな設定が重なってきたな、と思ったのだ。
「いるよ、そりゃあ。……というかハルヤ兄ってば本気で記憶喪失になったんだね………」
「ま、まあな。」
俺がこの世界のことを知るには適当に記憶喪失を装うのが一番良いと思ったのだ。
この流れに乗じて、いろんなことを聞き出す。
「勇者ってどんなやつなの?」
「……えーと、実際に見たことはないんだけど、相当なイケメンらしいよ。人柄も良くて、優しいって噂」
「……チィッ…………!」
「なんで唇噛み締めながらポスター睨み付けてるの!?」
いや、気分で……、だってイケメンがモテるのは普通だけどムカつくだろ?
それと同じ原理。
「……しかし、だ。なんでわざわざこんな村に来るんだ?……こういうイベントは王都ってとこでやった方が良いんじゃないのか?」
どうせ、勇者という冒険者の鏡を見せることで、冒険者の数を増やすためなんだろうが、この村は完全に冒険者を排出する気ゼロだからなぁ……
この村に来たらリンチに会うんじゃないの勇者?
働き手が減るのを防げるし、俺は嬉しいしで一石二鳥!
こりゃあぶっ殺すしかないなッ!
……といった意図(一部略)を含む俺の質問にセテルは思い出しながら、答える。
「やってるらしいよ。お父さんが言ってた。」
親父は新鮮な野菜を売りに王都に出掛けることもあるらしい。
王都に行くときのコツはなるべく値段を下げないため、商品はちょっと高いくらいに設定しておく、だそうだ。
本当、がっちりした商人だと思う。
「抜け目ないな。」
「……週三で、」
「やり過ぎだろォォッ!」
……イベント多いなー、一揆起こせば?
切にそう思った。
週三王都でやって、あと一日地域でイベントやって勇者はいつドラゴンなんぞを一人で三体倒したんだ……。
困惑する俺。
その表情を読み取ったのか、セテルは付け足す。
「……今王都では空前の勇者ブームが来てるんだよ。勇者せんべいとか勇者まんじゅうとか一日完売もあるんだってさ。」
「なんなの?王都の主食ってばせんべいかまんじゅうしかないの?……どんだけ食に寛容なんだよ。」
そうだったら納得できる。
それか、一日一個しか作れないとかだったらな。
可哀想に、王都の人……俺だって、朝は絶対パン一個は食ってるぞ。
「……そういうことではないでしょ……」
その旨を伝えると妹に呆れられる。
「……王都は色んな国から人がやって来るから、人の出入りが多いんだよ。だからお土産として買っていこうってなるんじゃないかな?」
「ほう、成る程な……。」
やっと理解できた。
俺はこの世界に来る前は田舎の方に住んでたから実感なかった。
……だが、勇者は凄いな。
冒険者のくせして一種の社会現象を起こしてやがる。
………じゃあ、俺の出る幕無いってことですね、冒険者やーめた。
ポスターからさっと離れ、家へと歩き出した。
「あれ?帰るの?」
「……おう、やることあるからな。」
ヒラヒラと手を振りそこを去る。
何事も諦めがカンジン。
……あれから、異世界での日々を過ごした。
暇だった日常に新たな娯楽を生んだのは、これまた農作業だった。
俺は親から農地を借り、農業を勤しむのである。
まずは毎日、決めた区画を耕す。肥料を撒いていく。
良い土地を作っていくのだ。
ちなみに肥料は親から買った。……譲ってくれるとかそんなの無かったんや。
甘かった……非常にお安くなかったのは言うまでもない。
後、小遣いがお亡くなりになりました。
……そして、今日も一日が終わり、家に帰る。
いつの間にか、手に豆が出来、腕力がついた気がした。
「………よし、」
握った手には力が籠る。
そんな、実感を認めながら戦いに備える。
両親との戦い(商談)が………ッ!
深夜、机に項垂れながらゴマ粒程の種を見つめる。
商談はバカみたいにうまくいかなかった。
……結局、勝ち取れたのはハツカダイコン数粒だったのである。
チクショウ、なんだってんだ。
『何が20日で育つから簡単よ』だ。
ふざけんなバ●ァッ!(自主規制)
この数粒でモノホンのハツカダイコン同じ数買えるわ!
……種が何処で売ってるのか知らないからその相場も知らないけど、きっと育った野菜より安いには違いない。
……やっと分かった、
農業って……しんどい。
……けど、この数粒は俺にとって大事なものだ。
ちゃんと、育てないと……!
そう決意して十日後、パジャマ姿のセテルは既に作業を始めようとする俺を一瞥する。
「おはようハルヤ兄。……なんか最近おかしくない?……おかしいというか、悪いことじゃないんだけど………」
若干気持ち悪いものを見るような目をされる。
前より早起きをするようになった俺を見て、頭がどうにかなったんじゃないかと思われているらしい。
しかし、家族に対しての設定が増えたのは良きことではないな………記憶喪失にキチガイって重病患者じゃん。
だから、そんなゴミを見るような目で見られても……嬉しくないんです。俺、ノーマルなんで。
このまま妹の好感度を下げてしまうと病院送りにされかねんのでやんわり訂正をしておく。
「おはようセテル。いや、……おかしくはないぞ。俺は生き甲斐とやらを見つけたのかもしれん。」
「あ、そう………、」
めっさ、引かれました。
セテルは椅子を引いて、物理的にも引いちゃう。
……減る好感度、メンタル。
気づけば、セテルは飯を食い始めている。興味なしですか、そうですか。
……まあ、……いい。ホントはよくないけど、
仕事を始めるとしようか。
……外に出る。
家の畑は家の裏に広がっていて、その奥の方に俺の畑がある。秋に入りかけだけあってか景色はふさふさと地を覆う農作物で埋め尽くされている。
大半が麦なので、それはもう広大な金色の海が広がっているのである。
……一方で、俺の畑はハツカダイコン数粒しか育ててないから、規模も少なめだ。
育て始めてから十日経っているのでそろそろ実くらいは出来ててもおかしくない。
期待しながら、畑に向かう。
心ではスキップでもしたいくらいである。したら、気持ちわるがられるからしないけど……、唯一の楽しみだからそう思うくらい許してほしい。
……そうしてる間に畑が見えてくる。手製の案山子が真ん中に刺してある。
ちなみにその案山子、赤いペンキを溢しちゃったので、悪魔が宿ってそうな雰囲気が漂う。
「よーし、着いた。今日も頑張っ―――」
軍手を嵌めて、作業に取り掛かろうとした瞬間、
――――そこには地獄が広がっていた。
畑が、荒らされている。
――――俺は、失神した。
失神って、するもんなんだな……
と、意識を取り戻しかけている俺はそんなことを呆然と考えていた。
例えば、ミュージシャンのイベントだとかでファンの方が目の前にいる本物の歌手に会って失神するとかニュースで何度かあった。
俺の認識で言えば『何かとんでもないことが起こって、そのショックで失神する』という寸法なのだが、この場合だと畑が荒らされていた事が物凄くショックだったんだな、俺は……
なんか、憂鬱な気持ちになる。
……が、俺は大事な畑を荒らされた被害者だ。
加害者には、対価を支払って貰わなければならない。
……たとえそれがまだ実が熟していないハツカダイコンだったとしてもだ。
う、後ろ暗いことなど何もないし、罪悪感なんて考えてやる余地すら……まあ、うん(震え声)
……とにかく、種を買った分の金が戻ってこないと話にならないのだ。
そう思って体を動かそうとする。
……しかし、体が動かない。
ずいぶん寝ていただろうから体は休まっているはずだし、なにより成人男性に近い俺だからこそ体力は残っているだろうに………何故だ?
そう思ったとき……、
頭を誰かが優しく撫でた。
いや……、これは撫でたっていうより……頭をペタペタ触ってる?
目を開けると垂直に太陽があって、眩しさに目を細める。……他には俺の顔を除き込むように少女が一人。
「あの……、退いてくれないか?」
と言うと、彼女は聞きなれない言葉を発して、迅速に俺の傍にあった体を遠ざけた。
彼女は只でさえここらでは見たこともない高価そうな服を身に付けている。……きっと、異国の貴族かなんかなのだろう。
「―――――!」
「ん、なんて言ったんだ…?」
何やら叫んでいる。聞こえようによっては、『しょうゆ、しょうゆ、トンコツ、鶏ガラ昆布!?』と言っているように聞こえる。空耳アワーでMVP取れるレベル。
もしくは、『ダシ取ってんの?』とか思うとこだが……、そういう考えには至らなかった。
……何故なら目の前の少女はまだ実の小さいハツカダイコンを握りしめ、こっちを威嚇するような目付きで――――って?!
「お前かァァァーーーーッッ!」
考えるより早くぶっちぎれました。
「?………。…………、………ッ!」
依然相手は何を言っているのか分からない様子だったが、俺がこの畑の主だということが分かったようで慌ててハツカダイコンを手放した。
………ぽい。
丁度俺の足元に投げ出されるハツカダイコン。
「………ッッ!」
直後彼女がさらに慌て出した。多分、バレないようにそっけなく捨てたかったのだろう。
……さっと取り直す。額の汗を拭き、ふぅ、とホッとしたような息をつく。
「……いや、無理だよ! もうバレてるよ既に!?」
ツッコミ所が多すぎる。
「――――………ッ!………ッッ!」
どうやら、『落ち着いてくれ!』と言ってるご様子。
だが、目の前に広がる惨状にどうしても落ち着いてなんかいられなかった。
あんなに端正込めて育てたハツカダイコンをまるでバイキングのように実だけはしっかり食べ、菜っ葉はそこに置きっぱなし……、
菜っ葉は明日洗ってサラダに使うとして、だ。
どうしてくれようかァ……ッ!
そう思ったそのとき、
……グサッ!
下腹部もとい、股間部から変な音がした。
「ギャーーーーーーーーーーーーッッッ!?」
槍が、俺の●●●に!
………槍が、俺の●●●に!
―――――突き刺さっているゥッ!?
……あれ、何故か痛くないぞ?
よく見れば、血さえ出ていない。
槍はぶらんぶらんとぶら下がっているのに……。
神経麻痺してんのかな……?
……怖すぎるわ。
彼女の方を見やれば、俺の背後の方へ手を振っている。
……誰か助けが来たらしい。
そしてその『誰か』、十中八九俺の股間を槍で貫いた奴である。
抜いたらダメそうなので槍を手で支えながら後ろを振り向く(凄い違和感が股間部を襲う)と、見慣れない長身の男性が立っていた。
真っ黒い羽を持ち、真っ黒い角を持ち、漆黒の鎧を着込んでいる。その姿は噂に聞く、魔王の配下である魔属そのものだった。
「……貴様、姫様に何をするっ!?」
キッ……と俺を睨む男。その顔は至って大真面目だ。
チクショウ、真面目な顔してるけど、コイツ俺の股間に槍をジャストミートさせやがったからな……!
「何をするっ!?」って此方の台詞だよ。
「―――……。」
何やらを呟きながら彼女はその男の前へ行く。
くそぅ……二対一とか……
というか、さっきコイツあの少女のこと姫様とかぬかしてなかったか?
ということはつまり、―――この少女は魔属の姫様!?
……俺に、勝ち目は無い。
……だって俺功労者だもん。そこら辺のスライムといい勝負するくらいには弱いと思う。
瞬殺されるのが目に見えている。
そう思っていると。少女は手刀を作り、男の腹を打った。ゴン、と鈍い音がして彼の体がぶっ飛ぶ。そのまま柵に後頭部があたって倒れ伏した。
「……っごふ!?………キリマンジャロォッッ!?……」
意識を失ったのか痙攣したように動かない。……気絶したようだ。
いや、キリマンジャロォ……ってなんなんだよ……、
まあ、どうせ勢い余って魔属の言葉が出たのだろう。今考えると魔属の言葉、おかしくないですか……?
八割ラーメンに関係してる。
いや、それよりも――、
彼女がゆっくりと膝をつく。その顔は少しだけうつむいていて、
……しかし、何かを決意したような瞳だった。
「……どうしたんだよ?」
―――彼女は土下座していた。
後ろの男を庇うように、
そして、一言。
「『チャーシュー麺、大盛』」
……ちょっとイラっとした。
けど、まあ、そんだけだった。
「ハルヤ兄……変な友達作ってこないでよ……、」
セテルにウザそうに言われる。友達?……そんなもん、知らん。
「うっさいなぁ………いや、友達じゃねぇよっ!?」
いきなり、人外連れてきて友達だと思える精神力を分けて貰いたいくらいだ。
「あっそ、……でも、魔属とは友達にならないでね?」
主にクライスのばっさばっさとたなびく翼を見て言う。
セテルはうぇーと嫌そうに言って逃げるように去っていった。
「だから……違うのに……、」
彼女、魔王の姫エスタとそのお付きの部下クライスは家の食卓へとやって来ていた。
エスタは物珍しそうに、ジャムのビンを開けたり閉めたりして、最終的にはそれを舐め顔を和ませていたが、クライスは堅苦しく椅子に座って動かない。
そんな二人にお茶を出す。俺特製のハーブティだ。
「はい。」
「すまない、頂こう。……『エスタ、きくらげ、紅しょうが……!』」
ピン、とエスタは反応しハーブティにありつく。
あれで呼んでいるらしい。……マジですか。
では、彼らが飲んでいるうちに両親にどう説明するか、考えないと……。
―――魔王城のある国、シュガンテイト。
この国には、魔王が二人いた。
前魔王の子供、それが双子だったのだ。
全く同じタイミングで生まれた二人は兄弟の差なんてものはなかった。
……その後、前魔王が死に、二人はこれからシュガンテイトをどう発展させるか、二つの意見に別れたらしい。
保守派と侵略派に。
エスタの父、タナトスは保守派。
もう一人のタナトスの兄弟ヒュプノスは侵略派に回った。
保守派はシュガンテイト内での発展を進める。
侵略派は他の国を攻めることで、その国を侵略。その国の技術を奪うというものである。
……長い間、その二人は政治家のように論争を続けることになる。
その末、若干の差でタナトスは票をヒュプノスより集め、タナトス政権によりシュガンテイトでの発展が行われていた。
………が、タナトスの方の寿命が先に来てしまった。
そのせいで保守制度は破綻し始め、残されたエスタ達は一気に劣勢になったそうだ。
よって、今ではその侵略派が大多数なため、現在人間側と魔属側での合戦が行われているという訳である。
そこで、エスタ達は考えた。
もう一度保守派政権を得るためにはどうすればいいのかを……、
そこで、問題となるのが栄養問題である。
シュガンテイトには荒れた土地が多く、気候も悪い。
野菜が育たない。
――つまり、ビタミンが、取れない。
魔族でも栄養失調になるんだな、とか思ったが、これが大きな栄養問題である。
そこで、タナトス政権はサプリによる栄養管理を行う制度を発表したのであるが、ヒュプノス政権になってからはそのサプリ制度がおざなりになってきて、魔属の健康状態が悪くなっていっているのである。
……そして、新しく発足させる魔王タナトスの娘エスタを筆頭にする。エスタ党が『荒れた地の開墾、野菜の栽培』をマニュフェストに掲げて動き出したのである………
功労者になろう!
うーん、異世界ものってこんな感じなのかな?