少年は大人にならず
小学六年生。体も大きくなり、最上級生ということで自分たちが偉くなったような気分になる、そんな学年。四月の始業式の朝、新入生に次いで浮かれているのは、お兄さんお姉さんぶっている彼ら彼女らかもしれない。だが、浮かれていない少女が一人居た。彼女は真新しいランドセルを背負って不慣れに道を歩く一年生たちを眺め、自分が一年生だった頃を思い出している。
数年前は自分のあのくらいだったのに、今では彼ら彼女らはとても小さく見える。少女は自信の肉体の成長を実感し、今ならどれくらい男性を魅了できるだろうかとか、どれくらい男性から精を搾り取れるのだろうかなどと、少女は小学生どころか人間かさえ怪しいことをぼんやりと考えた。
「ああもう、気分悪い」
自分の考えに嫌気が差した少女は思考をやめ、一人で顔を横に振る。半分とは言え、自分は人間なんだと言い聞かせ、気持ちを落ち着かせた。
「ママが余計なこと言うから!」
彼女の母親はサキュバスだった、淫らな行為と引き替えに男性の生命を吸い取る人間社会の中では希有な人種だ。
「娘が処女で恥ずかしいなんて、どこの常識よ」
純血のサキュバスであれば、この年頃で男性を誘惑した経験がないこと、未だ処女であることは恥になる。そう母親に教えられ、催促されたため少女の意識は過敏になっていた。彼女にとって、淫らな行為に対して抵抗を感じないことが一番恐ろしい。ただでさえ、自制しなければ感じやすい体だというのに。
それでも、自分には人間である父親の血が流れている、純度百パーセント夢魔の母親でさえ人間社会に隠れ住んでいられるのだから、自分が普通の人間として暮らせない道理はないと少女は考えていた。
そう、考えていた。少なくとも学校が始まり、教室の席決めが終わるまでは。
「なんで日向(ひゅうが)が隣の席なのよ!」
彼女の隣になったのは詮索好きで皮肉屋な日向という男子生徒だった。去年の末頃、彼の兄が行方不明になるという事件があった。母親曰く、どうもその事件は怪しい。人間以外、つまり自分たちの側の人種が絡んでいるかも知れないから気をつけろと警告を受けていた。嫌味な男子、しかも曰く付きかもしれない相手と四六時中隣の席に座らされて、本性を隠し通す自信が少女にはなかった。
「隣の席は藤堂(とうどう)か。それとも、さやかさんと呼んだ方がいいかな?」
何を思ったのか、日向は女子であるさやかに握手を求めてきた。
「何手ぇ出してるのよ、変態」
さやかの変態という言葉に、日向はわざと驚いたような反応を返す。
「へぇ、握手は世界レベルの挨拶だと思ってたけど、さやかさんの中では変態のすることだったのか。ボクの中の常識を覆されたよ、日本の中には握手を変態の行為だと思ってる人間がいる、ああビックリした。いや、ひょっとしてここは日本じゃないのかな? ああ、さやかさんの頭だけ海外なのか。ごめんごめん、気付いてあげられなくて、知恵ある人間としてここはボクが折れるべきだね」
そう言って、日向は手を戻した。あからさまな挑発に、さやかの耳がどんどん赤くなっていく。
「頭悪いんじゃないの? 女の子の手握ろうとしちゃってさ、セクハラじゃん変態!」
「握ろうとしたって、冗談言わないでくださいよさやかさん。ボクは手を差し出しただけで掴もうとはしてませんよ? まさか手を広げただけで掴もうとしたように見えましたか? 自意識過剰って言うんですよ、そういうの」
さらりとかわす日向を前に反撃のすべをなくし、さやかは黙るしかなかった。ここで変態変態とののしったところで騒ぎになるだけだ、ことが大きくなっても向こうは何もしていないうえに一対一だ、相手を負かせる見込みはない。
「最っ悪!」
日向に聞こえないよう吐き捨て、さやかは机の上に顔を埋めた。
始業式のある日ということで、今日は給食がなく各自弁当持参だった。下級生たちはすでに下校しており、六年生だけが始業式の片付けのために午後まで残されている。
「まったく災難だよね藤堂……いや、さやかさん」
「気安く話しかけないでよ、あとさやかさんはやめて、藤堂って呼んで」
教室ではすでに仲のよいグループ同士が席をくっつけ、お互いの弁当を見せ合っている。対して、ほとんど友だちづきあいのないさやかは一人で机を動かさず弁当箱を開いていた。そして皮肉屋で知られている日向も、当然グループに入れるわけもなく、結果二人は同じ場所に取り残されていた。
「ごめんごめん。話しかけようにも近くには藤堂さんしかいなかったから」
「じゃあ別の場所に行きなさいよ」
「なんでキミのために移動しなきゃならないの? あまり動くと他の人の邪魔にだってなるよ」
ああそう、と小さくつぶやきさやかはこの憎たらしい男子との時間が一刻も早く終わることを願い弁当箱を開いた。幸運なことに大好きなだし巻き卵が入っている、さっさと食べ終えてしまおう。
「おや、おいしそうな弁当だね。うらやましいよ」
さやかには嬉しい言葉だったが、皮肉だろうと思うと無性に腹が立ってきた。仕返しに相手の弁当も覗いてやろうと顔を上げると、同じだし巻き卵だった。
「なによ、あんたも同じじゃない」
「全然違うよ、こっちのを作ったのは妹だからね」
「妹が作ったって、え?」
さやかは改めて日向の弁当箱の中身を見た。綺麗に整頓されており、むしろ自分の母親が作ったものよりおいしそうに見える。これを自分より年下の女の子が作ったなんて信じられなかった。
「ま、前は兄さんが作ってたからそれに比べればマシなんだけどね」
「あ……」
そうだ、こいつの兄さんは行方不明になっていたのだとさやかは思い出す。それにしても、と思った。兄や妹が昼の弁当を作るのは不自然だ。日向には両親だとか祖母だとか、そういった世話をする肉親はいないのだろうか、もし居たら何をやっているのだろうか。など、さやかは考えを巡らせた。彼のねじ曲がった性格は、家庭が原因なのではないかとも考えた。
「でも、妹さんが作ってくれるならいいじゃない。ありがたく食べなさいよ」
「妹の料理なら毎日食べてる」
「ま、毎日って、嘘でしょ?」
「嘘だったらボクも嬉しいけどね、本当だよ、前は兄さんが作ってたけど。どうせお前も、ボクに作れとか思うんだろう? 兄さんは勝手にやってた、今は妹が勝手にやってる、それだけなのに、みんなずいぶんとボクに攻撃的で困る」
さやかの常識では考えられなかった。あまりに世界が違いすぎて、実感がわかなかった。
「ねえ、神崎(かんざき)の家って」
「父さんも母さんも生きてるよ、家に寄りつかないだけだ。ボクの家が気の毒かい? おあいにく様だ、もっと悲惨なところはいっぱいあるさ、知らないだけでね」
日向は顔をかがめて笑っていた。顔に影がかかり、下から見つめる瞳はどこか病的ですらある。さやかは日向の顔を見て、普通なら避けるだろうなと思った。
「ん」
さやかは自分の弁当箱を日向に差し出す。
「なんだよ、これ」
差し出された日向は何のことかわからず、きょとんとしている。
「わたしの弁当、おいしそうなんでしょ? 同じおかずだし、交換してあげる。あとで箱返してよね」
さやかは返事を聞く前に日向の弁当箱を奪い取り、辛うじて親交のある女友達のグループに無理矢理入り込んだ。
さやかが食べ終わり席に戻ると、空になった弁当箱が置いてあった。
午後の時間は体育館の片付けだけだ、六年生の全員が体育館に集められパイプ椅子の片付けをしている。教員たちが指導し児童たちがせっせと片付けをする、一時間もかからず終わる予定だ。
「どこいったんだろ、日向のやつ」
さやかは日向を探したが、見つからなかった。昼休みの弁当について一言くらい言ってやるのが礼儀かと思い昼休みから探しているのだが、結局会えず五時限目に入ってしまった。日向は不愉快なヤツだが授業をサボるほど不真面目ではなかったはずと思いつつ、さやかは作業の忙しさに忙殺され次第にそのことを忘れていった。
「離すんだ、ボクが何したって言うんだ!」
すでに人気の消えた三年生たちが使う男子トイレの中、日向は同級生二人に腕を握られ、トイレの個室に押し込められていた。
「何をした、だってさ浩二(こうじ)。散々人の悪口言っといてよく言うぜ」
太った体格のよい男の子は、連れ合いの男の子に話題を振る。
「まったくだ」
浩二と呼ばれた男の子は同調し、日向の下半身に目をやった。ズボンとパンツが脱がされており、小さなチンコが風にさらされている。
「驚いたぜ、なんか妙に甘酸っぱいにおいがすると思って来てみたら、こんなことになってるんだからな!」
体格のよい男の子は日向の右足に手をかけ、無理矢理洋式便器に座らせた。さらに足を持ち上げ、おしりの穴が見えるようにする。日向の臀部には肛門ともう一つ、本来男にはない穴が付いていた。見られたことで、日向は足をばたつかせて抵抗する。
「さっきいきなり出来たんだ! においだって……だから隠れてたのに、なんで!」
あまりに暴れるので便器から落ちそうになるが、それを浩二が抱き留めた。
「隠れてただってよ、怪しいよなあ龍彦(たつひこ)」
龍彦と呼ばれた太った男の子は同意し、日向の足を掴んだまま屈んで二つの穴をマジマジと見つめた。
「ああ、怪しい。ひょっとして発情してるんじゃないか? 本で見たことがある、チンコもマンコも付いてるヤツ、ふたなりって言うんだぜ。すごいエロいことしてて、回りの男までエロい気分になっちまうんだ」
「なるほど、だから日向なのにドキドキするのか」
「そうかもな、日向なのにな。オレもすっげぇドキドキする」
のぞき込みながら雑談する二人の男児を前に、日向は心臓が破裂しそうだ。
「み、見るなよ! ボクは男だぞ、ドキドキするなんて変態じゃないか!」
二人は腕力、体格ともに日向より勝っている。ケンカになれば勝てない、一方的に殴られるかも知れないという恐怖で日向は動けないが、まだ虚勢を張る気概は残っていた。
そんな勇気をあざ笑うように、龍彦が日向の顔をのぞき見る。
「う、うるせぇな! だいたいお前がふたなりなの隠してたのが悪いんだよ」
「ひょっとして普段悪口ばっか言ってたのは、隠したかったからじゃないのか?」
言いながら顔を近づける二人に、日向は思わず大声を上げる。
「違う、そんなんじゃない!」
しかしそんなことにはお構いなしに、二人は日向の裸になった下半身に手を伸ばした。龍彦は親指と人差し指に自分の唾液を絡めると、それを二つの穴に突き入れる。
「うああ、やめろ!」
トイレのタンクを揺らし、日向が大きく体を揺らす。それを見て浩二は、たたきつけるような勢いで自分の体で日向の体を壁に押しつけるようにして動きを止めた。
「がはっ」
目を白黒させる日向に、低い声で浩二が警告を加える。
「騒ぐな、ボコるぞ」
浩二の容赦を知らない瞳に、日向は萎縮し声をかみ殺す。穴に突き入れられた指は今も無造作に動き、好き勝手にいじられている。
「いっ、痛い……」
「おいおい浩二、弱いものイジメはよくねぇぞ」
日向の足を掴み、穴をいじりながら龍彦はニヤニヤと笑っている。
「穴に指突っ込んでるから痛がってるんじゃないの?」
「いや、今のはさすがになぁ日向よ」
日向は答えず、ただ息を荒くするばかりだった。二人をにらみつけているが、その目つきはどこか色っぽい。日向自身は今の状況が思ったほど嫌ではないことに違和感を感じていた。
「なんだこいつ、急にしおらしくなって」
「怖すぎて吹っ切れちまったか? ちょうどいいや浩二、お前もこっちこいよ」
日向が大人しくなったのを見て、浩二は龍彦の横に並び日向の二つの穴をのぞき込む。親指と人差し指でコの字を作ってグニグニと長くもみほぐしていたためか、中から透明な液体が少しずつ出てきている。
「なあ、なんか濡れてないか?」
「ああ、おもしれぇな、もっとやってみようぜ」
二人にオモチャにしている間、日向の心臓は恐怖に高鳴り続けていたが、そのリズムに少しずつ変化が現れていた。日向は気のせいか、さもなければ怖すぎておかしくなったのだと思った。なぜならその高鳴りは、彼が自慰行為をするときに感じるものと似ていたからだ。
「おい、日向のチンコ、勃起してきたぜ」
「ひょっとして気持ちいいのか?」
違う、と言おうとしたが声がかすれて言葉にならなかった。日向だけでなく、彼を襲う二人の少年もまた、性的興奮に支配されつつあった。それが不自然なことだと、わからないほどに。
「なんだ、ビビって喋れねぇのか」
浩二に顔を捕まれても、日向はおびえた瞳を返すことしかできない。
「なぁに、大人しいほうがやりやすいってもんだろ。オレはもう我慢の限界だぜ、浩二」 龍彦はズボンを下ろし、小さいが勃起した生殖器を露出させる。それを見た浩二の表情はあまりよくない。
「本当にやるのか龍彦、一応日向だぞ?」
「なんだよ、お前興味ないのか? 入れたらどんな感じか」
ないのかと言われれば、興味はあった。浩二も頭では相手が男だと思っても、半裸の日向が足を広げて小さなチンコとマンコを広げている光景は、彼をすっかりその気にさせている。むしろ龍彦の存在が、浩二にとって理性を食い止める歯止めになっていた。
「そりゃ、興味はあるけどよ」
「それによ、なんか今日は入れたい気分なんだ。な、前の穴に入れさせてやるから、一緒に入れようぜ? オレ後ろでいいから、な?」
やりとりを聞き日向は目を見開くが、二人は気付かず話を続ける。
「ま、まあそこまで言うなら入れようかな」
自分によい口実の出来た浩二は二人に続きズボンを脱ぎ、まだ毛の生えていない生殖器を露出させる。狭い個室に勃起した小学生のチンコが三つ、行為の前に空気がほんのり湿気を帯びてくる。
「そういうわけだ、ほら壁に手ぇ付けよ、日向」
龍彦は日向を立ち上がらせ、便器のある壁のほうに向かって立たせ手を壁に付けさせた。もはや日向に逆らうだけの勇気は残っていない、ただ言うとおりにするのが精一杯だった。
「そうだ、そう。で、こっちにケツを突き出せ。おい、穴が見えないぞ。尻に力入れろ、もっと開けよ」
日向は言われるがまま、尻の穴が大きく広がるよう力を込める。龍彦に無理矢理押し広げられたときと違い、自分から穴を見せる行為は恥ずかしいという気持ちを強く起こさせる。同時にその恥ずかしさが胸を高鳴らせたがそれは気のせいだと日向は振り払った。
「へへ、それじゃあ入れるぞ」
左右の腰と臀部を掴み、日向の尻の穴を広げるように持って龍彦は自分のチンコを肛門に押し当てた。先っぽから伝わる暖かさに興奮は更に高まり、そのままグイとチンコを中に埋没させていく。
「ふあっ! あ……」
「おおお!? きつくて暖かくて……」
未知の快楽に身を震わせた後、龍彦はさらなる快楽を求め更に奥へとチンコを食い込ませる。
「うああ、あああ!」
日向はたまらず叫ぶが、その顔は苦痛より快楽に歪んでいた。初めてのはずなのに、嫌なはずなのに、感じることが止められない。悔しかったが、小学生の日向にはそれを止めるほどの自尊心や倫理観は育ちきっていない。幼さ故に、感情がストレートに出てしまう。
「なあ、オレにも入れさせてくれよ」
心地よさそうにする二人を見て、浩二はいても立ってもいられなかった。チンコは更に大きくなり、痛いほどだった。気付いた龍彦が持ち前の体格を活かし日向を抱き上げ、チンコを入れたまま洋式便器に座る。
「ほれ、待たせたな。気持ちいいぞ」
「いや、やめて、言うこと聞くから……」
息を荒げながら、日向がかすかな抵抗をする。しかし、性欲に火が付いた浩二には油を注いだだけだった。
「じゃあ、オレのチンコをお前のマンコに入れさせてもらおうか」
のしかかる浩二を日向は押し返そうとしたが、その手を龍彦が押さえた。
「なんだ、後ろはいいのに前は嫌なのか?」
「お、オレは男だ、前に穴なんてない……」
泣きそうな顔の日向に向かって、浩二が意地悪そうにほほえむ。
「おやぁ、オレって言い出したぞ? ボクなんて気取った言葉づかいをする余裕はもうねぇみたいだな。え、お嬢ちゃんよ!」
浩二は日向の穴にチンコをあてがうと、一気に勢いよく奥まで突き入れた。龍彦と違い遠慮などなく、力一杯腰を押しつけている。
「いっ! 痛いいいいいい!」
さすがに堪えた日向は泣き叫び始めるが、それをうっとうしく思った龍彦が日向の口をふさぎ、黙らせたまま行為は再開された。
「ふぐううううう!」
暴れる日向を二人がかりで押さえつけ、二人の少年は初めて味わう肉の穴の快楽を存分にむさぼった。そしてそれを受け入れる日向も……。
「うおっ!」
最初に達したのは龍彦だった。体の中に精液を出されて日向はうめくか、射精感からくる筋肉の緊張で口はさらに強く押さえつけられる。
「ふぐぅぅう! ふぐ、ふぐううう!」
ひときわ強く力を込めたため、日向は我慢しきれず射精してしまった。前にのしかかる浩二の服に、日向の精液が飛び散る。
「うわ、お前穴に入れられただけで射精するのかよ、まるで女だな。じゃあ、オレも遠慮しないぜ!」
浩二はチンコを激しく抜き差しし、思い切り不覚突き刺して日向の中で射精した。日向もそれを感じ、自分の中に熱いものが広がるのを感じた。射精した後の脱力感に加え、マンコに射精されたという事実が、日向の正気を奪っていく。
「ぐ、う……」
精液を掛けられた浩二はチンコを抜き、服の汚れをトイレットペーパーで拭き始めた。
「はぁはぁ、気持ちよかったが服が汚れたな」
不満そうな浩二に、日向の後ろから龍彦が抗議の声を上げる。
「いいじゃねえかそれくらい、こっちはずっとこいつをかかえてんだ。結構きついぞ、この姿勢」
「ああ、悪かったよ……あれ、日向動いてなくね?」
「そういや大人しいな」
日向を床に下ろしても、ぼんやりと前を見つめたまま動く気配がない。そんなとき、五時限目の終わりを知らせるチャイムが廊下から聞こえてきた。
「まっず! みんな教室に戻ってくるぞ」
「龍彦、悪いけどごまかしといてくれよ。この服じゃ教室戻れねぇよ」
龍彦は浩二と日向を見て、仕方ないという顔で急いでズボンをはき、一人教室へ走って行った。二人きりになり、浩二は日向に話しかける。
「おい、お前意識あるだろ」
日向は答えない。が、かすかだが普通より呼吸が荒い。浩二は日向が芝居を打っていると思った。
「オレは見逃さねえぞ。おい日向、ふたなりなのをバラされたくなければオレのチンコをなめろ。本で読んだことがあるんだ、こうすると気持ちいいってな」
浩二は日向の髪の毛を掴み、自分の股間の前に顔を近づけさせた。痛みはあるらしく、日向は素直に従う。
「ほら、始めろ」
言われるがまま、日向は浩二のチンコを口に入れてほおばり始めた。綺麗にするように、舌を使って隅々まで舐め取っていく。
「うわっ、歯を当てるな……うっ!」
日向の口の中で浩二が射精した。日向は苦しそうにするが、浩二は耳を掴んで厳しい調子で命令する。
「何だよ、精液くらい飲めよ」
もはや思考を諦めた日向は、またも言われるがまま精液を飲み込み舌を這わせ精液を舐め取っていった。終わって口を離し、おびえた目で浩二を見上げる。
「ん、ああ。上出来だ」
たった一言褒められただけで、日向は不思議と満たされる思いがした。悲しかったのに、辛かったのに、痛かったのに、どうしてそんな気持ちになるのか、理由はわからなかったがとにかくうれしかった。
「ほら日向、お前も帰る支度しろよ」
まもなく龍彦が三人分のランドセルを持って現れ、三人の少年は何事もなかったかのように帰宅した。
翌日、日向は学校を休んだ。昼食以降会えなかったこと、結局弁当箱を返し損ねたことなどから、さやかは彼のことが気がかりだった。
「どうしよう、これ。あいつの家に持っていくのもなぁ……場所知らないし」
妹に渡そうかとも思ったが、自分が作った弁当を兄が食べなかったと知ったらどう思うだろうと考え、躊躇した。結局何をするでもなく、授業を受けるだけ受けさやかは帰路へ付くこととなった。
学校からしばらく歩き、家も近づいてきた。さやかは通学路を離れ人通りの少ない脇道へと入り、まっすぐに家を目指す。すると土手の影から突然小さなものが飛び出してきて、彼女の目の前で制止する。
「お前、サキュバスだな」
見ると、それはとても小さいが人の形をしていた。背中に羽が生えており、袖の長い古風で洋風な服を着ている。これは妖精というヤツだろうとさやかは思った。
「半分よ、お父さんは人間だもの。あなたは妖精?」
妖精らしき生き物はすぐには答えない。何か怒らせることをしたのか、彼女はさやかに対して厳しい目を向け腕を組んで目の前で浮いている。少し間を置いてから、彼女は答えた。
「そう、オレは妖精だ。ではもう一つ聞く、お前は日向に何をした?」
さやかは疑問に思った、なぜここで日向の名前が出てくるのだろう。そもそも妖精はなぜ自分がサキュバスだと知っているのだろう、見れば分かるものなのだろうか。
「ひゅうがって、何の話よ」
警戒し、さやかは日向について即答することを避けた。しかし逆効果であったらしく、妖精は怒り心頭といった様子で声を張り上げた。
「しらばっくれるな! お前と同じクラスの神崎日向、あいつに何食わせた!」
「食わせたって……な、なによその言い方! お弁当交換したのがそんなにいけなかったわけ!?」
気恥ずかしさから、反射的にさやかも同じように声を張り上げていた。そして言葉にしてから、暴露してしまったことに気付き恥ずかしさがこみ上げてくる。さやかが顔を赤くして頭を整理できないでいる間、妖精は何も話しかけては来なかった。
「そもそもなんで日向がわたしの弁当食べたこと知ってるのよ! 妖精だかなんだか知らないけど、あんたわたしに何の用があってここに来たわけ!?」
ようやく反論が頭に浮かんださやかが強くでると、妖精はうつむきがちに応対した。
「いや、その……お前の弁当って、いつも薬とか入れてるのか?」
先ほどの勢いを失った妖精から出た質問は、さやかにとって予想だにしないものだった。
「薬? 入れてるわけないでしょ! そんな物騒な弁当作ってたらパパが気付くわ!」
さやかの回答を聞くと、妖精はすっかり落ち込んでしまった。わけがわからない、という風にさやかはただ立ち尽くす。
「ふふふ、だから言ったろうカルディナ。気は済んだか?」
いつの間にか、さやかの隣に長身の外国人がファイルを片手に腕組みして立っていた。さやかは驚いて飛び退くも、外国人は意に介してはいないようだった。
「なんだお嬢さん、魔法使いを見るのは初めてか?」
「なんなのよあんたたちさっきから! わたしを驚かせたいの?」
「そんなつもりはないが、お嬢さんは驚くと思うよ」
自称魔法使いは意味深なことを言いながら、ファイルを開きさやかの目の前に見せた。そこには理科の授業で見るような難しい記号や単語が書かれており、何が書かれているかはわからなかった。
「なに、これ」
「薬の成分表だ、生物をふたなりにする効果がある」
さやかの質問に対して、魔法使いはさらっととんでもない言葉を口にした。
「ふ、ふたなりって、あの?」
ハーフとは言えサキュバスの娘、母親から夢魔としての知識を仕込まれているさやかはふたなりについて知っていた。
「そう、男性器と女性器、両方を持つ両性具有の状態にする薬だ。しかもこの薬、服用したものとその周囲の男性の性欲を極端に高める作用まであった。なんでこれをわたしが持っていると思う?」
引っかかるものはあったが、すぐにはわからなかったさやかは魔法使いになぜかと質問する。
「模造(コピー)したからさ、日向少年に飲まされた薬をね。その現品がこれ、珍しい色をしているだろう」
魔法使いは赤い液体の入ったフラスコを差し出した。白ワインのような色をしているがうっすら青みがかっている。ここでさやかは察した。
「おばあちゃんが送ってきた薬……」
純粋なサキュバスである母方の祖母は普段からさやかとその母を人間社会から自分たちの社会に引き入れたいと考えている。さやかが男を誘惑しないという話が母から伝わったとしても、不思議はないだろう。魔法使いの話した薬の効能は、さやかを誘導しようとしたのなら自然な効果だ。そして何より、さやかの母は祖母に逆らい切れていない。弁当に薬を入れたのは、作った彼女の母親と考えるのが自然だ。
「魔法使いさん、たぶん、お弁当に薬を入れたのは……」
「ああ、わかってるよ」
やさしげな返事にあっけにとられるさやかに、魔法使いはまず自分の名前がフェリウだと言うこと、さきほどの妖精とのやりとりでさやかが嘘をついていないか魔法でのぞき見ていたことなどを話して聞かせた。
「実を言えば、わたしはある程度相手の考えていることがわかる。キミがハーフサキュバスだから少し読みづらかったけれど、犯人じゃないことくらいはカルディナが声をかける前からわかっていたのさ。今キミが具体的に考えたおかげで大方の事情も掴めた。というわけでキミは白、キミの潔白はわたしが証明しよう」
「それは、どうも」
さやかは少し安堵したが、すぐ新しい不安に襲われた。彼女の母親はさやかに薬を飲ませた理由だ。女として誘惑する気がないなら、男として襲わせようとでも考えたのだろうか。
「あっ! ねえ魔法使いさん!」
「フェリウでいいよ、わたしもさやかと呼ばせてもらうから」
「じゃあフェリウさん、日向は、日向はどうなったんですか!?」
さやかが案内されたのは、小ぶりな戸建ての住宅だった。立派ではないが古さが目立つわけでもない、庭にもガレージにも特に何も置いていない、どこにでもある、という曖昧な表現を使いたくなるような家だった。
「あ、お客さん?」
廊下を歩くと、さやかは日向の妹らしき少女から声を掛けられた。後ろめたい気持ちで返事に困っていると、少女は言葉を付け加えた。
「ああ、大丈夫。お兄ちゃんが一緒な時点で悪い人じゃないのはわかるから安心して」
言って、少女は部屋の中へ戻っていった。
「お兄ちゃん?」
さやかは疑問に思った。今自分は魔法使いと妖精に連れられている、妖精はそもそも種が違うし、まさか魔法使いは日向たちの兄だったのか? それにしては年が離れすぎているように見える。
「おい、さやかが戸惑ってるじゃないか。自己紹介してやれよ、お兄ちゃん」
魔法使いは要請を眺めてにやけている。そういえば、日向の兄は最近行方不明になったと……さやかははっとした。
「ああ、カルディナは本名じゃない。神崎夜風(よかぜ)、元は人間だよ」
「じゃああなた、男なの?」
「いやその、訳あって今は女だ」
照れくさそうな妖精を見て、魔法使いは愉快そうに笑っている。日向の兄の失踪はこいつの仕業かも知れないとさやかは思った。
「あなた日向のお兄さんだからあんなに怒ってたのね、そう聞いたらわたしも怒れないわ。で、わたしを連れてきたのは日向に謝らせるため?」
「いいや、聞き耳を立てられたくなかったからだ」
魔法使いが会話に割って入る。表情は厳しく、宣告するようにさやかの耳に口を近づける。
「日向くんはあのお弁当を食べた後、ふたなりになって、さらに同性の同級生二人に犯された」
魔法使いは自身が復元したという薬をさやかに手渡した。
「体は元に戻っている、弁当に混ぜられた量じゃ半日がせいぜいさ。でも誰かが植え付けられたゆがみを取り除かなければ、心の傷は一生ものだ。期待してるよ、サキュバスのお嬢さん」
魔法使いと日向の兄である妖精に入り口を見張られ、さやかは日向の部屋に通された。中には布団にくるまり震える一人の影があった。日向だ。
「具合はどう? 神崎くん」
良いわけがなかった、日向は自分の身に起こったことや行ったことについて考えること自体を避けていた。考えると気がおかしくなりそうだった。
「って、いいわけないか。こんな気分にさせられて男の子の前に出されたんだもんね、怖かったよね」
こんな気分、出された。不自然な言葉が鼻を突き、日向が顔を上げると、スカートをたくし上げ、パンツを下ろした少女がドアの前に立っていた。
「な、あっ!」
あまりのことに声がうわずり、日向の視線はさやかの布を捨てた下半身に釘付けになる。
「ねえ日向、わたし女の子だよね?」
さやかの問いに、日向は一呼吸置いてから無言で首を縦に振った。
「本当にそう思う? もっと真剣に見て」
近づき、足を広げるさやかに一度は視線を逸らすも、日向はもう一度彼女の股の根元に視線を戻した。
「ねえ日向、もう一度聞くけど、わたし女の子だよね? そうだよね?」
泣きそうなさやかの声に、日向は後ろめたさを感じつつも未発達な局部をまじまじと見つめる。
「お、女だよ……なんだよ、なんなんだよお前!」
唐突なことが続き、日向はやりどころのない感情をはき出した。それを見て、さやかは安心した様子でぽつりとつぶやいた。
「よかった。元気、出たね」
そのまま膝を崩し、さやかは日向の上に日向の上に力なく倒れ込んだ。慌てて支えるも、姿勢が不安定だった日向ももつれるように床に伏してしまった。
「な、な、なんだよお前は! 急に人の部屋に来て、スカートめくって人の上に倒れて」
「ご、ごめん……実は立ってるのも辛かったのよ。わたしもね、飲んだの」
「飲んだって、何を」
「ふたなりになるお薬……んあっ!」
さやかは日向にしがみつき、体を震わせ始めた。息も荒くなり、苦しそうだ。
「手が上手く動かない、代わりに押さえて」
「押さえるって、どこを」
「クリトリスのところ……おちんちん、生えてくるから!」
同級生に恥部を見せられた上、下半身裸のまま抱きしめられてもなお日向の性欲は暴走していなかった。これ以上の行為は一昨日に行われたレイプを思い起こさせそうだったからだ。
「ち、チンコはやめてくれ! オレは、もうあんなの!」
「待って日向!」
慌てて日向が立ち上がろうとするも、さやかがそれを許さない。
「わたしは女の子なんでしょ! 日向は男の子でしょ? 女の子のチンコくらいどうってことないでしょ!」
男の子でしょ、という一言は日向の中にとても響いた。そうだ、自分は男なんだ。それにさやかは女の子、なにを恥ずかしがることがあるんだと、日向は自分の中にある、かつてチンコを望んでしまった自分を傷つけ続ける手を止めた。
「ああもう、わかったよ!」
さやかの股に手を当てると、とても熱くなっていて、わずかだが盛り上がりが出来ていた。日向がそれを押さえるように手で包むとさやかの表情が少し楽になったので、盛り上がり続けるそれを日向は手で包み続けた。
男性とは言えまだ幼さの抜けない日向の手で包まれ、さやかの秘部と新しい男性器は暖かさと柔らかさで心地よい誕生を迎えていた。新しく生える暴力的な快楽の渦も、少年の一生懸命な表情とその柔らかい手とたどたどしい手つきがいやしてくれた。
「お、おっきくなってきてるけど、大丈夫?」
「平気、ありがとう」
お互いを気遣いながら大きくなっていくさやかのそれは、いつの間にか二人の心を繋いでいた。未だ十年と少ししか生きていない二人は、それが不純であるとか不自然であるとか考えずただ素直に受け止める。さやかのそれが精液をはき出せるようになる頃には、二人は手を繋いで笑い合っていた。
さやかは息を熱くしながら日向にささやく。
「もう、これ以上は大きくならないみたい。ねえ日向、おしりに入れてもいい?」
さすがに動揺したが、日向は言葉の理由をさやかに尋ねた。
「日向は無理矢理だったかも知れないけど、本当はとっても気持ちいいことなんだって知ってて欲しいのよ。実を言うとね、わたしの家って代々こういうことしてるのよ。だから、まかせて」
日向がおしりを突き出すと、さやかは日向のおしりの穴を舌でなめた。
「わああっ!」
慌てておしりを引っ込める日向をさやかは急いで制止する。
「待って! 気持ちいいから、わたしに任せて!」
説得され、日向は再度おしりを突き出す。さやかは下を這わせ、彼の尻の穴をほぐしていった。最初は驚いたが、次第に心地よくなってきたのか日向の息も荒くなり始める。
「日向のおしり、やわらかいね」
照れくさそうに黙る日向をそのままに、さやかは自身の分身を固くし、尻の穴の中に突き入れた。
「ふああああ!」
たまらずうなる日向を見て、さやかは自分のあそこが濡れるのを感じた。はしたない気もしたが、男を喜ばせ悦に入るのはサキュバスの本能なのだろう。彼女は日向をもっと感じさせたくなり、激しく腰を振る。日向の顔がだんだんととろけてきた。
「と、藤堂、もっとやってくれ。その、気持ちいいから……」
さやかは初めて日向をかわいらしいと思った。かわいらしい相手ほど、いじめたくなるものだ。さやかはそれまで無防備に揺れていた日向のチンコを握りしめしごき上げた。
「わああ! そ、そこはああ!」
すでに限界が近かったのか、日向は勢いよく射精する。指に付いた精液を舐め取り、さやかは唇を歪ませる。
「藤堂はやめて……日向、さやかって呼んで……」
さやかは射精の続くチンコからさらに精液を絡め取り、日向の口に押し込んだ。口と心が渇ききった日向は、さやかの飲めという圧力にあっさりと屈する。
「う、ぐ……ふぐ……」
さやかは日向の口で手を清め、その手を彼の乳首へと運んだ。一度の射精でやめさせる気は端からなく、日向を二度目の絶頂へいざなうためにさやかは新しい刺激を彼に与える。
「ああああ……ふぐぅ!」
今度は叫び声を上げさせない、叫び声で満足はさせない。左手で手をふさぎ、右手で乳首をもみしだく。チンコは尻の穴を侵し続け、ときおりすでに閉じられた日向の女性だった穴にさえ侵入しようと突き立てて彼に悲鳴を上げさせる。もはやトラウマすら快楽となり、日向はさやかにされるがまま射精が止まらなくなるまで絶頂させられ続けた。
「そういうわけで、別にわたしが悪いわけじゃないのよ」
さやかと日向は汚れた体を洗うため、二人でお風呂に入っていた。ついさっきまで激しく交わっていたのに、いまは並んで浴槽に浸かるもお互い距離を取り、もじもじしながら会話をしている。
「ママが勝手にわたしのお弁当に薬を入れたのよ、だからわたしのせいじゃないの、わかった?」
「もう、わかったよ」
しかし力関係がハッキリしたのか、日向に以前のような皮肉屋の面は見られない。
「明日から学校にも行くよ」
「安心して日向、龍彦と浩二からはわたしが守ってあげる。いざとなればサキュバスの力だって使っちゃうんだから」
しかし、さやかがサキュバスの力を使う必要はなかった。もっと恐ろしいサキュバスが彼らを襲ったからだ。
身内を傷つけられたとして、フェリウはさやかの祖母を脅迫したのだ。火消しの手伝いをしろ、さもなくば復元した秘薬を祖母の名前でばらまくと。秘薬が撒かれれば敵対勢力のいい攻撃の口実となり、隠れたところで大規模な悪魔狩りが行われるだろう。騒動は瞬く間に拡大し、さやかの祖母は同盟の悪魔はおろか、同じサキュバスからも目の敵にされることになる。
それに比べれば火消しなど取るに足らないことだった、百戦錬磨のサキュバスは血の恐怖を携え龍彦と浩二の元に舞い降りる。
「我の獲物を横取りしたのは貴様らか」
毎夜毎夜の悪夢に龍彦と浩二はそのまま不登校となり、卒業式の日を待たず転校することとなった。
しかしクラスメイトたちは不登校のこと二人より、日向とさやかが付き合っているのではないかということを噂することを好んだ。二人とも、一度も付き合っているとは言わなかったが。
少年は大人にならず