お狐さまはお好きもの
わしは目の前に差し出された西洋の妖(あやかし)をじっくりと見物する。幼いおなごの姿をしたそれは震えており、わしや清丸(きよまる)のことを交互に見ては薄い着物の襟をすがるように掴む。
「清丸よ、こやつの名はなんというのじゃ」
「あやかしの精と書いて妖精、西洋ではフェアリーと呼ばれている妖怪にございます」
妖精は西洋人らしい金色の髪に青色の瞳を持ち、毛のない白い肌をしておった。
「それくらい知っておる、大物ともなれば九尾に匹敵する妖力を持つというあれじゃろう。わしが聞いておるのは名前じゃ名前」
「存じ上げませぬ、口を開こうとしませぬ故」
妖精はだまったままこちらを見ており、目が合ったらそのまま固まってしまった。
「清丸よ、口も開かぬような相手をどうやって引っ張ってきた?」
清丸は決まりが悪そうに目をそらし、察してくださいとだけぼそりと答えた。
「そうか、なら無理には聞くまい。それにしても想像以上に小さいやつじゃのう、もっと強そうな見た目を想像しておったわ」
妖精の大きさはせいぜい五寸(約十五センチ)か六寸(約十八センチ)しかない。わずか一寸の身長で鬼を退治した男もおるとも言うし、なりは小さくとも力のある一族というのはおるものじゃのう。
「氷奈雫(ひなた)さま、世界は広うございます。それに、他種族から見ればあなた様の体躯で九尾というのも十分驚愕に値するかと存じます」
わしの体は仙狐の中でも特に小柄で、しかも幼く見える。というのも、幼い頃の修行であまりに早く九尾となったために、成長が止まってしまったのじゃ。体が小さいだけでなく、毛並みが幼い娘のようにモコモコとしているせいで色つやも出ぬ。おかげで尻尾を隠すと幼子にしか見えぬときておる。修行の途中で気付いて怠けておけば、もっと威厳のある姿になれたろうにのう。
「好きで小さいのではない、放っておけ馬鹿者が。で、わざわざコケにするために妖精を呼び出したわけではあるまい。わけを話せ」
清丸は身を乗り出し、尻尾を整え風に乱れた白い着物をただす。
「はっ、妖精が作るフェアリーシロップなる霊薬が万病に効くだけでなく、霊力や精力をみなぎらせるとのことです。妊娠しやすくなるとも聞き、お子を授からぬ氷奈雫さまに是非飲んでいただきたいと」
「なんじゃと!」
右手に込めた妖力が熱気と冷気の渦を巻きおこす。白木で組んだ鳥居付きの祭壇と天井が消し飛んだところで威力が強すぎることに気がついたが、まあよい、わらわの怒りを思い知らせてくれる。
「体ばかりでナニも立たぬ男ばかりよこしておきながら、わらわに非があると申すのか!」
「お、恐れながら……そのようにすぐ激高するから、山砕きなどと恐れられるのですぞ、氷奈雫さま!」
わしが九尾となったばかりの頃、人間どもを戒めるために山を一つ消し飛ばしたことがある。が、あれは感情にまかせた軽率な行動じゃった……そのあとのもう大変なこと、あふれる溶岩は凍らせ続けねばならぬし、餌場を共有していた狼と天狗は補填せねば一族ごと呪い殺すと脅してきおるし、人間どもも人間どもで二十年も地鎮祭を止めぬし。あのときの皆の視線は痛かったのう、毎日が針のむしろじゃった。
「む、昔のことはもうよかろう!」
左手で妖力を打ち消し、渦を元に戻す。削り取ってしまった館は元に戻らぬが、まあ修理させればよかろう。
「何より氷奈雫さま、今まで選んだ男たちは不能者ではございませぬ。おそらくは、氷奈雫さまを恐れて立つものも立たなかったのでしょう」
清丸の言葉にわしは腹も立たなかった、身に覚えがあったからじゃ。男どもが床に入ってもどうにも萎縮しておるとは思っておったが、なるほど山砕きか、百年以上前のことだというのにまだ伝わっておったとは……霊薬の力を借りようと清丸が考えるのも致し方ことかも知れぬ。
「霊薬があれば立たぬものも立つようになるということか、ならば致し方ない。というわけじゃから妖精よ、フェアリーシロップとやらを調薬してはくれぬか?」
妖精は顔を赤くするだけで答えようとはせなんだ。わしは根気強く待つつもりじゃったが、業を煮やした清丸が助言のために祭壇に足をかける。
「氷奈雫さま、フェアリーシロップとは妖精殿が心地よいときに出す純度の高い愛液にございます」
驚いたわしは清丸を下がらせ、フェアリーに手招きしそばに寄せる。
「妖精よ、まことか?」
妖精は首を縦に振る。なんとも困ったことじゃ、西洋から来たものにみだらな振る舞いをさせねばならぬとは。世継ぎのためとは言え、心苦しいのう。
若草色のすだれをくぐり、わしは妖精を寝所へと招き入れた。畳のにおいはわしにとって馴染みのあるものじゃが、妖精の緊張をほぐすにはどの程度効果があるか怪しいものじゃ。どのみち終われば床につく、まずわしのほうから着物を脱いでやるとしよう。
「あの、お狐さま。なんで服を脱ぐんですか?」
初めて妖精が口を利いた。小さい体に似合う澄んだ高い、よい声じゃ。
「氷奈雫でよい、そなたは客人じゃ。それに、わしにはただでさえ力がある、装束をまとえば鬼に金棒というものじゃ。おぬしとは女同士、別に遠慮することもなかろう」
着物を脱ぎ終えると女官の声がした、清丸が用意したフェアリーシロップを入れるための壺を持ってきたようじゃ。受け取りにすだれを開けると女官は謝りながら逃げてしまった、漏れてくる風が肌を撫でる。
「まったく、わらわが裸を見られたくらいで怒るとでも思っているのかのう」
「きっと清丸さんが怖がらせてるんだよ」
いつの間にか妖精はわしの傍らで浮游しており顔を覗いておった。こやつらは羽音と立てずに飛ぶことが出来るのか、便利じゃのう。しかしこの首をかしげるしぐさの幼さよ、こやつは見た目通りの年齢なのか?
「妖精よ、名を聞いていなかったな。なんという?」
「ボクはフルール、郵便の妖精です」
郵便……近代の飛脚であったな。こやつのように小さな妖怪が運べる量には限度があると思うのだが、手紙専門なのじゃろうか。あまり腕力のある体には見えぬが。
「フルールよ、わしが怖くないのか?」
妖精、いやフルールは少し戸惑うてから首を横に振り両の手を握った。
「うん、ヒナタはボクのこと優しそうな顔で見てくれたから」
清丸に無理矢理連れてこられただろうに、この幼い娘はなんとけなげに笑うのじゃ。すだれで仕切られ、わらわと二人きりに隔離された空間とはいえ無防備すぎるのではなかろうか。
「フルールよ、おぬし虜囚も同然の身でなぜ笑顔でいられる」
「それがボクらの処世術だからだよ」
「処世術、じゃと?」
なんともまた奇妙な言葉が出てきたものじゃ、西洋では捕らわれることが世を渡ることになるというのか。まさか捕虜に出される食事で食いつないでるなどと言うまいな。
「ボクらの間じゃ犯されたり捕まって売り飛ばされたりなんてよく聞く話なんだ。でも、妖精の体はとびきり頑丈にできてるの。セックスのオモチャにするような連中はボクらより先に精根尽き果てちゃうから、その隙に荷物を奪い返して逃げるんだ。だから郵便屋が務まるんだよ」
なんという手法じゃ、その小さな体でこやつらの一族はそんな手段を通しておるのというのか。
「怖いとは思わんのか」
「もう慣れちゃったし、妖精は気持ちいいのが好きなんだ。結構楽しいよ」
信じられん、自らを囮にして相手の精を尽きさせる……しかも楽しいじゃと? 行為がよいのは認めよう、しかしそれは身の安全を保障された上でじゃ。
「フルールよ、なぜわしに手の内を明かす」
「ヒナタへのお礼、かな。優しくしてもらうのに慣れてないから、つい口が滑っちゃった」
照れたようにフルールは笑う、じゃがこの微笑み、本物かどうか。
「試させてもらうぞ」
わしは妖力でフルールを縛り、その服を奪い去った。軽い体のはずなのに押さえつけるのにえらく力がいる、やはり妖精は妖力の強い一族のようじゃ。
「な、何するの?」
「もちろん、いかがわしいことじゃ」
わしは水を持って自分の手とフルールの全身を清めた。ふふん、フルールめ、体を這うわしの指を必死に目で追っておる、はにかんだ笑顔が戸惑いに揺れておるではないか。
清めた指先で、わしはフルールの股を開かせ指で広げ、皮を指で弾き陰核を露出させる。
「や、やめて」
「ほう、思ったよりあっさりと出てくるのう。確かにおぬしは慣れておるようじゃ、しかし日本の妖怪にはこのような仕掛けもできるのじゃぞ」
わしは陰核にろくろ首から学んだまじないをかけ、それを少しづつ伸ばしてやる。
「く、クリトリスが!」
「ほう、西洋では陰核をクリトリスというのか。では今まさに伸びているクリトリスを指でつまんだらどうなるかのう」
男根のように伸びたフルールのクリトリスを指の腹でつまみ、ゆっくりと転がすようにすりつぶす。
「あああっ! しびれる、しびれるのにまだ伸びる!」
「そう、伸びるのじゃ。西洋でも男根を操る妖怪くらいはおろう。しかしこうまで異常に伸ばされては辛抱たまるまい」
フルールの胴体ほども伸びた陰核……いや、クリトリスを彼女の口に含ませる。自分のクリトリスを口に入れるなどそうそう出来る体験ではないぞ。
「ほれ、気持ちいいのが好きなのじゃろう? わらわの前でしゃぶってみせい」
クリトリスを咥えたまま、フルールは涙を流し首を振る。さすがにこたえたか?
「ん、ちゅ……」
と、思ったらこやつしゃぶり始めたわ。おまけに愛液まで垂らしおって……忘れるところじゃった。わしは大急ぎで壺を取り、フルールの真下へ置く。壺のざらざらとした表面が少しばかり頭を冷やす。
「動じぬとはさすが、と言いたいがまだ信用するには早いのう。もう少し刺激させてもらうぞ」
わしはクリトリスを更に伸ばし、わし自らも咥えたり指でつねったりした。そのたびにフルールは震え叫ぶが、口からクリトリスを離そうとはしない。これほどの長さともなれば、もはや空気に触れる刺激だけで相当堪えるはずなのじゃが。
「強情なヤツじゃ、クリトリス以外はいじっておらぬと言うのに……これでどうじゃ!」
「んー!」
わしは伸びたクリトリスを手に巻き付け小さな稲妻を発生させた。稲妻を弾かせるために手を握ったり離したり、両手で打ち付け合ったりと強い緩急を付ける。これにはたまらなかったらしく、ついにフルールが口を離した。
「あああああ、んああああ!」
大きく叫んでフルールは気を失い、壊れたからくりのようにぐったりと頭を下げた。ようやく気を失ったようじゃ。
「まったく、なんて頑丈なヤツなんじゃ、手間を取らせおって。それにしても気持ちよさそうな顔をしおって、わしの責めがそんなによかったのか。自分にするのと他人にされるのではだいぶ違うと見える」
こやつの言うことは本当だったようじゃ、ここまでせんと気を失わぬとは見上げた頑丈さじゃ。こやつら、神経の太さだけならわらわたち九尾に匹敵するのではないか?
「しかしこの処世術か、なんというか……狐心に来るものがあるのう。わらわも他者に身を任せれば、気を失うほど心地よい快楽を味わえるのかのう」
わしは意識を失ってなおうっとりとしているフルールの顔を見てうらやましく思った。
「春秋(ひととせ)よ、急に訪ねてくるとは何用ぞ」
「そう構えるな白百(しらもも)よ、今日は里長(さとおさ)として来たわけではない。ぬしの頭痛の種を取ってやろうと参ったのじゃ」
わしは狼の妖怪が住む山里へ赴き、その里長である霊狼の白百を尋ねた。白百とは山砕きの件で大いにもめたこともあるが、清丸が関係改善に尽力してくれたおかげで今は盟友の関係にある。
そこで、わしは狐より気性が荒い狼の雄、そのなかでもとびきりの荒くれを求め白百を頼ったというわけじゃ。里で指折りの問題児を婿によこせという要求に白百は怪訝な顔つきじゃったが、ちょうどよいのがおると呼び出す運びとなった。
ほどなくして白百の屋敷を訪ねてきたのは、粗暴そうな一匹の若い狼であった。
「族長閣下直々のお呼び出しとはな、オレもとうとう追放か?」
「そんなところだ、お前を婿に欲しいという狐がいる」
狐と聞いて、狼は笑い出した。
「キツネ! あんなやわっこい連中がご熱心なことだ。狼に目を付けるとは、なるほど連中も賢くなったじゃないか。で、里の連中を婿に出すには惜しいからオレに行けと言うんだろうが、それで同盟が破棄されても責任を取らないぜ」
「言うのう若造、それくらいでないと面白みがないわ」
狼が気付いたようで、わらわを指さして大きな声で笑う。
「まさかお嬢ちゃんが結婚相手じゃないだろうな? オレの相手がしたければ毛が生え揃ってからにするんだな」
なるほど、白百の言うとおりこいつは問題があるわ。もっとも、そういう男をわしが望んだわけなのだが、白百が要らぬ気を遣い顔を青くしてたしなめた。
「無礼者が! 貴様も狼ならば己の霊格をわきまえよ!」
里長の言葉に、狼の館全体が静まる。霊格と聞き若い狼がわしの顔をじっと見つめる。その顔が青くなり、そして次第に白くなっていった。瞳はずっとわしを捕らえておる。
「狼よ、さっきまでの威勢はどうした。わらわはまだ名乗ってすらおらんぞ」
わしが口を開くと、狼は大きく後ろに飛び退いた。館が狭かったら、壁を突き破ってしまいそうな勢いじゃ。
「九尾、春秋の里の装束、異様に幼い容姿……まさか!」
ああー、なんだか嫌な予感がするのう。
「まあ話を聞け、わらわは」
「山砕きの九尾!?」
やはりその名が出たか、なんとかなだめなくては。そうじゃ、フルールの真似をするのはどうじゃろう。それを見れば、わしを凶暴とは思うまい。
「あー、ごほん。ボクひなた、おじさんと遊びたいな~」
「ひひひ氷奈雫ああああ!? もっとも幼い邪悪! 地獄を凍らせた妖怪!」
しまった、と思った。狼はわしの名を知っておったのじゃ。しっぽを膨らませおびえる男を見て、さすがのわしも萎えてしもうたわ。
「もう悪さはしません! 目上の言うことも聞きます! だから母の命だけはご勘弁をおおおお!」
土下座して謝る狼を背に、わしは白百に対して後ろめたい気分になった。急に尋ねておきながら断る以前に狼に恥をかかせるなど、名のあるもののすることではない。
「白百よ、その、今回は済まなかったな」
だが、当の白百は存外気分を害してはいなかった。
「いや、春秋よ。また遊びに来い、おぬしならいつでも歓迎じゃ」
館へ戻ると案の定、清丸が顔を鬼にして待ち構えておった。暇なやつじゃ、仮にも仙狐だというのにわしの世話ばかり焼きおって。他にすることはないのかのう。
「氷奈雫さま、勝手に狼の里へ行かれるとは何事です!」
「うるさいのう、わらわは今ブルーじゃ、放っておけ」
寝所へ戻ろうとするも、清丸は食い下がる。
「ブルー? どこで覚えたのですそんな外来語。氷奈雫さま、あなたは仙狐であり九尾であり里長なのですぞ! そんなあなた様がふらふらしていては里のものに示しが付きませぬ」
「なぜ付かぬのじゃ、言うてみよ」
わらわの言葉に、清丸は都合が悪そうに応える。
「それは、氷奈雫さまは霊力やお立場に対して出で立ちが幼うございます。威厳を保つためにも常に館に重く構え、里のものの手本となるよう……」
嘘じゃな、今日わしは身をもって知ったわ。
「適当なことを、どうせわらわが道行けば里のものがおびえるからであろう」
図星と見える、清丸めたじろいでおるわ。
「誤解です、皆里長は恐れ敬うものと教えているからでして……」
歯切れの悪い清丸の言い訳に、さすがのわらわも傷ついたわ。
「もうよい、怒ってなどおらぬ。今日は疲れた、もう休む」
寝所へ戻り、わらわは数十年ぶりに涙した。なぜじゃ、なぜ怖がられねばならぬ。もう誰も一人の女としては見てくれぬのか。
「どうしたのヒナタ」
「フルールか」
わしがいきさつを説明すると、フルールは一計を案じてくれた。こやつが言うには、相手さえ選べば問題ないと言うのじゃ。
「なら、人間を相手にするのはどうかな」
「人間じゃと?」
フルールは自信ありげじゃった。
「うん。魔力……あいや、妖力を察知できる人間なんて滅多にいないから、その尻尾さえ隠せばきっと遊んでくれるよ」
遊んでくれる、という言葉にわしの童心が踊った。もちろん、ここでいう遊びというのはいかがわしいことを指す。
「まだ、女として見てくれるかの?」
「もちろんだよ! ヒナタはかわいいもん!」
そうか、人の目にはわらわはかわいらしく見えるのか! なら、妖気さえ隠せばあんなことやこんなことも……ああ、今から楽しみじゃ! あまりに嬉しくて、わしはフルールを抱きしめた。
「そなたはよいやつじゃ、出会えたこと嬉しく思うぞ」
「ちょ、ヒナタ、苦しい……」
清丸の目を盗み、わしは尻尾を隠し質素な村娘の衣装を着て山を下った。人間どもは相変わらず山でも川でも自分たちに都合良く切り開いているようじゃが、考えてみれば人間も自然から生じたもの。この営みもその一部として受け入れるべきなのかもしれん。
「どうしたの? 難しい顔してるよ」
「む、少し考え事をしておっての。どうということはない」
「氷奈雫、口調が元に戻ってる」
「すま……ごめんなさい」
フルールに言われて言葉づかいを改めているが、慣れないと難しいものじゃ。しかし最近の童らしくせねば人間も警戒するというもの、ここは我慢じゃ。
日はすっかり暮れている。わしとフルールは街の明るい方を目指し、ひたすら人間の街を見て回った。最後に人里へ降りたのは百年前じゃが、なんとも様変わりしたのう。そこかしこに石造りの建物が見える、西洋との交流が盛んになった証かのう。
街明かりの中心まできて、わしは足を止めた。思ったとおり遊郭のようじゃ。しかし、このあたりであまり派手にやると人間と手を組んだ妖怪と鉢合わせせぬとも限らん。狙うならここより少し離れた、酒場のあるような場所がよかろう。
「氷奈雫、あいつらなんてどう?」
フルールが指さしたのは、酒場の外で涼んでいる巨漢とその連れ合いらしき細身の男だった。石切職人でもやっていそうな恵まれた肉体を持ち、貧乏そうなボロの作業着を身につけておる。
「西洋からの出稼ぎ労働者、ああいう人間も妖精を襲うタイプのひとつなんだ。きっと女に飢えてるよ」
そうか、飢えておるのか、確かに女を買う金を持ち合わせておるようには見えぬ。なら、この春秋が一肌脱いでやらねばのう。
「よし、行こう」
わしは手に持った包みを持ち直し、男の前を通りかかってわざと鼻緒を切った。
「あっ、鼻緒が……」
「どうしたい、お嬢ちゃん……おいおい獣憑きじゃねぇか、こんな夜更けに出歩くなんて不用心すぎるぜ?」
食いついた! わらわの演技力の見せ所じゃ。
「鼻緒が切れてしまいましたの。どうしましょう、急いで大切なお酒を運ばなきゃいけないのに……」
「ほう、そいつぁいけねぇなあ」
男はニタリと笑いわらわから酒を取り上げる。ふっふっふ、さあ飲め、その中身はフェアリーシロップじゃ、飲めばわらわを襲わずにはいられぬぞ!
しかし男は包みを開けようとせず、連れ合いらしき細身の男に声をかけた。
「ペッパー! こっちこい」
「なんだよディル」
「このお嬢ちゃん、夜中なのに急ぎのお使いだとよ。鼻緒が切れたそうだから治してやれ」
「うへぇ、チビのうえに獣憑きか、こんな夜中に出歩くなんて自殺行為だぜ。お嬢さん、悪いことは言わないからディルに送ってもらいな」
な、なんじゃと!? 乱暴はせぬと申すのか!
「さあキツネ耳のお嬢ちゃん、おうちはどっちかな? おじさんが送ってってやるぜぇ?」
「ま、待つがよいディルとやら。その、わらわが運ぶ酒に興味はないのかの?」
「おいおい、オレたちが野盗にでも見えるのか? 心配するな、取ったりしねぇよ」
「くっくっく、金もないのに気取るねぇこのおっさんは」
そこの細身の! 忍び笑いしとる場合か! なんてことじゃ、計算外じゃあ! こうなったら……。
「い、家はあっちじゃ。それとペッパーとやら、鼻緒のお礼がしたいからぬしもついてまいれ!」
「お礼だとよ、どうする?」
「ま、草履を直しながら考えるさ」
わしはとにかく人気のない方へと二人を誘導した。本当は二人が怪しみ始めるまで続けるつもりじゃったが、途中先回りしたフルールが手招きしているのが見えたのでそちらへと誘導した。そこは倉庫の裏で、背面は石壁になっていた。人通りがないうえ外からは見えづらく、加えてこの暗がりじゃ。さすがフルール、よい場所を選ぶ。
「お嬢ちゃん、道を間違えたようだぜ」
「いいや、ここでよい」
わしは包みを取り上げて風呂敷を取り、壺を開け中身を勢いよく浴びせかけた。
「さあ飲むのじゃ!」
突然かけられたフェアリーシロップに戸惑う二人に飛びつき口を押さえ、なんとか飲み込ませることに成功する。フルールの言葉が真実なら、人間相手なら少量でも飲めば効果は十分なはずじゃ。
「ぶはっ! あ、甘い? 甘酒か?」
「うわ、ベッタベタじゃねえか」
騒ぐ男二人を前に、わしは聞き耳を立てられるぞと唇に指を当てる。
「そう騒ぐな、おぬしらもいい男ではないか。若い女を食うてはみたいと思わんのか?」
わしの言葉を聞き、二人の目が獣の光を帯びる。そうじゃ、それでいい。わしは逃げも隠れもせぬ、存分に犯すがよい!
「ペッパー、獣憑き相手の罪は軽くなるんだったよな?」
「ああ、そう聞いてるぜ」
フルールから聞いたとおりじゃ、獣憑きたちは男どもから陵辱されやすい。耳だけ隠さずにおいたのは正解じゃった。
「ディル、オレは道具を仕込む。先にやってていいぞ」
「言われなくても遠慮しねぇよ」
最初は巨漢のディルからじゃった。わらわの乳に吸い付き、そのまま着物を脱がせながら舌を体に這わせる。ふふふ、わらわを味見する気か、おもしろい、おもしろいぞ!
「あはぁ」
ディルとやらがわしのへそを熱心になめておる。前戯としては悪くないぞ、そこは柔肌より敏感じゃからのう。しかし、産毛もない人間の肌というのは新鮮でよい。張り付くような密着感、クセになりそうじゃ。
へそがふやけてきた頃、ディルの舌は股ぐらへと滑ってきおった。男はまだ濡れておらぬそこを丹念に、広げて味わうようにしてなめた。
「ああっ、よい、心地よいぞ」
わしの膣に舌を深く突き入れたかと思えば、漏れ出た愛液をこぼすまいと口を大きく開けて吸い付く。口は小さなわしの穴をふさぐには十分過ぎるほど大きく、男の大きくて無骨な唇と熱い吐息がわしの膣を覆い、蒸しながらかき混ぜてゆく。何とも心地がよい、やはり自分でするのとされるのでは大違いじゃ。
「ああ、温い、温いのじゃ」
「ぶぇっほ、げほ……こいつ、漏らしやがった」
男の吐息に蒸かされて、気付かぬ間にもよおしてしもうたようじゃ。ああ、老獪なわしが粗相をするなど、まるで赤子にされたようじゃ。
「お漏らしとはいけないなお嬢さん、お仕置きするから尻を出してもらおうか」
先ほどからなにやら細工をしていたペッパーとか言う男は鉄の玉を麻糸で数珠つなぎにしてわしの前にぶら下げてみせる。
「ペッパーさま特製の即席アナルビーズだ、鋼鉄製だからゴツンとくるぞ」
大男のディルがわらわの体を抱き上げ、手で尻の穴を押し広げる。そこへ細身のペッパーが鉄製の玉をぐいと押し入れた。
「ひぎぃいい!」
ふ、太い! その上重さで一つ通り抜けると次々と腹の中へ落ちてくる。は、腹の中で鉄の玉がぶつかり合っておる、あああ! もっとじゃ、もっと奥で激しくぶつかり合うのじゃ!
「ああああ!」
玉は裏から子宮をごつごつと刺激しながら、どんどん腹の奥へと入ってくる。さすがのわしも初めての刺激じゃ、心が求めて止まぬ、胸はどんどん高鳴ってくるぞ。
「さて、玉の調子を見てみようか」
ペッパーがわしの股へと手を伸ばす。
「い、嫌じゃ……いまは止めてくれ」
つい気取って嫌がってしまったが、男二人が手を止めることはなかった。フェアリーシロップ、なんという効き目じゃ。ペッパーはわしの膣に二本の指を突き入れ、腹の中の鉄の玉をいじり始めた。
「んごおおおお!」
ま、まるで睾丸が生えたようじゃ! 重い腹の中で鉄がガチガチと音を立て、それを膣越しに指でもてあそぶなど……か、感じるどころではないぞ!
「や、やめるのじゃ……わ、わらわとてこれ以上は持たぬ」
懇願するとペッパーの手が止まった。またやってしまったと内心口惜しく思っておったが、ペッパーが次の閃きを口にした。
「じゃあ、アナルビーズを自力で出せたら許してやるよ」
じ、自力じゃと!? 大きさと重さを考えないのか、こんなものを自力で出したら勢いで尻の穴が裂けてしまうわ! 幼いこの体の尻を突き出させ、それを見物するつもりとは……よい、よいぞ! しかしこやつら、だんだんと凶暴さが増してきておらぬか? フェアリーシロップの効き目があるとは言え、ここまで様子が変わるのは妙な気もする。
「そ、そんな、奥まで入りすぎておる。こんな重いものを出したら、わらわとておかしくなってしまうぞ」
「決めつけるのは早いだろ嬢ちゃん、若いんだからなぁ」
「おいおいディル、小さいの間違いだろ」
二人の男は笑う。やはり、先ほどからどんどん凶暴になっておる。フェアリーシロップの効果が強すぎようじゃが、まさかわらわの香りに惑わされておるのか? なんということじゃ、九尾の色香は人間には強すぎたのじゃ! しかし、これは嬉しい誤算というもの、この際存分に楽しんでやろうぞ。わしはふらつきながら屈んで二人の前に尻を突き出した。
「んんん……」
力一杯りきむが、玉が大きすぎて出てこない。尻の穴からは透明な液体がしたたり出るばかりじゃが、男どもはわしに容赦などせなんだ。
「おい、さっさと出せ、よ!」
ディルの太い指が尻の穴に突き刺さる。せっかく出かけていた鉄球が押し戻され、腹の中でガチガチと玉突きが起こる。
「あああっ! せ、せっかく出てきたのに……これではいつまで経っても出せぬ」
「キリがないってか? なら手伝ってやるよ」
りきむわらわを抱き上げ、ディルは男根を股に当てる。
「な、それは、あああああ!」
鉄球ででこぼこになった膣に男根を突き入れられ、わしは鉄球を産み落としながら達した。地面にゴトゴトと落ちる鉄球の音に、水音が加わる。
「あ、あ……」
「おやおや、はしたないお嬢さんだと思ったら、おなかの中は綺麗じゃないか。よしよし、綺麗なおしりにはおじさんのチンコをあげよう」
ペッパーがズボンを脱ぎ、男根を尻の穴に当てる。
「ま、待つのじゃ。まだイったばかり……」
「あいにくこっちはまだなんだよ!」
言い訳をする間もなく、ペッパーの男根がわらわの尻の穴に入る。ディルの男も精を出しながら未だ衰えておらぬ。
「はぁ、はぁ……」
男どもはしばらくそのまま精を注ぎ続けた。わしの腹はどんどん膨らみ、まるで妊婦のようになっておる。なんて恐ろしい精力、これがフェアリーシロップか。
「苦しいのじゃ、精液を出させてくれ」
このまま中に出され続けるのも悪くはない、じゃがそれでは単調じゃ。もっと、もっと激しく犯すのじゃ! わしは九尾の、女の香りを精一杯匂わせた。
「そうだなぁ。ペッパー、まだ仕掛けはあるよな?」
「ああ、小手先技のペッパーさまをなめるなよ」
やはり効いておる! 二人の言葉に、わしの心は躍った。
「痛っ!」
乱暴に地べたへ落とされ、わしは体を土で汚しながら荒い呼吸を整えようとひたすら酸素を吸い込む。しかし年齢に反する幼い体が急激な変化に耐えかね、息は整うどころかいっそう乱れ、吸い込めば体が震え、はき出せば背筋が震えた。わしがわずかな休息に身をゆだねている間もペッパーは道具箱を片手になにやら細工をし、ディルはそれをニヤニヤと眺めている。ああ、これからどうするつもりなのじゃ? わらわをめちゃくちゃにして壊すのか? やれるならやってみるがいい、わしは壊れてみたいのじゃ!
「ディル、しっかりつまんでろよ」
「あいよ」
乳首が引きちぎられるかと思うほど乱暴に引っ張られる。
「あああっ!」
わしは思わず体をくねらせ、手を払いのけてしまった。すぐに後悔するが、払いのけたことで男たちはいっそうわしをねじ伏せたいと考えてくれたようじゃ。
「じっとしてろよ、これからもっと乱暴するんだからな」
手を押さえ込まれ、再び乳首を引っ張られる。そこに、刺すような鋭い痛みが走った。
「いっ!」
針じゃった、わらわのぺたんこな乳房が乳首を挟んで串刺しにされておる。流れる血に注意を払わず、ペッパーは太い針を太さが均一になるまで刺し貫く。
「痛いっ、痛いいい!」
ある程度針が通ったところでペッパーは針の先を折り、両手に工具を持ち針金を半円形に折り曲げる。針金と工具に挟まれて、わらわの乳首は完全に潰れてしまった。へこんだまま元に戻らず、乳輪が針金の形にゆがんでおるわ。
「ああ、あ、や、やあ……」
「まだ序の口なんだなぁ、お嬢さん」
ディルはもう片方の乳首も引っ張った。まさか、両方……あ、ああ、無慈悲な針が。
「あああああ!」
もう一つの針も半円形に曲げられ、その形をならすように体の中へぐいと押し込められた。ペッパーが手慣れたのか先ほどより乳首が原形を留めておるが、多くの血管を裂いてしまったらしくあふれ出る血の量が多い。ふるえるわらわを気にもせず、貫通した太い針で二人は遊ぶ。わしは文字通り身をえぐるような刺激に乳房どころか体中が震えた。
「もう次にいってもいいんじゃねえか」
「ああ、こいつの出番だ」
ペッパーが取り出したのは、南京錠。黄金色に鈍く光るそれは、わしに新しい期待を抱かせる。
「な、何をする気じゃ」
「泥棒が入らないように、今のうちにカギをしておくのさ」
押し広げられた傷跡に南京錠の先が押し込まれる。針よりずっと太いそれはわしの小さい体には大きすぎるし重すぎた。こんなものを体に付けられるなど夢にも思わなかったわしは、もう抑えが効かなくなっていった。
「いああああ! さ、裂ける! よいぞ、もっとじゃ、もっと思いっきり入れるのじゃ!」
言われて止めるはずもなく、右、左の順に南京錠の頑丈な錠前がわしの両乳房を貫く。ガチャリとカギのかかる音が、わらわの心を凍らせた。
「わ、わらわの乳首が、人間に封じられるなど……はああ!」
「お嬢さん、お前はもうカギを開けなければには子供に乳をあげることも出来ない。こんな姿じゃ湯に入ることもできないだろうなぁ」
ああ、力なき人間にカギをかけられこんな言葉で責められるなんて……わしは、もう戻れぬ身になってしまったのじゃな。
「おいペッパー、まだ終わりじゃねぇだろ?」
「ああ」
今度はディルがわしの股を開かせ、皮をむいて陰核……クリトリスを露出させた。ペッパーは彼に細い紐を渡し、それを使ってわしのクリトリスの根元を縛った。
「そ、そんなところに刺したら!」
ディルに取り押さえられ身動きが取れぬわしの股に手を入れながら、ペッパーが三本目の針を突き刺した。
「はあああああ!」
いいいい痛い!? いや違う、激しいのじゃ! わ、わけがわからなくなる!
「ま、まだじゃ、まだわしは満足しておらぬぞ!」
針は更に深く深く突き刺され、ついに貫通し最も深い胴の部分にまで達する。
「わしは、ま、だ……」
針の先端を折られ、クリトリスを潰しながら半円形に加工されていく。わしの体は気を失ってしまったが、幸いにして九尾の霊力が体の外に意識をつなぎ止めた。おかげでクリトリスにカギをかけられるの様子をじっくりと観察することが出来た。あああ、なんと無様な……これが、これがわしか。
「こぉんな小さな娘にみっつもカギを付けて、オレたちはなんて用心深いんだろうなぁペッパー?」
「いやいや、用心するならカギがちゃんとかかってるか確認しないと」
「そうだなぁ、泥棒さんは悪い人ばかりだからなぁ」
二人は息を揃えて、ようやく血の止まった胸の南京錠をグイと引っ張った。
「ふあああああ!」
わしの意識が呼び戻される。乳首の先は血を吹き出し、痛みに近い、しかしそれとは違う感覚に身を震わせ、叫び声を上げさせる。引かれているのが乳首ではなく南京錠だと思うと、余計に叫ばずにはいられなんだ。
男二人はしばらくわしの反応を楽しんでのち、陰核に付けた南京錠にも手を付けた。わしは立ち上がらされ、股の割れ目の南京錠ごしに陰核が上へ下へと引っ張られる。
「なあディル、マッチ売りの少女って知ってるか?」
ディルは何かを察したらしく、ペッパーにマッチを渡しわしを羽交い締めにした。身動きの取れないわしは背後で笑う大男と、目の前で不気味に笑う細身の男に期待のまなざしを送った。
目の前のペッパーがシュッとマッチに火を付ける。
「お嬢さん。マッチ売りの少女はな、火が付いている間だけ幸せな夢を見るんだぜ!」
ペッパーは火の付いたマッチでクリトリスに付いた南京錠をあぶった。
「熱っ、あっ、あああああああ!」
火にあぶられた南京錠から熱が伝わり、クリトリス全体が火鉢に突っ込まれたように焼けていく。
「あ、ああ、熱いのじゃあああ! い、陰核が炭になってしまうぅ!」
「へっへっへ、そう簡単に炭になんか……あ?」
マッチの火が消えたらしく、ペッパーが不満そうな声を漏らす。立ち上がり、わしの顔に手を当てた。
「お嬢さん、火あぶりで感じちゃったのかな? あふれる愛液でマッチの火が消えちゃったよ。罰として次は」
ペッパーは五、六本のマッチを束にして擦った。
「これだ」
「ひぃ!」
な、なんという炎じゃ! そんなものであぶられたら、わしは、わしは……。
「はああああああ!」
次に襲い来る灼熱の快楽を待ち構えているが、それが一向に来ないと気付くのにしばらくかかった。先ほどまで強気じゃった男二人に目をやると、目の前で抱き合って震えておる。なんじゃ、何が起きたんじゃ?
「ばばばばば、バケモノ!」
「本物の、妖怪!?」
言われてわしは自身を省みた。ふかふかの体毛に九本の尻尾、体の汚れや付けられた南京錠はそのままじゃが、これは……。
「しまった、術が解けておる!」
「た、助けてくれー!」
逃げる男の背に向かい、わしは手を伸ばした。
「ま、待つのじゃ! わしは怖くなぞない! じゃから、じゃから続きを! 後生じゃあ!」
しかし男どもは止まらず、走り去ってしまった……なんということじゃ、せっかく盛り上がっておったのに、これから最高潮を迎えるところじゃったのに!
「そこまでだ、妖怪」
背後の石段の上から、若くて身なりのよい男が刀と鉄砲を携えて飛び降りてきた。
「我は十三代目式之助(しきのすけ)。人の精を喰らう妖怪よ、何故人里をおそ……う?」
威勢よく出てきた男は面食らっているようじゃった。それもそうじゃろう、目の前にいるのは両乳首と陰核に南京錠を付けられ、精液と土に汚れた幼い狐なのじゃから。
「おい妖怪、このただならぬ妖気は貴様のものか?」
「そうじゃ」
「本当にそうなのか? 嘘偽りならこの場で滅するぞ」
わらわは指先で男の装束に触れ、結界に用いている札のことごとくを砕いてやった。ふん、造作も無いわ。
「なっ! 結界が……いや札が砕けた!?」
「なあ、聞いてくれるか若造」
わしは妖怪を知る人間になら話が通じると思い愚痴ることにした。
「わしはな、若くして九尾になったのじゃ。それはもう厳しい修行を積んでの。じゃがそれと引き替えに、若いまま成長しない体になってしまったのじゃ。わしとて男と戯れたい、か弱い女として一度くらい押し倒されてみたかったんじゃ。それがどうじゃ、みなわしの力を恐れてうやうやしくかしこまるばかりで乱暴に扱おうなどとするものはおらんかった。百年以上、それが当たり前だと思っておった。じゃがな……フルール、出てきてもよいぞ」
隠れていたフルールが居心地悪そうに姿を現した。
「どうも、妖精のフルールです」
「見よ、こやつのかわいらしさを。見た目はわしと遜色ないのに、こやつは多くの男から乱暴に扱われてきたという。無い物ねだり、贅沢というかもしれんが、わしはうらやましかった。か弱いおなごとして扱われるこやつが! だから獣憑きの少女に化けて、男どもを誘惑しておったのじゃ」
式之助を名乗った男は目を丸くしながらも、わしの話は最後まで聞くつもりらしく口を挟まなかった。
「いざ乱暴されてみれば、それはまあ楽しい時間じゃった。しかし終える前に術が解けてしまっての、逃げられてしまったのじゃ。あとは見たとおりじゃ、達しきれぬ女の未練、おぬしにわかるか?」
唖然とした顔で聞いていた式之助は腕を組んだまま、神妙な顔で答える。
「妖怪の事情を人間、まして男のオレにわかれと言われても無理がある。それにだな、それは陰陽師に言うようなことか?」
正論で返してきおったか、こちらの気も知らずぶっきらぼうに扱いおって。ならばこちらも正論で行かせてもらおう、妖怪なりのな。
「陰陽師は妖怪の処理も仕事、そうじゃったの」
式之助は迷わず即答する。
「そうだ、それがどうした」
「わらわと交わってはくれぬか。そうすれば、街を立ち去ってやろうぞ」
「なっ!」
陰陽師としてのプライドか、式之助は腰の刀に手を置いたが、わしとの力の差を思い出したらしく、悔しそうに手を元に戻す。
「立ち去らなければ、どうなるんだ」
「わらわの部下たち、いや同盟の妖怪たちまでも街へ押し寄せてくるじゃろうなぁ。その程度の結界しか持たぬ近代の陰陽師らでわらわたちを押さえられると思うてか?」
式之助はしばらく考え、刀と銃を地面に置いた。
「悔しいが、お前を封じる力を持てなかったオレの責任だ。覚悟を決めよう」
わらわは式之助の家に招かれ、中へ入る。まじまじと見たが、式之助はわしが思ったより若い男じゃった。精悍で、しかし幼さの抜けきっておらぬ気持ちのよい顔をしておった。家はそれほど裕福という感じがせぬのは時代の流れか、陰陽師を敬う人の心も消えかけているのかのう。
「氷奈雫、支度が出来たぞ」
わしは床に座して愛撫を受けることにした。もはや化ける必要は無い、わらわの柔らかい毛を幼子をあやすように撫でるがよいぞ。
「お前、妖怪の割に暖かいな」
「狐じゃからの、わらわの尻尾でくるんでやろうか?」
式之助は女になれていないらしく、初めはわらわの全身の毛並みを楽しむばかりじゃった。それもまた味なものじゃが、もっと激しくほしいものじゃ。
「ほれ、先ほど火であぶられた南京錠を見てみよ。根元の陰核がこんなに腫れておる……式之助よ、手当てしてくれぬか?」
床から離れて薬箱を手にしようとする式之助を見て、わしは大声で引き留める。
「馬鹿者! 舌でなめろと言うておるのじゃ」
不満そうにしながらも、式之助はわらわの股に顔を埋めた。ああ、やはり毛に埋められる方が心地よいのう、股全体がわさわさするわい。
式之助の口が持つ熱が、日に焼けた陰核の痛みを更に強めた。じゃがそれ以上に、南京錠に押し広げられる刺激を強く感じる。これが終わったら、わしの陰核は大きくなってしまうのじゃろうなぁ……ああ、そうしたらもう皮の中には収まるまい。なんてはしたない体じゃろう。
「ああ、うまいぞ式之助。なかなか見込みがあるのう」
「そんなことで陰陽師を見込むな」
つれぬことを言うのう、人間の男ならもっと貪欲にならぬか。
「のう式之助、南京錠を思いっきり引っ張ってはくれぬか?」
不思議そうな顔をしながら式之助がわらわの体毛から顔を覗かせる。
「そんなことをしたらもげてしまわないか?」
「大丈夫じゃ、妖怪は頑丈に出来て折る」
式之助に南京錠を引っ張られ、わしは甲高い叫びを上げる。乳首が、陰核が、あり得ない異物をどけようと集まる血で膨らみ怒張しておる。苦しいほどに心地よい。
「ああ、上手いではないか、もっとじゃ、次は札を張ってわしに封をほどこすのじゃ」
「お前を封じられるほど強力な持ち合わせはないぞ」
「いいんじゃ、こっちで妖力は調整する」
式之助の操る札がわらわの全身に張り付き、妖力を封じようと結界を張り始める。わしは力を押さえたままわざと抵抗して、結界からの反発を楽しんだ。大妖怪と言えば封印されるもの、封じられている間は人間の好きにされてしまうものじゃ。自由を奪われなすがままされるがまま、ああ、あこがれじゃ。
見ている式之助は肝を冷やしているようだったが、それならそれで役割がある。
「式之助よ、封印が弱まっておるぞ。わしの集中を妨げるためにも交尾をするのじゃ!」
「はぁ?」
札を操りながらあきれた顔でわしを見ておる、使えない男め、ならばこうじゃ!
「ふん!」
わしは右の手だけ結界を突き破り熱気と冷気の渦を作り、こけおどし程度に渦を天井に向かって放った。壁を巻き込み本流する渦が立ち上った炎を凍らせ、ほむらの形を留めた水蒸気を残し建物だった木や石を跡形もなく消し去った。
「こ、これが九尾の狐!?」
「無礼者め、こんなものではないわ! さあ、街を破壊されたくなくば早くわらわに逸物をささげるのじゃ!」
覚悟を決めたらしく、式之助は袴の紐を解いた。
「ええい、ままよ!」
「ま、待て式之助!」
な、なんという巨根! なんという形! この男、こんな秘宝を隠し持っておったのか!
「おい、お前がけしかけてきたんだろう」
「し、しし、式之助! それはおぬしの全開か?」
「は?」
わらわの言葉が呑み込めておらぬのか、式之助のやつ首おかしげ手おる。要領を得ぬやつじゃ、風情はないがこの際ハッキリ言ってやろうぞ!
「そのチンコは完全に勃起した状態か!?」
「なんでまた……そんなわけあるか、この状況で興奮してたまるか」
「す、すぐに挿れるのじゃあ!」
式之助は不慣れな手つきでわらわの腰を掴み、その珍宝を子宮めがけてねじ込んだ。
「あああああ、これはたまらぬ! なんたる一品! このようなものを味わえるとは思わなんだぞ!」
太くて固い男の魂がわらわのなかで熱く脈打っておる、というのに手つきはまるでうぶな少年じゃ。この落差、なんとも言えず甘美じゃあ……痛みとは違う洗練された心地よさ、しかも動くたびに南京錠が揺れ陰核まで刺激されるおまけ付きじゃ。これは本当に封じられてしまうかもしれぬのう。
「式之助よ、おぬしを気に入った、狐になれ! 九尾になるまでわらわが鍛えてやる、共に長い年月を生きようぞ!」
「黙れ妖怪狐! 今はこうしているが誇りまでは捨てていない!」
「ならばその気にさせてやるまでじゃ、わらわの中の心地よさ、思い知らせてやる!」
わしは腹に力を込め、式之助のチンコをあらん限り刺激してやった。
「ぐああ、これは……」
さすがにたまらぬらしく、式之助の顔がゆがむ。こやつ、やはり女には慣れておらぬようじゃ。
「はああ、まだ大きくなる……おぬしは最高じゃ! その気にさせるまでこの春秋氷奈雫、諦めずおぬしに快楽を……おろ?」
な、なんじゃ、封印が強まってきておる! まるで式之助の逸物が触媒になっておるようじゃ。まさか、陰陽師の精がわらわの子宮から臓物ごと封じようとでもしておるのか!?
「ふざけるな、帰るという約束はどうした」
式之助は気づいておらぬ、どうしたものか、本当に封じられてみるか? しかし、そうなったら里のものは、いや、それ以前にもう人と交わることも出来なくなる、こので最後……恐ろしい、じゃが、この先も見てみたい、感じてみたい。わらわはどうすればよいのじゃ!
「あ……」
い、いかん……迷っているうちに封印が強まって……もう、わらわの力でも抜けられぬ。
「すまぬ式之助、約束は守れぬようじゃ」
「なんだ、どういう意味だ」
妖力が弱まるのを感じ、わしは初めて弱気になった。
「ふふ、おぬしの封印が本当にわしに勝ったようじゃ。式之助よ、もし許すならわしを封じたのち式神として使役してくれ。せめてわらわに打ち勝った男の役に立ちたいのじゃ」
「急に何を言い出す……なんだ!? 札も使っていないのに消滅しかかっている?」
あえぎながら、わらわは式之助に抱きつき、吐息で胸を温める。そのまま胸元によりかかり、耳をこすりつけるようにしてもたれかかる。愛する男よ、どうかわらわを抱きしめておくれ。
「お前の逸物が封印の触媒になっておるのじゃ……大した男じゃ、こんな切り札を持っておるとはのう。しかし、ただ封じられるのは口惜しい。じゃからこの力、おぬしにくれてやる、せめて惚れた男に使われたいのじゃ。式神になれば、わらわの意識も残るかもしれぬしのう」
消えゆく意識の中、わしは最後に式之助の手を握った。ああ、若くて暖かくて強い手じゃ。この手に呼び出されるのなら、幸せというものかもしれぬ。
「まて氷奈雫! 勝手に式神になるな、里に下りてくる妖怪はどうすればいい!」
「わらわを使い撃退するがよい、おぬしのためなら、同胞もよろこんで討とうぞ……たのむ式之助、最後にわらわに、口づけしてくれぬか……」
「正気か、オレとお前は出会ったばかり、しかと人と妖怪だぞ」
「一目惚れとはそういうものじゃ」
わらわの尻尾が消えかけたそのとき、式之助はわらわの陰核に付いた南京錠に小さな札を貼った。
「お前は人を殺めていない、封じるわけにはいかん。それに、女にそこまで言われてはな」
式之助を通して、力が戻ってくるのを感じる。なんじゃ、何が起きたんじゃ?
「お前にまじないをかけさせてもらった、人間に危害を加えればその力を封じると。逆に言えば、人に手を出さねばお前が封じられることはない」
あっけにとられるわらわを見ながら、式之助が次々と南京錠に札をする。
「この札は一度張れば剥がれても効果がある。が、おまえの体に直接張るよりはこちらのほうがいいだろう。こちらには、オレとの式神契約の呪い。こっちは、他の陰陽師がお前を封じることのないようにするための呪いだ」
「式之助……」
「勘違いするな、受け入れたわけではない。お前はわがままだが人を傷つけるつもりのない妖怪だからな。野に放って他の妖怪を見張らせれば、そのほうが益になると思っただけだ」
この若造が……ういやつよ!
「やはりわしの伴侶はお前しかおらぬ! 今日からわしはおぬしの妻じゃ、おぬしと暮らしおぬしの子を孕み共に生きていこうぞ!」
抱きつくわらわを押しのけ、式之助は必死に言葉を返す。
「話を聞いてなかったのか!? 九尾の狐だろう、部下を見捨てるようなやつをオレは妻に迎えんぞ」
「では、どうすればよいのじゃ?」
「とりあえず家に帰れ、妻に迎えるかどうかは保留だ。だが、世継ぎくらいは考えてやらんでもない」
「はぁはぁ、式之助よ。今日はなかなか激しかったぞ……」
「黙れ変態狐め、毎日のように降りて来やがって……もう半年だぞ、本当に人間と狐の間に子供なんて出来るのか?」
わしが人里に通うようになってもう半年が過ぎていた。粘り強い説得の甲斐あって、式之助は世継ぎをもうけることに同意してくれた。今はフルールに頼み、式之助にフェアリーシロップを飲ませては毎日のように激しい交尾にあけくれておる。
「当然じゃ、しかもわらわは九尾じゃぞ? 陰陽師のおぬしとは相性抜群なのじゃ」
「の、割にはおかしいんだよね~。ボクのシロップには妊娠しやすくなる効果もあるはずなのに」
フルールも不満ありげじゃな。しかし、先人たちに出来てわらわに出来ぬ道理はないからのう。
疲れた体を持ち上げ、式之助が声高に訴える。
「お前、まさかわざと妊娠しないよう細工してはいないだろうな」
疑われたものじゃ。が、狐を長くやっておるとその程度のこと気にもならなくなるものじゃ。
「世継ぎが生まれなければ困るといったじゃろう、もしそうするなら一人は産んでからじゃ」
それもそうかと式之助は納得したようで、再び寝床に体を預けた。
「なあ氷奈雫、生理の日を教えてくれよ。シロップがあってもこっちは生身の人間、さすがに精根尽き果てるぞ」
「式之助、生理とはなんじゃ?」
フルールと式之助が勢いよくわしの顔を見る。
「おい氷奈雫、股から血が出たことはあるか?」
なんじゃ、式之助も恥ずかしいことを聞くのう。
「わしを何歳だと思うておる、生娘はとっくに卒業しておるわ。ああ恥ずかしい、あのころは些細なことでも痛かったのう」
「それ以外の時は、血は出ないの?」
今度はフルールが口を開いた。二人して何の真似じゃ?
「出るわけなかろう、破れるものがないのじゃからな」
二人はわしの顔をにらんだまま、ゆっくりとにじり寄ってきた。な、何だというのじゃ、わしは何か変なことを言ったのか?
「フルール、フェアリーシロップをありったけ飲ませよう」
「了解、シキノスケ」
わわ、何をするのじゃ二人とも! 顔が怖いぞ? ああ! 式之助、精根尽きたと言うのにもう一度交わるのか、よいぞよいぞ……え、飲みながらやれじゃと? それでは風情が……あああ、わかったのじゃ! 飲むからもっと激しくするのじゃあ!
わしは館の座敷で息子の湖香夏(こかげ)に乳をあげながら、なぜ世継ぎが生まれたのかしつこく聞いてくる清丸にことのいきさつを説明してやった。だというのに、なんと失礼なやつじゃ。清丸のやつ、まるで馬鹿を見るような目でわしを見ておる。
「そうして湖香夏さまを授かり、あまつさえ使役の契約まで結ばれた、と。そう申されるのですね?」
「そうじゃ、何か問題でもあるのか?」
痛そうに頭に手を当ててのち、清丸はひれ伏して願い出た。
「一生のお願いでございます、その話はこの場限りとして湖香夏さまの、いえ他の誰の耳にも入れずにおいてください!」
「ふむ、合点はいかぬがお前にそこまでされては折れぬわけにもいくまい。よろしい、この話はこの場限りじゃ。湖香夏よ、今の話は忘れるのじゃぞ?」
赤子の湖香夏はうれしそうに笑っておる。ふふふ、よい子じゃ。すくすくと育つがよいぞ。大きくなった暁には母自らが相手してやるからの。
「それと氷奈雫さま」
「なんじゃ、まだあるのか?」
「先ほどから胸元で見えている黄金色のそれ、まさか南京錠ではありますまいな?」
清丸も無粋なことを聞くものじゃ。
「南京錠に決まっておるじゃろう、式之助に送ってもらったのじゃ、どうじゃ、似合うじゃろう?」
結局、清丸のやつが外さぬなら腹を切ると言い出したため南京錠を外すこととなった。まったく、頭の固い家臣のせいで思い出の品が処分されてしまったわ。今度式之助に言って新しいものを用意させねばのう。
お狐さまはお好きもの