幻の思い出。
大好きだったもの「お父さんの作る卵とじ。」
幼い頃の思い出は
割れて捨てられた風船のようなもの。
時が経てば
記憶の隅に追いやられ
パンパンに膨らんだ心がいつしかすりかわる。
(父と食べたアイスクリームの味が思い出せない。)
手元にはもやがかかり
「見てはいけないよ。」と
止められているようだ。
「それが何味だったのかを、はっきりと思い出したい。」
手を繫いで歩いた
遊園地の喧騒の中で。
私はもう一度
しぼんだ風船に空気を入れる。
父と歩いた場所を
今度は迷わぬよう
確実に歩く為に。
幻の思い出。