幻の思い出。

大好きだったもの「お父さんの作る卵とじ。」

幼い頃の思い出は
割れて捨てられた風船のようなもの。

時が経てば
記憶の隅に追いやられ
パンパンに膨らんだ心がいつしかすりかわる。

(父と食べたアイスクリームの味が思い出せない。)
手元にはもやがかかり
「見てはいけないよ。」と
止められているようだ。

「それが何味だったのかを、はっきりと思い出したい。」
手を繫いで歩いた
遊園地の喧騒の中で。

私はもう一度
しぼんだ風船に空気を入れる。

父と歩いた場所を
今度は迷わぬよう
確実に歩く為に。

幻の思い出。

幻の思い出。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-15

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