Pineapple
「お腹すいたね。」
『そうだね。どっか食べにでも行く?』
「んー、」
(あ、でもさっき部屋着に着替えちゃったんだ)
ついでにメイクも落として、おろしていた髪もお団子に纏めてしまっていた事に気がつき考えていると、彼が作ると立候補してくれた。
「本当?じゃあね、」
オムライスをリクエストしようと思ったら、
『オムライスでいい?』
(あ、今言おうと思った。)
「オムライスでお願いしマス。」
『りょーかい。できたら呼ぶからゆっくりしてて。』
キッチンに立つ姿を盗み見る。
やっぱりかっこいいな、なんてのんきなことを考えていたら、彼がエプロンを付けていた。
「あ、それ、この間見た新作でしょ?」
彼が付けたデニムブルーのフルエプロンは、二人がお気に入りのブランドのリネンエプロンで、先週お買い物に行った時に見つけたものだった。
そろそろ新しいエプロンが欲しいと思っていた時に見つけたそれは、ウォッシュド加工がされている柔らかい素材感で、カラーバリエーションも豊富で迷ってしまうほどだ。
『うん。やっぱりいいなって思ったんだよね。』
濃い色で、やっぱり彼に似合ってると思った。
(私も買えば良かったんだけど、先週は色に迷ってたから買わなかったんだ
今週あたり買ってこようかな)
そう考えていると、
『あ、一緒に見てたアクアブルーのエプロン買ってあるよ。』
咄嗟に言われた決めていたカラーに、一瞬驚いた。
「え、あ、ありがとう。」
返答がぎこちなくなってしまった。
(なんで分かったんだろう)
一緒にお店で見ていた時、葡萄みたいな鮮やかな紫色のメランザーナと、爽やかで優しい印象のアクアブルーの二色で迷っていて、改めてネットで見て迷った結果、後者の色に決めた事は彼に伝えていなかったのに。
いい香りがリビングまで広がってきたので、そろそろ出来る頃だと思い、カトラリーを取りにキッチンへと向かうと、ちょうど彼からお呼びがかかった。
『はい、できたよ。』
「ありがとうございます。」
彼が作ってくれる料理はどれも好きだが、中でもオムライスは私のお気に入りで、ケチャップライスが黄色い卵にきちんと包まれていて、洋風だったり和風だったりでバリエーションも多い。
今日はケチャップライスにバジルが入っていて、ソースは粉チーズと黒胡椒が隠し味のトマトソース。
私がいちばん好きなオムライスで、食べたいと思っていた味だった。
「ご馳走様でした。美味しかったデス。」
『お粗末様でした。』
二人分の食器を流し台へと片付けて、そのまま洗い物をする。
特に決めている訳でないが、作ってもらったほうが洗い物をするという流れは、この同棲生活を始めた頃から自然にできたものだった。
彼は隣で、お決まりの食後のコーヒーの準備をしていた。
スポンジに洗剤を付けて、泡立てていく。
(あ、パイン食べたいな)
ふと浮かんだが、洗い物に意識を戻す。
コンビニで売ってるカットパインは、缶詰とはまた違う甘さが好きで、見つけるとついつい買ってしまう。
帰り際に近くのコンビニに寄ったが、既に売り切れていた事を思い出した。
明日は会社近くのコンビニに寄ろうと考えていると、
『あ、さっき帰ってくる時コンビニ寄ったら、カットパインがあったから買ってきた。冷蔵庫に入ってるよ。』
「うえっ?!」
洗っていた皿を落としそうになって、泡だらけの手を止めて、隣にいる彼を見る。
『ん?どうかした?』
コーヒーを啜っている彼と目が合う。
「なんで、」
『え?』
「なんで、分かるの?」
食べたいものも、オムライスの味も、エプロンの色も、
「私のこと、どうして分かるの?」
そう言うと彼は、私に近づいて耳元で囁いた。
剥き出しの耳にキスをして、私の顔を見て満足そうに笑みを浮かべた彼は、コーヒーの香りを残してリビングへと向かっていった。
(色々と反則なんですよ)
キッチンに残された私の顔は真っ赤だった。
"『そりゃ分かりますよ。
他でもない好きな相手の事だから。』"
パイナップルの花言葉
『You are perfect.(あなたは完璧です)』
Pineapple
Pineapple(パイナップル)
別名アナナス、鳳梨ともいうパイナップルは、果実上部の葉を切って植えると、根が付くことがあるそうです。
沖縄では、ハブがいない島ではパイナップルも育たないのだそう。