ちいさなしあわせ
戦国BASARAの学園パロです。注意点はホモが出てくるトコロ。
戦国時代から転生を繰り返す人たちが、現代でまた出会います。織田信長が理事長、武田信玄が副理事長を務める傾奇学園が(一応)舞台。
前世の記憶があったりなかったりして、それでも彼らの深い縁が固く結ばれている世界。
このお話では伊達政宗と片倉小十郎が主役。2人のホモばなしになりますのでご注意を。
伊達政宗:2年A組 記憶無 剣道部 元●クザ・現大手建設会社伊達組の跡取り息子 小十郎が大好きな乙女男
片倉小十郎:記憶有 政宗の世話役かつ伊達組の一級建築士 松永とは同じ孤児院出身
長曽我部元親:2年B組 記憶無 生徒会副会長・科学部 政宗とは中学から一緒で仲良し。
猿飛佐助:2年A組 記憶有 生徒会書記・サッカー部 政宗とは高校からの付き合いだけど仲良し。
真田幸村:2年A組 記憶無 剣道部 政宗とは中学のときからの剣道部でしのぎを削ってきたライバル。いまはいい友達。
※この作品はフィクションです実際の人物名・団体名などは一切関係ありません
好きだと軽々しく言えるほど近くもなく
縁を切ってしまえるほど遠くもない
俺と小十郎はそういう関係だ
別にこのまま微妙な関係を続けていても構わないと思っていた
ずっと変わらない
そう本気で信じてた
朝起きると、彼は白地に青のストライプが入ったエプロンをして朝食を作っていた妙にエプロンが可愛いのでミスマッチぶりが笑いを誘う
「おはようございます、政宗様」
「ああ」
笑いをこらえながら、ダイニングのいすに腰を下ろす
今日は天気がよくて、空気が心地いい
そして香りの良いコーヒーの匂いが鼻をかすめて朝を迎える気持ちよさに浸っていた
「今日はハムエッグか?」
「ええ、トーストは何枚お焼きしましょうか?」
「2枚」
「はい、ではお待ちください・・・コーヒーは先にお注ぎしますから」
いつもの朝の会話
俺はこの朝の時間が好きだ
小十郎と二人だけで過ごせる唯一の時間
だから遅刻ぎりぎりまでゆっくりとすごすのが日課だった
あまりにものんびりしている俺に小十郎は不満のようだけれど、これだけは譲れなかった
しばらくすると小十郎がハムエッグとトーストを運んできた
おいしそうな匂いが食欲をそそる
「お前が洋食作るなんてめずらしいな」
「たまにはいいでしょう?ちゃんとサラダも添えてありますので残さないように」
一緒にご飯を食べるのは昔から変わっていないが、いつの日からかとても特別なものになった
昔から言われることが変わらなくても、子ども扱いされても
小十郎に縁談の話が来ても、女が出来ても、これだけはやめないようにと願った
誰にもこの時間を取られたくなかった
この時間しか、小十郎を独占できないから
食べ終わった小十郎が食器を重ねていすから立ったとき、目が合った
俺はコーヒーを飲んでいて、その瞬間吹き出しそうになった
まともに小十郎の顔を間近で見るのは久しぶりで、心臓が高鳴った
「・・・政宗様、眼帯を付け忘れていますよ」
「そういえば、忘れてたな・・・ポケットに入ってたはずだ」
右目に手を当て、眼帯がないことを確認する。
病により失ってしまった右目
光を失った目は色が変わって周りから変な目で見られるのに耐えられず、俺は眼帯を常につけることを選んだ
でも、小十郎だけが「隠すことなどない」といってくれた
その言葉を受け入れて生きていけるほど、俺は強くなれなかった
ただ、小十郎の前だけでは、目の形も失った醜いただれた皮膚をさらけ出すことが出来る
そんなことを考えながらポケットをまさぐって探した
人前で眼帯をしていないときがないものだから、どこかに入れる習慣がないためにどこにいれたかわからない
中々見つけられない俺に小十郎は心配したような顔をして見守っていた
「ありましたか?」
「ちょっとまて・・・ああ、あった」
探し当てた眼帯を小十郎に見せると、彼はそれを手に取って俺の後ろに回り込んだ
「よかった、じゃあじっとしていてください」
小十郎が眼帯をつけてくれている
ひもが髪にかからないように丁寧に結んでくれていて、時折髪に触れるその手の感触が気持ちよかった
髪の一本一本の先まで、神経が敏感に反応していておかしくなるくらいで
そんな俺の様子を、小十郎はどう見ているんだろう
でも、そんな羞恥心が働くより先に、小十郎が俺に触れている喜びの方が勝ってしまうのだ。
「・・・できましたよ」
そういって小十郎は自分と俺の食器を片付け始めた
「すまん・・・」
そういうのが精一杯だった
自分でもわかるくらい顔が火照ってる
小十郎は軽く微笑んでキッチンへ入っていった
どうしよう、死ぬほど嬉しい
女みたいに俺は喜んだ
小十郎の優しさが嬉しくて
俺のために気遣ってくれたのが嬉しくて
「熱い・・・」
今、死んでも構わないかもしれない
本気でそう思える自分がおかしかった
校門の前で元親と偶然にも合流し、一緒に教室に入る
元親は生徒会副会長で学年1位なくせに、教師からの風当たりが非常に強い
授業には割りかし積極的に参加はしているのだが、教師と対等に渡り合おうとするのが理由だろう
また、遅刻ギリギリなことも多いし、異様にヤンキーに好かれて慕われている
「お前、よく生徒会役員なんかなれたよな」
「俺もよくわかんねぇんだよ・・・ま、ラッキーだったよなぁ」
元親がつまらない生徒会に入った理由は一つだけ
そこに毛利元就がいたから
「いいんだよ、何を言われようとも・・・あいつに嫌われなければそれでいい」
そう言い切れる元親がうらやましい
きっとこいつらは強い
強いがゆえに儚い
でもどうしてもうらやましい
愛して、愛しきれるだけの想いがある
俺には持てない
そんな重いものを、小十郎に背負わすことも出来ない
それ以外のモノを既に背負わせてしまっているから
背中に刻んだ竜が、俺と小十郎に一頭ずつ
もう消せない
「いいな、ちかは」
そういうと、元親は苦笑して俺の頭をポンと軽く叩いた
放課後、かったるい部活を終わらせて幸村と一緒に帰る
真面目に毎日部活に行ってインターハイで優勝してくる幸村とは違い、俺は時々顔を出して肩ならしをする程度
今日は久しぶりに出ることが出来たわけだ
中学までは幸村と肩を並べて優勝していたし、個人戦では同じ学校だっていうのに幸村と優勝を争っていた
でも、高校に入って状況が変わってしまい、部活に毎日いくのは難しくなってしまった
もう、仕方がないこと
そう思わなければ、やってられない
そうでなくては、小十郎にあんな重責を負わせてしまったことを後悔することになってしまう
「政宗様」
低く響く声
声の主は小十郎だった
校門の前に車をとめて、彼はずっと待っていたようだった
下に落ちているタバコの本数がそれを物語っていたから
「小十郎、車で学校に来るなって言ったろ」
「今夜は雨が降り出すようなので・・・お迎えにあがりました」
「そうか・・・ゆき、乗ってくか?」
「ううん、遠慮しとく!」
そういいつつ、ちょっと意地悪な笑みを返す幸村に俺はすぐ言葉を返すことが出来なかった。
別に気を利かせなくてもいいのに、とは言えないし。
「この野郎・・・じゃあまた明日な」
「またね」
幸村を見送っていると、小十郎が歩み寄り車のドアを開けた。
「政宗様、ではお乗りください」
「ああ、気を使わせてしまって悪いな」
「あなたこそ気を使わなくていいのです・・・私はあなたの僕ですから」
その言葉に、俺は罪悪感を抱いた
ずっと心にひっかかっている咎
俺さえいなければ、もっと自由に生きれるのに
でも小十郎をいつまでも自分のものにしていたいという欲望が、俺を支配している
そんな咎がなかったときから、俺は小十郎を手に入れたくてしょうがなかったのだ
ただ、聞きたいことがあった
こうなった運命を小十郎はどう受け止めているのかを
「お前は俺の僕で、満足か?」
心臓がドクドクと脈打っているのがわかる
鼓動が強くて早くて小十郎に聞こえてしまったらどうしようと思った
「ええ満足ですよ」
その答えをほっとしながら受け止めた
嬉しくて、気が狂ってしまいそうだった
心臓を両手で押さえながらバックミラーに写る小十郎をみつめた
目が合えばいいのにと思っていると、小十郎は続けていった
「それに親父のご命令ですから」
安心した途端にこれだ
足元からがらがらとすべてが崩れていってしまったような気分になった
やはり、俺が思った通りだった
彼にとっておれとの関係は仕事なのだ
俺と同じものなど望んでなどいない
「そーだな・・・命令じゃなきゃ、やらねーよな」
「政宗様?」
「変な質問をして・・・悪かった」
あきらかに気を落とした俺の声に昔から俺の世話をしている小十郎が気づかないわけがなかった
でも、隠せるほど俺には余裕がない
小十郎のことだけ、俺は俺を見失う
どうすればいいのか、いつもわからなくなる
自分だけが小十郎の言葉や行為に一喜一憂して、本当にバカみたいだ
外を見ると、雨が降り出していて窓にいくつもついた水滴のせいで景色がぼやけて見えた
一瞬、涙のせいかと思ったが、違った
違ってよかったと本当に思った
「本当に降ったな・・・迎えにきてくれてありがとう」
「・・・いえ」
早く家についてほしかった
一刻も早く部屋に入って布団に潜り込んで・・・声を殺して泣きたい
小十郎に気づかれないように静かに
どうやって、この気持ちを押さえればいいのだろう
どうやって、一緒に歩いていけばいいのだろう
俺が諦めればいいだけのことだというのはわかっている
でもそれができたら、どんなに楽だろう
その答えがわかるのはいつなのかわからない
甘かった
こんなに俺は小十郎のことが好きだ
自己中にもほどがある
どれだけ小十郎に押し付ければいいのか
仕事とはいえ人生を全て俺に捧げてくれているのに
それだけじゃ足りなくなってる
全てを俺にくれないか
そう言えたら、どんなに幸せだろう
誰か、俺を止めてくれ
溢れ出るこの想いを塞き止めて
長年巣食うこの気持ちを忘れさせて
きっと、一緒にいるのが辛くなる
「着きましたよ」
小十郎がかすれた声でつげた
気づくと俺のマンションの駐車場だった
「ああ」
俺は荷物をとって車のドアを開けようとしたら、小十郎がすばやく開けにきてくれた。
「あの・・・お風呂を沸かしておきましたので」
「わかった」
「いえ・・・」
早く風呂に入って寝よう
そしてまた、あの時間を大切に過ごす自分に戻りたい
このままいたら心が折れてしまいそう
「今日はこれで帰っていい。夕飯も用意してくれてるんだろう」
「いえ、まだ終わっておりませんが」
「じゃあいらない・・・頼むから・・・帰っていいから・・・」
これ以上言葉を紡げない
もう堰を切って涙が溢れ出してしまいそう
「じゃあな・・・」
逃げるようにエレベーターホールに入ってボタンを押す
都合良くこの階に止まっていてくれてすぐのってドアを閉めようとした
ガタッ
「こ・・・小十郎・・・」
閉まろうとするドアを無理矢理止めて入ってきたのは小十郎だった
車に鍵を閉めてきたのだろう
少し時間のロスがあったために、彼の息は少しあがっていた
早く一人になりたいのにと思いつつも、言葉が出てこない
目を合わせられない
「何故、逃げるんですか」
「逃げてなんか・・・ない・・・!」
彼はその言葉に右手を壁に打ち付けた
辛そうな顔をしていた
「俺をなんだと思っているんですか!!」
小十郎が感情を表に出すこところなどみたことがなかった
俺はますますどうしていいかわからない
なのに小十郎は俺に向かって歩いて近寄ってくる
俺の意識より早く、小十郎が俺の頬を両手で包んだ
「こじゅ・・・っ!」
キスをされているのだと気づいたのは、唇を一瞬離れされてからだった
しかしまた唇は塞がれてしまい呼吸が苦しくなるのを感じた
舌を絡められ、頭の中はすっかり真っ白
ようやく呼吸を許された俺はすっかり腰砕けで
「私はそんなつもりであなたのそばにいるわけじゃない」
「小十郎・・・?」
「あなたと生きていける今を、俺は・・・!」
彼は俺を抱きしめて泣いていた
泣きたいのは俺だったはずなのに
この男の言葉に傷ついて、泣きたかったはずなのに
でもこの男が愛おしいことに違いはなかった
ちいさなしあわせ