嫌い……でも、好き。
~姿~
中学生の夏。
君は僕の前から姿を消した。
僕の脳裏に強く姿を残して……
~転校生~ 1
高校生、春。
僕は何にも代わり映えのない生活をしていた。
「たっくん、なんか今日テンコーセー来るらしいよ!」
「本当?まだ2カ月にもならないのに珍しいね」
「なんか、高校行ってなくて試験受けなおしたらしいよ」
僕の上辺だけの友達、斉藤流が横でペラペラ話す。
斉藤君は情報をよく持っていて何かと僕に話す。
「名前は確か……」
「斉藤君、名前まで聞いてきたの……?」
時々、斉藤君の言動には少しあきれることがある。
多分色々と楽しんでやっているのだろうから僕はあんまり否定はしない。
僕自身も本当の姿は見せてないし。
キーンコーンカーンコーン…………
話しているうちにSHRの始まりを示すチャイムが鳴った。
「じゃあ、またあとで話そうぜ!」
「うん、早く席に戻った方がいいと思うよ」
ドアの前には既に先生が立っていた。
その後ろには、一人の女子。この子が転校生だろう。
~転校生~ 2
「おーい、席に着け。皆が座らないと先に進まないぞー」
先生のその声を合図として、席に座っていなかったものは席に着いて、しゃべっていたものは静かになる。
この先生にはなんだか威圧感があるな。
シーンと静まった教室の空気に先生の声だけが聞こえる。あたりまえだけど。
「……じゃあ連絡は以上。皆も知っていると思うが、転校生を紹介する。入っていいぞ」
「はい」
先生に呼ばれて教室に入ってきた生徒。
その姿を見たと同時に僕は息をのんだ。
僕の知っている人。
僕が忘れた時がない人。
僕を冷たい瞳で見下ろしていた人。
『サヨナラ』と残して僕の目の前からいなくなった人。
金色が入った茶色の髪。
パッチリと開いた大きな目。
甘く冷たくやさしい声を奏でる口。
僕のクラスに転校生としてきたのは、僕の、僕の……。
「初めまして、中澤美桜です」
……あれ?
僕はその存在におびえながらも疑問を持った。
彼女の名字が違った。
もしかしたらよく似た別人かもしれない。
「探し物のためにこの学校に来ました」
探し物……?
「よろしくお願いします」
そう言って中澤美桜は僕の席を通り過ぎて一番後ろの席に座った。
~転校生~ 4
中澤美桜と名乗った彼女は絶対に僕の初恋の人、森田美桜だと思った。
嫌い……でも、好き。