夢のあとさき
ーライジングサンのヒロが死んだらしいー
誰かがその書き込みをネットに投稿したが、レスポンスは一つも付かなかった。それを偶然見つけたヒロは、俺どうやら死んだみたい、とメンバーに戯けて見せた。それ書き込んだのきっと俺たちのファンだね、と笑うジュンとケイ。ついに殺されたか、とルイ。自分で書き込んだんじゃないか?とからかうアキ。自作自演するほど俺たちはまだ落ちぶれてないだろう、とヒロはまた戯けて見せた。
ライジングサン、十年ほど前に流星のごとく現れた彼らのバンドは同時メンバー全員がまだ十代だった。幼馴染の彼らが高校生の時に結成したライジングサンはロックをメインにレゲエやラップを取り入れた斬新な音楽で、地元のライブハウスで活動を始めてすぐにメジャーデビューのオファーが舞い込むくらいに、彼らは若さという武器を差し引いても魅力に溢れていた。
メジャーデビュー後すぐに、流行に敏感な若者達の間で注目を浴び、同時のライジングサンの人気は正に飛ぶ鳥を落とす勢いだった。出す曲全てがヒットチャートにランクインし、ドラマや映画とのタイアップによりメディアへの露出は増え彼らの人気は絶大なものになっていった。
この人気、ヤバくないか?とヒロ。怖いんだけど…とジュンとケイ。時代の波に乗ろうぜ、とルイ。行けるとこまで行こう、とアキ。立ち止まる事が彼らにはもう許されなかったのだからー
売れている間に売りまくれ、と言わんばかりにライジングサンの新曲は立て続けに発表された。勢い、というものは確かに存在している。大御所のバンドならいざ知らず、新人のバンドには勢いは必要不可欠なものであり、それが無くなればそれは彼らの終わりを意味する事になる。勢いの後の安定、というものが若いライジングサンには無かった。
”流行の賞味期限”があるのだとすれば、果たしてどれくらいなのだろうか?今の時代、流行るのもあっという間だが、廃るのもあっという間なのかもしれない。ライジングサンの人気は二、三年しか保たなかった。新曲は同じような曲だと囁かれ始め、新境地開拓と路線を変えれば迷走していると叩かれ始めた。そんな事は言われなくても彼ら自身が一番良くわかっていた。
俺たち飽きられたみたいだな、とヒロ。捨てないで…と笑うジュンとケイ。案外保ったな、とルイ。楽しかったな、とアキ。
人気があったバンドに人気がなくなりメディアから姿を消しても、それを気にするのは一握りの本当のファンだけで、大多数の人々は新しい流行りのバンドにすぐに飛ふびつく。ライジングサンが解散しようがメンバーが死のうがもうどうでも良い事なのだから。
あれから十年。ライジングサンは今でも歌い続けている。ひっそりと、けれどしっかりと。いっそ潔く解散していれば楽だったかもしれない。伝説のバンドとして語り継がれていただろう。けれど音楽から離れる事が彼らには出来なかった。金の匂いを感じ群がっていた大人達は賞味期限切れのライジングサンを裏切り去って行った。熱狂的なファン達も熱が冷めると飽きて去って行った。それはどうしようもない事実だけれど、後に残るものが本当に自分達に必要な人やものなのだと言う事を彼らは知った。
過去の栄光にすがっている訳でもない。再ブレイクを期待している訳でもない。時々テレビや街中で十年前に流行っていた自分たちの曲を耳にする事がある。何か恥ずかしいな、とヒロ。懐かしい…とジュンとケイ。良い曲だよな、とルイ。まだイケんじゃないか?と笑うアキ。
誰かがそれを聴いて懐かしいなと感じてくれる、それだけで一生音楽を続ける意義がある。ライジングサン、陽はまた昇る。彼らはそうして今でも歌い続けているー
ーライジングサンのヒロが死んだらしいー
誰かがまたその書き込みをネットに投稿した。今度はレスポンスが付いた。
ーライジングサン?何それ?古くね?ー
ー過去の遺物(笑)ー
ーライジングサン!懐かしい…大好きだったなあ。久し振りに聴いてみようかなー
夢のあとさき