不思議な俺たちの放課後
俺は校門の前に立つ一人の少女に見とれてしまったまま呆然と立っていた。彼女には見覚えがある、というよりクラスで俺の前の席に座ってる谷岡美羽さんだ。
谷岡さんは全体的に見て美人だ。黒い髪は肩まで伸びて、同じく黒い瞳はどこか謎めいた感じがする。身長は女子の平均より少し低いぐらいといったところか、俺より数センチ低い。胸に関しては目をつぶってやるのが彼女のためだろう。セーラー服が普通に似合ってるけど、全くと言っていいほどの無表情なのが少し残念な気がする。
今日は、俺が高校生になる入学式の日で、俺は緊張しきっていた。だから自己紹介でしくじらなかったことは奇跡と言っていい。まあ、正直に言えば、谷岡さんがあまりにも意味不明な自己紹介をしたから俺は緊張するのも忘れ、不思議と常人らしくしゃべれただけなんだけど、彼女が何を言ったのかが全然思い出せない。
そこまでは良かった。でもまさかこんなことになるとは思わなかった。
「千島ハラルド君、一緒に帰ろう!」
彼女はそう叫んで俺の方に手を振っていた、しかも全くの無表情で!というか俺の名前は千島ハラルドじゃねえ!人の名前ぐらいきちんと覚えろ!
我に返った俺は谷岡さんの方へ急いで駆け寄り、自分の名前を訂正した。
「谷岡さん、俺は千島晴男だ!しかも大声で叫んだら皆がこっちに視線を向けてくるじゃん!」
「大声で叫んだのは謝る。でもそうでもしない限り君を逃がしてしまうと思ってやった。だから許して」
そんな無表情で言われても何の説得もないんですけど、あなたは表情というものを知らないのですか?
「後、これから私のことはミューたんと呼んで。呼ばないと社会的に抹殺する」
はい、この人、早速意味不明なことを言い出しました。っていうかミューは著作権的にどうかと思う!
「早く呼ばないと本当にヤバいことをする」
彼女はそう言いながら携帯で俺たちの写真を一つ撮ってからとあるサイト、というか学校が作ったチャット用のサイトに「私たち、付き合ってます」というメッセージ付きで投稿しようとしたので、俺は慌てて禁断のニックネームを口にした。
「わ、分かったよ、ミューさん。だからそれだけはやめて!」
「むむう、さん付けはちょっと不満だけと、嫌いじゃない。改めてよろしく、サウサンドアイランド・ハラルド君、略してアイルド君」
「だから何でそんな名前になるの!?っていうかアイルドだけはやめて!」
「じゃあ、ササララ君」
「もうそれでいいよ」
何でこんなことになっちゃったの?
不思議な俺たちの放課後