夕暮れの道を横に並んで歩いていく
夕暮れの空の下、私はどこまでも続くまっすぐな道を歩いていた。どうしてその道を歩いていたのかは分からない。一体どこから歩き出して、何が目的で、どこへ向かっていたのかも分からない。
だけど確かに歩いていた。アスファルトの舗装なんてありはしない、干からびた土の道だった。乾いた雑草が所々に生えていて、道の両側には幹の太い木々が立ち並んでいた。木々の向こうは暗くてよく見えなかったから、多分森になっていたんだと思う。だとすれば、そこは、どこかの森に挟まれた長い一本道だったということになる。
空はまるで溶け出した鉄のような熱いオレンジ色だった。そこには細かく千切った綿みたいに白い雲が浮かんで、オレンジの色と混じり合って、マーマレードとミルクを混ぜたような綺麗なマーブルが出来上がっていた。
太陽は黄色かった。黄色くて、まるくて、輪郭が少しだけ歪んでいた。まるで線香花火の核のようだったと言えば、その見た目はだいたいあなたに伝わるかもしれない。だけど、それでは少し寂しい。あの太陽はもっと遥かに情熱的で、まさにめらめらと燃え滾っていた。私はあれからというもの、あれほどまでに美しく熱く燃える夕陽を見たことは二度とない。私たちはそこから放たれる肌を灼くような熱を直に感じ取っていた。そしてそれは決して不快な感覚ではなかった。
私たち。そう、私には仲間がいたのだ。一体いつから知り合ったのか、どうしていなくなってしまったのか、それは例によって分からない。忘れてしまった。だけど、私には仲間がいた。私の友達だ。
私の右隣では、私とちょうど同じくらいの背丈の男の子が歩いていた。彼は歩きながら、度々私の方を向いて何かを話しかけた。それは昆虫の話だったり、宇宙の話だったりしたと思う。科学が好きな子だったのだ。きっと。その時はそんな風には思わなかったけれど、今思えばあの子は、私に科学の話ばかりしていた。話の中身はあまり覚えていない。いや、全くもって思い出せない。だけど私は、彼がこちらを向きながら話をしている時に、彼の右の頬に陽の光が当たってその顔がとても生き生きとして見えたのをよく覚えている。おかげで私は、彼の語る話がなんだかとてつもなく壮大なもののように感じていた。それはその長い道の先に見える地平線を超えて、地球上のどこまでも果てしなく広がるような、わくわくするような壮大な話だ。なのにどうして私はその話を一つも覚えていないのだろう。今こうして思い出せるのは、あの時の生き生きとした彼の顔、夕陽が照らすその顔だけだ。
左を向くと、女の子がいた。彼女は私たちの中で一番背が小さくて、自分からはめったに話をしなかった。無口な子だったんだと思う。普段から無口なのかどうかは分からないけれど、少なくともその時は、彼女はとても無口だった。だから私は、右の彼が語り続ける壮大な話の合間に、ちょっと緊張しながら彼女に話しかけた。もしかしたら話をするのが苦手かもしれないから、出来るだけそっと、やさしく話しかけた。すると彼女は小さく相槌を打ってくれた。私はそれで一安心して、それから色々なことを彼女に話したけれど、その内容はやはり全然覚えていない。きっと彼女と仲良くしたい一心で、何かひどくどうでもいい、つまらないことを延々と語っていたのかもしれない。だけどあの子はその度に私の話に真剣に聞き入って、相槌を打ってくれた。
そして、笑ってくれた。その笑顔はとても眩しかった。陽の光も眩しかったし、それに照らされた彼女の笑顔もとびきり眩しかった。
その時私は何か非常に素晴らしいことをやってのけたような気分になって、胸を熱くして、まっすぐに黄色い太陽を見つめた。私の両目に入ったまばゆい陽の光は胸の奥のほうまで届いて、まるでそこに溜まっていた水を蒸発させるかのような熱をジーンと与えて、涙を流させた。私は誰にも気づかれないようにこっそりとその熱い涙を服の袖で拭った。
もう一人女の子がいた。私の右の男の子の、さらに右隣だ。その子はいささか気が強くて、体つきも私より何倍もがっちりしていて背丈は一番高く、笑うときは大口を開けて豪快に笑った。つまり、男勝りな女の子なのだ。私は彼女が楽しそうに大声で笑ったり皆に快活に話しかけたりするのが好きだった。私はあまり声を張って大勢に話しかけたりリーダーシップをとるのがあまり得意な方ではなかったが、彼女は平気で端から端まで皆に声を掛けて、歩みを盛り上げた。その中で誰がリーダーだったのかと聞かれれば、彼女だったと答えるべきだろう。彼女の明るい声は空高く響いて、暗い木々の向こうまで力強く通り、遠くの鳥を羽ばたかせた。
左の端に、男の子がもう一人いた。彼も無口だったけれど、めっぽう気は強そうな方で、どちらかといえば寡黙と表現した方が彼の性格には合っているかもしれない。彼はずっと両手を頭の後ろに回して、遠くの景色をぼんやり眺めながら歩いていた。彼だけは私や他の子のように笑ったり話したりすることもなくて、ただまっすぐに前だけを見て歩いていた。私は子どもながらに、大人っぽい子だと思っていた。じっさい年が上だったのかもしれない。彼は終始(と言っても始まりも終わりも覚えがないのだけれども)何も言わなかったし、ほとんど目を合わせようともしなかった。別に仲が悪かったわけではないと思う。ただ、彼には彼なりの世界があって、皆と同じ道を歩きながらも、全く違うものを見ていたのかもしれない。私は歩きながらふと彼の横顔に目をやって、その揺るぎのない目つきをじっと見ていたのを覚えている。そしてその先に何が見えるのか気になって、私も同じように前方に目を向けてみて、やはりその先の地平線と夕暮れの空と太陽を見て胸に熱いものを感じていた。それが彼の感じていたものと同じだったのかどうかは分からない。ただ私は、少しだけ自分も大人っぽくなれた気がした。
これで全員。私たちは五人の仲間だったということだ。五人の仲間は真横一列に並んで、夕暮れの下、森に挟まれた長い一本道をひたすらに歩いていた。一人の少年が壮大な科学の話を語り、勝気な女の子が溢れんばかりの元気を振りまき、物静かな少女がまぶしい笑顔を見せて、大人っぽい少年がまっすぐに前を見据えて、私は胸を熱くして涙を流した。
夢だったんじゃないかと思うときがある。だけど、例えそれが夢だったとしても、私にはきっとそんな熱く燃える夕陽を眺めたり、仲間たちと並んで同じ道を歩き続けたりしたことがあったはずだと思う。さしずめ夕暮れの道を横に並んで歩いた思い出は、そんな時代の熱意や無限の期待が、一つの凝縮された記憶となって私の中に蘇るものなのかもしれない。
私たちはいつまでもその道を歩き続けている。地平線を越えれば、また新しい地平線と道の続きが現れる。そしてその輝かしい記憶は永遠に終わることなく、度々私の胸の内に蘇り、あの夕陽はいつでもそこに燃えるような熱を与えてくれるのだ。
夕暮れの道を横に並んで歩いていく