在りし火

『在りし火』

 白装束の列が行く
 暗闇の中
 手にはそれぞれ、
 明かりを灯した手蜀を持っている

 ほのかな、燈色のともしびは
 彼らの大切な、
 大切な……


 ずっと昔、彼らは
 貧しく、幼かった頃に火を点けた
 
 ぬくもりは翳した手のひらに伝わって
 染みて、深く
 彼らをあっためた
 
 身体がどうしようもなく凍えて、凍てついた日も
 火はまだ燃えて、
 彼らをあっためた

 彼らは、だから、死者となっても火を離さない

 行列は延々と続いていく
 手蜀の灯は風に煽られて、
 あやうく揺れている

 愚かな彼らは、知らない
 その火の燃えるが故に
 凍え、
 歩き続けるということを
 ……

在りし火

かつてCessnaという名前で投稿したものです。

在りし火

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-11

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