Fake it.
『レイの好きな人って誰なの?』
昨夜メールでやり取りしていた内容を、今この瞬間に持ち出されるとは思わなくて、少しだけ目を大きくしてしまった。
私の背後から、ゆるく巻いてある髪を上手にサイドに寄せ、首の付け根あたりから唇を這わせていく。
「ン、」
小さく声をあげる私に、彼は催促するように続ける。
『で、どんな人なの?』
顔色一つ変えずに、私のシフォン素材のワンピースのファスナーを降ろしながら、鎖骨を指でなぞっていく。
「…っ、昨日、メールで教えたじゃないですか、」
できるだけ冷静に答えたものの、擽ったくて肩をすくめる。
その瞬間、ワンピースが足元へ落ちた。
『似合うね、黒』
胸元がレース地になっているペチコートの下は、同じ黒のサテン地のランジェリーをつけていた。
色っぽいものが好き、そう言っていたあなたの為です、なんて言えないけど。
彼はペチコートの肩紐に手をかけると、スルリと脱がせていく。
『優しくて、カッコ良くて、だっけ?』
昨夜メールで伝えた内容を当人からそのまま言葉として発せられると、辱めを受けているのではないかと思う程、顔が熱くなった。
「そんなに興味ありますか?」
後ろ側にいる彼には見えない表情を隠すように、あえて声色を抑えて疑問形で返す私に、肩に口付けながら、『あとはなんだったかな』と彼が言った。
それに続けるように私は答えた。
「優しくて、カッコ良くて、紳士、だったかな、」
本当は覚えていたけど、とぼけたフリをした。
『紳士ねぇ、』
そう呟くと彼は腰を抱き寄せ、私の左手を掴んで口付けた。
『こんな風に?』
目を細めて、口角を上げた妖艶な彼の笑みに、口付けられた指先から体温が上がるのを感じた。
小さく息を吐き、口元に笑みを浮かべた。
「なんだか、らしくないですね?」
『そうかな?せっかく紳士になろうとしたのにダメか、残念。』
少しも残念そうな様子はなく、妖艶な表情を浮かべた今の彼には、紳士の皮を被った狼のほうが似合っていると口を開いた瞬間、生暖かいものに唇を覆われた。
「ンっ…はぁっ、」
くぐもった声と、二人のラップ音が部屋中に響く。
しばらくして離れた彼は、私の唇の端から溢れた唾を指で拭き取った。
『レイはさ、』
濡れた私の唇を指先でなぞりながら、彼は続けた。
『紳士じゃなくて、狼の方が好きなんじゃない?』
キスの余韻が残る脳では、さっき頭の中に浮かんだ思考が彼に読まれていたのかもしれないと考えを巡らせていた。
ほうけている私を、ベッドへと押し倒す。
シャツのボタンを上から一つずつ片手で外していく彼は、男の顔をしていた。
「どうして、ですか?」
月明かりに反射した彼の目と視線が交わる。
『そんな表情の淑女は、紳士なんかじゃ満足できないと思うよ?』
そう言うと彼は、シャツを脱ぎ捨てた。
◇
数刻前とは打って変わってあどけない彼の寝顔の奥から覗く窓の外は、薄っすらと白んでいた。
腕枕をしていてくれたことに気付き、少しだけ顔の位置をずらすと、彼の顔との距離が先程より近くなる。
私よりも白い肌、長い睫毛、通った鼻筋、彼の存在を確かめるように柔らかい髪を指で梳く。
「好き、」
自然に口から出た言葉は、私の本心だった。
「あなたのことなんだよ、?」
髪を梳いていた指で、彼の唇をなぞる。
「優しくて、かっこ良くて紳士で、私なんかとちゃんと向き合ってくれる、素敵な人。」
伝えられる日がくるのかな、なんて思いながら彼の胸に手を当て、鼓動を感じながら眠りについた。
Fake it.
某3人組のアーティストの曲より。
素直になれない感じがまた好きです。