とんでもないヤツ

 紗栄子が最初に感じたのは、堪らない目の痒みだった。続けてクシャミが出た。それも、普段の「へくちん」というような可愛らしいものではなく、「ぶえっくしょん!」という、おっさんのような激しいクシャミである。すぐに、ツーッと鼻水が垂れてきた。
(やだ。これって、もしかして)
 とりあえず、ティッシュで鼻をかんだが、あとからあとから止めどなく鼻水があふれてくる。
「ぶ、ぶえっく、ぶえっくしょ、ぶえっくしょーん!」
(もう、何よ、これ。絶対、花粉症じゃん。ホント、やだ)
 鼻をかんでもかんでもキリがない。体内の水分が全部鼻水になってしまうんじゃないか、という不安を感じるぐらいだ。紗栄子の勉強部屋にある可愛いカバーのティッシュボックスは、たちまち空になった。
(まだ止まんないよう。早く新しいの、もらってこなきゃ)
 階段を降りる途中で、一階から母親の激しいクシャミが聞こえてきた。
「ぶえっくしょん!ちくしょーめ!」
(やだ。おっさんみたい。でも、ママも花粉症だったっけ?)
 続けて、鼻をかむ音がした。
「ねえ、ママ、ティッシュの新しいのちょうだ、い、っくしょん!」
「そこに、あるから、勝手に持っていっていい、わ、っくしょん!ちくしょーめ!」
「ママ、ママ、ちくしょーめって言うのは、よして、よ、っくしょん!はあ、はあ。でも、ママって花粉症だったっけ、っくしょん!」
「違うわ。急によ、っくしょん!何でも、今年は特に飛散量が多いんですって、ぶえっくしょん!ちくしょーめ!」
 再び母親のスラングを注意しようとした紗栄子は、リビングのテレビのニュースに気付いた。
《気象庁の発表では、何故これほど急激に花粉が飛散し始めたのか、原因不明とのことです。次のニュース。国有林の中に無断で立ち入り、不審な行動をしていた男が逮捕されました。自称、十三代目花咲かじいさんと名乗るこの男は、灰色の粉のようなものを杉の木に撒いていました。調べに対し男は、『すまん、ちょっと時期を間違えたようじゃ』と、意味不明の供述をしている、とのことです》
 思わず、紗栄子は叫んだ。
「ちくしょーめ!」
(おわり)

とんでもないヤツ

とんでもないヤツ

紗栄子が最初に感じたのは、堪らない目の痒みだった。続けてクシャミが出た。それも、普段の「へくちん」というような可愛らしいものではなく、「ぶえっくしょん!」という、おっさんのような激しいクシャミである。すぐに、ツーッと鼻水が垂れてきた......

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-09

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