動物の街

動物の街

 鞄を床に叩きつける。カツヤは怒っていた。毛深い上司は朝出社した彼に、「魚を釣ってこい」と怒鳴ったのだ。あまりに理不尽である。どうして仕事に魚が必要なのか、まったくもってわからない。辞めようにも、この会社はカツヤにとって最後の砦だ。重い病気から回復して、就職活動をしたが、どこも門前払い。ようやく見つけた会社。やせた重役たちは、盛んに近頃の路上は……云々話している。カツヤは、この会社が何をしているのかさえ、知らなかった。というより仕事がないのだ。見習いのうち仕事はないものかもしれない。そんなこんなで、もう一ヶ月。さすがにおかしい。
 さらに、カツヤには悩みがあった。大きな牛に付きまとわれているのだ。カツヤの家や、会社に現れては、哀愁漂う鳴き声をするのだ。田舎なので、牛は珍しくないのだが、この町は動物が多すぎる。人間よりずっと動物が多い。人間といえば、何故か屋根の上に乗っていたり、鎖に繋がれているのだ。驚いて、カツヤが事情を聞くと「うるさい」の一点張り。SMのプレイかもしれない。
 ある日、二人の同僚が会話をしている。
「カツヤって何か変だよな」「ああ。変なやつだな」
 それを聞いた夜。カツヤは、眠れなかった。ああ……。俺は人間関係が苦手だ。人に好かれるってことが、まずないんだから。夜中の3時に悪夢で起きたりもした。

 ある日、カツヤは上司に呼び出された。
「お前は病気なんだよ。少し休め」
「どういうことですか?」
 カツヤは大声で抗議する。ただ、何を言っても、もう上司は取り合わないようだ。背を向けられたカツヤは、脱兎のごとく走りだす。
 高台にある公園まで来る。友人はどうしているだろう?ふと思い出す。
 考えこんでいると、いつの間にか公園に例の牛が来ていた。「お前は、なんだって、俺に付きまとうんだ?」カツヤの独り言は公園の静寂に包まれて消えた。牛は「モー」と鳴き大きな角を揺らす。角をつかもうとすると、カツヤの手から角はするりと抜け落ちた。
「どういうことだ?」
 上司の言葉が、頭の中で大きくなる。「お前は病気なんだよ」

 会社に行かなくなって3日が過ぎる。週末が来た。カツヤは友人を訪ねる。
「カツヤ。よく来たな。ずいぶん暗い顔してるな。何かあったのか?」
 友人は朗らかな笑顔で言う。
「実は……仕事がなくなるかもしれないんだ」
 友人は驚いた顔する。
「仕事だって?そんなもの、あの人間たちに任せておけよ。俺たちは、ただ、あいつらのおこぼれにあずかればいいのさ。もっとも一部、それを良しとしないやつらは、いるけどな」
 友人の目は軽蔑を含んでいる。
「あの人間って、どの人間だ?上司たちか?とにかく俺は、まっとうな人間として、仕事が欲しいんだ!わかるだろ!この気持ち」
 友人は、恐ろしいものを見る目で、カツヤを見ると、ポツリと言った。
「だいぶ病気が進行しているらしいな。やっぱりあの医者は、やぶ医者だったんだ。俺は言ったよな!ちゃんとした人間の医者にかかれって」
「おい。俺の主治医は、俺の病気を直してくれたんだぞ!それにしても、俺のペットの動物たちは、どこへ行ったんだろうな。昔、犬を飼っていたんだ。何か覚えているか?」
「カツヤ。やっとわかったよ。お前は、自分を人間だと思っているんだな?」
 頭痛がする。カツヤは、大きな思い違いをしているのだろうか。何かが、おかしい。
「俺は、人間で会社に勤めて、ペットも飼っていて」
「お前は人間じゃない!!!!」
「何を言っているんだ!!いい加減にしろ!!」
 カツヤは、怒って友人の家を出た。

 次の日の朝。動物たちが、家に乱入してきた。兎、ライオンそして、あの牛。カツヤは、無理やり、動物病院に入れられてしまったのだ。動物たちが、やけに多いと思っていたが、ここは、動物たちの町だったのか。どうして、俺を狙う。そのうちに、カツヤは、眠くなってきた。これは麻酔か?どういうことだ。動物たちが、こんなに高度な技術を!!手術台らしきものに乗せられて、カツヤの意識は途切れる。

 ベコは、やっと飼い犬が帰ってきたので、朝から嬉しい気持ちだった。犬は、ある日、散歩中に脱走したまま、帰ってこなくなった。ベコは、昔撮った犬の写真を紙にプリントして、市内の掲示板に貼っていった。ある日、親切な人から連絡が来て、犬を見つけたのだが、人間のように二本足で歩いているのだ。犬の後を追ってベコは、ついに寝床と、餌場を見つけた。それから、度々会いに行くのだが、犬はいつも二本足。その話しをすると、絶対に親は犬を家に置いてくれないだろう。ベコには、友達がいた。兎丸、獅子男。無二の親友だった。ある日、兎丸の飼い犬のポチが、散歩中に、兎丸を奇妙な動物病院に案内したらしい。獣医さんがいて、飼い猫がたまに、犬を勝手に手術するので、困っているということを聞いた。その飼い猫の手術を受けると、動物は二本足で歩き出すらしい。ベコに話しをすると、すぐにベコは獣医に会いに行った。
 翌日の朝、ベコは兎丸、獅子男とともに、犬を捕まえると、動物病院に連れて行った。獣医は、手術を無料でしてくれた。その代わり、飼い猫のことは、どうか秘密にしてくれというわけだ。ベコたちは、カツヤが、元に戻るならばと約束した。手術は、無事終わり、犬は、元のように可愛らしいペットになった。「ワン!」

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物語作家七夕ハル。 略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。 受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。 初代新世界文章協会会長。 世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。 twitter:tanabataharu4 ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」 URL:http://tanabataharu.net/wp/

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-09

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