素足にクローバーを
ずっと読んでいなかった本を突然読みたくなることはありませんか。そういえば小さい頃××の絵本が大好きだったな、とか。
でも、家の中を探してもないんですよ。捨てても売ってもいないのに。どこかに消えてしまうのです。そういう経験ありませんか?
___これは、消えるか消えないかの境目にある絵本のお話。
1
ここは、シンデレラの絵本の中。
私たち中の住民は、外の住民と同じように感情があるし、自由に友達と遊ぶこともしているわ。
まーこれがゆっくりできるってことは、もうすぐこれができなくなるってことを意味しているとも
言えるわね。
え、意味がわからない?まず私が誰なのかって?外って何かって?
慌てないでちょうだい、私たちの物語はまだ始まってもいないんだから。
2
「おーいお嬢さん」
誰かが私を呼んでいる。この声はあの人だ。
何ていっても、私のことをお嬢さんって
呼ぶのはあの人だけだし。
私はついつい口元が緩んでしまう。
おっと、でれでれしていたらまたあの人の
思う壺だ。悔しい。
「これはこれは王子さま」
私はどうにかすまし顔で振り返る。どうだ、今日はでれでれじゃないぞ!と思うけれど、悔しいけれど、顔を見たらにやけてしまう。
この人は私の彼氏なんだ。
この人の名前は、カーター。
中の世界で王子さまの役を担っているわ。
つまり、カーターがいなければ中の世界は
成り立たなくなってしまうの。ああ、なんて悲しい定めなのかしら。
3
「お嬢さん、今日は何をしようか」
私はカーターの問いかけにすぐに返事をすることができない。もちろん、私が呼ばれていることはわかっている。
「お嬢さん、きっとまだ大丈夫だ。まだ一緒にいられる。今日が終わるまで一緒にいられる」
カーターは私の手を自分の手で包み込む。
「まだ、まだって何回言うの。私、カーターと離れるの嫌だよ。王子さまはカーターだけだよ」
「うん、僕も意地悪な姉は君だけだ」
「こういうとき、シンデレラだったら良かったのにって思うわ。何よ王子さまと意地悪な姉って」
私はカーターの方を拗ねたような顔をして見てみる。
カーターはその様子を見て優しく微笑んだ。
私も、カーターにつられてクスッと笑みがこぼれた。
大丈夫、今日も明日も明後日も、きっと一緒にいられる。そう信じよう。
私は、カーターのことが大好きな意地悪な姉の演じ手なんだ。その事実は変わらない。中の世界が壊れるまでは。
素足にクローバーを