悲痛

起床の時間は決めてはいないが、大体朝の七時頃に起きる。
私の所属先で大会があると言われたのは、大会の二週間前、と言うか金曜日。土日にはアルバイトをするのでこの一週間で、大会に備えなければならない。
午前中は所属先で然るべき行動をして、午後から夕方までは、一応、全員で練習。そうして家に戻りとっとと胃へ食べ物を落としてから、片道三キロぐらいの川沿いを往復し、先端に濡れタオルを巻き付けた竹刀を全身で(非常に少ないが)百回程度筋トレと称して素振りをする。
後は、しっぷや絆創膏や擦り傷に塗る薬、包帯を服みたいに着て、泥のようにベッドに倒れる。大体、晩ご飯が朝ご飯になる。
雨の日が一度あってランニングと筋トレができなかったが、そこは休養としてしっかり休んだ。
人事尽くして天命を待つ。とは、あまり言いたくない。誰のためにやったわけでは無いのだから、誰にも手出しされたくなかったかも知れない(知れないと、あやふやになったのは恐らく、私のつまらない意地によるものだと思うので、そう思ってくれていい)。
明日は大会当日。
会場まで一時間半、いつも通りだとぎりぎりすぎるので、六時に家を出ようと家に戻ってからすぐに晩ご飯を食べて早寝早起きをすることにした。
そうして起きたのは、朝の零時であった。
今から寝て寝坊なんてつまらない真似をして遅れたくなかったので、荷物の再確認などを実にゆっくりと行った。不足は無し。後は、勝つだけ、普段通りをやるだけ。まあ単純な話、本気も全力も思い切りも意味は同じ、そして私は、普段の練習に手を抜いたつもりなど微塵も無い。私にとって、普段が全力であると、それだけである。
会場に着き体を温める。
試合の内容は二本先取の三試合、まず、ペアを組んで戦うペア同士の試合、一人対一人の試合そしてペア同士。こんな具合だ。
私たちの番が来て、皆のそれぞれの思いが高ぶる。
一つ目のペア同士の試合には、こちらからは、大会経験の有るのと浅いのが組んで戦ったが、惜しくも負けてしまった。緊張したらしい。皆して励ます。
続いて一人対一人、これには私が出た。緊張は小さく鼓動が心地よいくらい、傷の痛みは気分が昇がっていたからか失せている。普段通りをやり抜いた。
そして負けた。
次に控えていた、事故で遅れてしまったのと、女を連れてきた二人の試合は無くなった。一回戦で敗退した。
顧問は、
「良くやったよ。まぁ、俺は勝って欲しかったけど」
皮肉に聞こえてならなかった。
最初のペアの経験浅いのが、
「すいません、俺たちのせいでプレッシャーかけちゃって」
無関心だったのであまり聞いていなかったが、恐らくこう言っていた。だから、なんだ。
それだけだ。
冷たい目線すら無かった、誰も私を見ていなく、前々から感じていた、うすら寒さがはっきりと浮き彫りになったのを感じた。
別に、欲しかったわけでは無いが、事故で遅れたののつまらなそうな姿、連れに励まされて手一杯の男とその女、浅いのを一生懸命に励ます顧問たちのそれらに、目が止まるのを止められなかった。
一対一で戦ったコートを見つめて、この一週間を思い返し、私は一人で一体何と戦っていたのだろうと途方も無い疑問を抱いたが、答えはすぐに分かった。いや恐らく、分かっていた。
生まれてからの現在とこれから。
それだけである。

悲痛

悲痛

メンタルスケッチですが。良ければ、この愚痴を聞いてやってください。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-10

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