試験監督

暇だ。
どうしてこうも暇なんだろうか。この世にある全ての仕事の中でもトップレベルにやることがない。だからと言って他の仕事をすると、万が一見られたときに叱られてしまうし、まあ、いないと思うが、もしこの部屋から誰か一人でも出たら俺の責任になってしまう。それは面倒だ。
ボーッと奥の壁の一点を伏し目がちに見つめてみる。ふと横に視線をずらすと女と目が合った。女は一瞬、ピクッと眉が動いたが、それからすぐ目線を床に落とした。俺はフンと鼻で軽く笑うと、すぐ横の壁に張り付いているタイマーに目をやる。無機質なデジタル数字で「06:45」と書かれたかと思うと44、43、42……と数が減らされていくのだった。
(まだ結構時間あるんだなぁ)
気だるい気分を押しつけるように、ふう、と一息ついて壁にもたれかかる。
「あなた、今タイマーを見たでしょう。」
目の前にいるさっきと別の女が鋭い目で見ながら言った。
「あと、何分で終わるの。」
そう続けて言った。俺は座っている女を眼球だけを動かして見、静かに口を開く。
「お前らにも見えるように壁にかけてるんだ、自分で見たらどうだ。」
「もう、目が、見えないの。教えてちょうだい。」
虚ろな目をして女が訴える。それが引き金となり、他の女達も口々に騒ぎ始めた。
「私も視力が落ちた。」
「私なんて足が動かなくなった。」
「私は手の指が自由に動かせないのよ。」
「私の方が酷いわ、なんてったって顔が腫れてずっとずっと痛みがあるんですもの。」
「いや、絶対私の方が」
「私はね」
「私は」
「私は」
「私は」
「私」
「私」
「私」
「うるせえ。試験中に喋るんじゃねえ。」
俺が喝を入れるも、またすぐに私は私はと繰り返す。
「結局、どいつもこいつも不幸がお好きなんだな。」
青臭いようなことを自分にしか聞こえない声で言ってみる。俺が部屋の隅のロッカーから、ぎらりと光る「銀」を見せると、女達は一斉に黙り、目を見開いた。タイマーがうるさく鳴った。
「お前ら全員落第だ。」
俺はチェーンソーのスイッチを入れた。

試験監督

自分が不幸になるのは嫌だけど、不幸になったはなったで悲劇のヒロイン

そんな話です。

試験監督

ショートショートです。何かの試験会場のお話。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-06

CC BY-NC-ND
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