悪魔の砂時計

漆緑

一話「三日目の朝」

 私は小野優乃(おのゆうの)。今年で高校二年生となった私は、ゴールデンウィークが終わってから一度も遅刻しなかったことがない。
 今日は三日連続遅刻という記録を更新するか否かという大事な日。
「よし……」
とりあえず余裕を持って家を出ることができたことにほっとしつつ家の鍵を閉める。アニメ見ながら寝るのをやめた甲斐があった。少なくとも平日はやめよう。
 家から学校まで軽く走って十分。玄関を出た時点で時刻は七時五十分。八時二十分までに校門をくぐることができればセーフ。これなら歩いても充分間に合いそうだ。

 私はトーストをくわえながら歩いた。くわえているとパンの焼けた匂いと味をじっくり味わえるのだ。やっぱり味わって食べないとね。あ、もちろん家でのんびり食べた方が美味しいです。明日はさらに進歩して家で食事ができるくらい早起きしよう。

 しばらくするとそれなりに大きな公園が見えてきた。ここを横切ってショートカットするとかなりの時間短縮になるけど、じいさんばあさんのゲートボールを強行突破する形になるのでそれなりの覚悟が必要だ。いつもなら迷わず強行突破を選択するところだけど、今日の私は違う。
 私は公園の外周に沿って歩く回り道を選択した。歩きながら改めて公園を見渡して初めて気づいたけど、この公園、広い割には隅々までしっかり手入れが行き届いている。外周りには等間隔に花が植えられている。ゲートボーラー達もマナーが良く、終わった後は使う前以上にきれいにして帰る。おそらく。

 視線を正面に戻すと、何故か前方に黒いローブに身を包んだ老婆が倒れていた。なんというか、関わりたくない。無視して進もうかな……いや、もしこのまま無視して老婆が逝ったらどうする? もしかしたら、私がこの老婆の運命を左右することになるかもしれない……。やれやれ、私にも良心が残っていたんだな。とりあえず私は老婆に声をかけてみた。
「大丈夫ですか……?」
 声を掛けた瞬間、先程までピクリとも動いていなかった老婆がまるで虫のように何の前触れもなく突然顔を上げた。不自然な動きに思わず声にならないくらいの小さな悲鳴を上げてしまった。
「水……。水ぅ……。水はよ」
 ありがちな展開に水ですか?とありがちな反応をしようとしたけど後半の予想外な態度にそれは阻まれた。なんだこの老婆は。とりあえず一呼吸置きたい。私は冷静にトーストを一口食べた。サクッ。
「わかりましたけど、水を入れる物とか何も持ってないんで老婆……じゃなくておばあさん、立ってもらえますか?」
「おいおい、立たせるために水を持ってくるんだろう。何言ってんだあんた」
 お前こそ何言ってんだ偉そうに。上等だ、飲ませてやろうじゃないか。サクッ。あ、私料理は苦手だけどバター塗るの上手かも。程よくしみ込んでる。
 私は手でお椀を作り水道水を老婆の元へ運んだ。
「ゴクゴク……ぶぉええ!! お前、このヴァーバに水道水なんか飲ませたのか!」
 お前はこの小野優乃に水汲みさせただろ! この老婆の名前はヴァーバというらしい。日本人じゃないのだろうか。
「頼む、すぐそこのコンビニから何か飲み物買ってきておくれよ。本当に気分が悪くて立ち上がれないんだ……」
 そんな頼み方されたら断れるわけないじゃん……。
「はあ……わかりました。買ってきますから、ちょっと待っててください。何でも良いんですね?」
「ああ、悪いね」


 私はコンビニへやってきた。流石にパンをくわえたまま入るのは恥ずかしいから全部食べてきた。朝のコンビニはガランとしていた。それにしても何でもいいか……何でもいいが一番困る。本当に何でもいいからその言葉が出てくるのはわかる。でも、頼まれた側にとってはもっとどうでもいいことだから頼んだ側より悩んでしまうのだ。何でもいいからと頼んだことがある人は、頼まれた側は自分達の何倍も考えて買ってきてくれたということに気づき、もっと感謝する必要がある。たとえ苦手なもの、明らかにまずそうな物を渡されてもだ。私は新発売の墨汁の香りがウリのボクジュースを購入した。


 公園に戻ってくるとヴァーバはまた転がっていた。
「ヴァーバさん、買ってきましたよ。何か新発売のやつが気になったのでそれ買ってきました」
「ほう……ボクジュース……」
 ヴァーバは少し容器を見回した後、恐る恐る黒い液体を口にした
「ふー……」
 突然暴れだしたりするかもしれないと考え私は少し後退した。しかしヴァーバの反応は意外だった。
「こりゃ美味い!!」
「えええ!?」
「ボクジュースね、こいつはいいもん教えてもらったよ。ありがとうね。えっと……名前は?」
「え、お、小野優乃です……」
 万が一のために一応お茶も買ってきてたんだけど、これなら必要なさそう……。それよりほんとに美味しいのかすごく気になる……。
「あの……一口いいですか?」
「お? もちろん」
 私はヴァーバからボクジュースを受け取った。とりあえず匂いを確かめる。う、ほんとに墨汁なんじゃないかと思うくらい墨汁って感じ。それにボトルの外からでも確認できる黒々とした液体、これを実際に飲むところはなかなか想像できない。いや、さっき見たけども受け入れられない。信じたくない。でもやっぱり味が気になって仕方がない! 私小野優乃、覚悟を決めます。
 ついに私はこの黒い液体を口に含んだ。
「んっ……あ、意外とおええ!!」
 味は悪くなかった。桃っぽい感じだった。でも桃のジュースはなんと言っても鼻から抜ける桃の風味が一番美味しいところじゃないですか。このボクジュース、鼻から抜けてくる墨汁の風味がやばい。あって発した時すでに墨汁の風味がきてて意外とって言ってる時ほんと地獄だった。なにこれまっず。
「私の口には合いませんでした……お返しします」
「ああ、そりゃ残念。そういやお金渡してなかったね。いくら?」
「そういえば……ちょっとレシート確認します」
 レシートを確認する際に腕時計が見えたのでついでに時間を確認した。八時十七分だった。
「うげ!!お、お金はいいです! 私、もう行きますね!」
「ちょっと待ちな!ただでもらうわけにはいかないよ。……代わりにこいつをあげよう」
 私は砂時計と二枚の紙切れもらった。
「な、何かありがとうございます。それじゃあこれで」
「時よ、止まれと唱えながらそいつをひっくり返してごらん」
「え? 時よ、止まれ……」
 言われたとおりにやってみた。
「これでいいんですか……?」
「…………」
 ヴァーバは返事をしなかった。それどころかピクリとも動かない。
「……え?」
 私は周りを見渡した。ゲートボーラー達が目に入った。なんと彼らも全く動いていない。それにさっきまで優しく吹いていた風も完全にやんでいるし、鳥の鳴き声ひとつ聞こえなくなった。一体どうなってるの……。私は紙切れのことを思い出し早速内容を確認してみた。一枚目には砂時計の説明、二枚目にはヴァーバの家の住所が載っていた。
 私は混乱しながらも一刻も早く謎を解明すべく、一枚目を読みながら登校することにした。この砂時計は一体……というかそもそもあの老婆は何者……!?

二話「砂時計」

「こら小野! いつまで春休み気分でいるつもりだ!?」
 私は昼食のパンを食べながら今朝の出来事を思い出していた。そう、今日も結局間に合わなかった。いつの間にか時間は再び動き出していたのだ。この砂時計、五分しか持たないらしい。しかもその後一時間は使えないとか。効果自体は今も信じられないほどすごいけど、たった五分じゃ――
「三日連続遅刻とはやりますなあ優乃!」
「の、希……」
 不意に後ろから話しかけられた。彼女は香田希(こうだのぞみ)。私の二人の親友のうちの一人である。
「今日はどんな言い訳を聞かせてくれるのかなぁ? もう腹痛頭痛は使えませんよー?」
 希は悪い笑みを浮かべながらそう言って私の頬をつついてくる。
「んっ……今日はそんなんじゃないよ。そう、信じられないことが起きたの!」
「私はあなたの三日連続遅刻という記録が信じられないわ。どんなことが起きたのか、説明してもらいましょうか」
「あ、蓮子。ちょうどよかった。とりあえずこれ見て」
 私と希の会話に割り込んできた芹沢蓮子
に砂時計の説明が載っている紙切れを渡した。相変わらず綺麗にまとまった青髪ストレートだ。どうせ私はくせ毛ストレートですよーだ。髪色なら黒髪の私に分が――
「ちょ、あたしが先に話してたんだからまずあたしに見せろよ!」
 私は希に胸倉をつかまれた。でもあえて蓮子について説明しよう。蓮子が二人目の親友である。この三人で遊ぶことが多い。
「おい聞いてんのか! 優乃!」
「わわ! ごめんごめん! これ食べたらちゃんと説明するから二人はその説明書き読んどいてよ!」
 そう言うと希は渋々手を離してくれた。すぐ理解してくれるそういうとこ好きだよ。そして私が右手に持っていたパンを一口かじって微笑しながら蓮子の元へ向かった。そ、そゆとこも嫌いじゃないよ。


 しばらくして、私達は屋上へやってきた。到着と同時に蓮子が口を開く。
「この砂時計の説明、簡単にまとめると五分間時を止めることができる。そして使い切ったら一時間待つと再び使用可能になる。使い切ってない状態で放置しても回復は始まらないと……こんなところかしら」
 眼鏡をくいっとしながらそう話した蓮子。
「使用者と触れていたものの時は止まらないっての面白いよなー。数人でいたずらし放題ってことじゃん」
 茶髪をいじりながらそう言う希。とりあえず希はいつもながらポニーテールがよく似合っていることと、彼女に砂時計を持たせるのは危険だということがわかった。見つめているとこちらの視線に気づいたのか、私に向けて話し出した。
「てか優乃、これと遅刻に何の関係があるんだよ」
「この砂時計の持ち主が倒れてたの。その人の面倒みてたら遅刻しちゃったわけだよ……」
「はーん……なるほどね、信じてあげないけど」
 歩いて説明書読んでなかったら多分間に合ってたけどあえて言わないでおこう。
「くっ……じゃあ、せっかくだし使ってみない? 二人共見たいでしょ」
「ぜひ見たいわ。実はまだ信じられないの」
「いいねいいね、これで本当に時が止まったら信じてやろう」
 二人はとても興味があるらしくすごく乗り気だった。私もわけもわからず使った一回目は混乱してて正直自分でも半信半疑だったし、何より説明書きを読んで色々試してみたいことが出てきてうずうずしていた。


 私達は図書室を訪れた。中には十数人ほどいた。昼休みは残り十五分程度なので、悠長にはしていられない。
「早速何か……いたずらしようかな」
 私はそう言い一人に目をつけた。彼は座って読書をしている。よし、彼が読んでる本のページ数をずらしてみよう。
「二人共、手を繋いで」
 右手を希が、左手を蓮子が、そして蓮子と希も手を繋いだ。無事円陣が完成した。
「あのさ……これじゃ砂時計持てないんですけど……」
「あ、そうか。じゃあこれ二人まで? 優乃ごめんね」
「なんで私が抜けることになるの!?」
「待って、優乃に触れている人に触れるだけでも効果が伝わるならまだ方法があるわ」
 私達は円陣をくずし一列に並び、順番を前から私、希、蓮子の順に入れ替えた。これで蓮子は私とは直接手を繋いでいない状態になった。果たして効果は蓮子にまで働くのか。ていうかどうして円陣組んだ?
「よし、いくよ?時よ、止まれ」
 同時に砂時計をひっくり返した。ざわつきが一瞬で消えた。図書室なので普段から元々静かなところだが、完全な無音状態には流石にならない。しかし今は物音ひとつしない。
「うわ……そんな……ほんとは優乃の冗談だと思ってたのに……」
「わ、私もまだ信じられないわ……」
 動揺する希と蓮子。これを見てるだけでも私はいたずらが成功した時の快感を感じる。驚いてる顔とか最高。
「どうやら間接的に触れていたものにも効果は働くみたいだね。それじゃ、早速いたずら始めますか!」
 私はターゲットに近づいた。
「まずは軽めに……。この人が読んでる本のページをずらしちゃいます。ちょっとごめんね」
 私はターゲットの男が読んでいた本を取り上げ一ページめくってから男の手に戻した。
「よし……」
 私達は彼の様子を観察できて不自然じゃない位置へ移り砂時計をひっくり返した。図書室は一瞬にしてざわつきを取り戻した。男の反応に注目する。
「……え?」
 男はそうつぶやき前後のページをいったりきたりした後納得いかないような表情で前のページに戻った。
「困ってたな。うひひ」
「じわじわくるね。……蓮子、何か適当に本持ってきて」
「……なるほど、いいわよ」
「何するの?」
「本を取り替えるの。さあもう一度手を――」
 私の頬が再びつつかれた。うひひと笑う希。まあ多分砂時計的には問題ないからいいか。私的には問題しかないけど。
「ぐ……」
 蓮子の頬も犠牲になっていた。このあと私もつついてみようかな。
「時よ、止まれ」
 図書室は再び沈黙を取り戻した。
「ちょっと見ていて」
 蓮子は持っていた本から手を離した。すると、本は落下せずに空中に留まっていた。
「あ、これ説明書きに書いてあったやつか!」
 希は興奮した様子で蓮子に尋ねた。
「そうみたいね……。時が止まっているものは無重力に近い状態になる……」
 私は初めて見た現象に言葉を失っていた。これはすごい。すごすぎる。だって――
「これいたずらにめちゃくちゃ使えそうじゃん!!」
「確かに!!」
「そうね。でもまずは小さないたずらを重ねていった方が面白いんじゃないかしら?」
 蓮子に私と希は同意し再度彼から本を取り上げ、蓮子が持っていた本とすり替えた。
「さて、じゃあ元に――」
「待って! こいつが読んでた本向かい側に座ってる子に持たせてみたらどう? この子は隣のやつと喋ってるから取り替えられたことにすぐ気づかないだろうし、こいつの反応面白そうじゃん?」
「! やろう、やりましょう!!」
 私と希の一番の共通点はかなりのいたずら好きというとこだろう。流石希、良いよその案。蓮子の返事も待たずに私は早速動いた。そして準備完了。すぐに砂時計をひっくり返した。

「……あれ? 何の話だ? 誰だこいつは?」
 今度は流石に違和感だけでは済まなかったようだ。ターゲットは話の流れが読めず混乱していた。それもそのはず、冒険物が恋愛物になってるのだから。
「な、なんだこれ……。あれえ……」
「あれえ……だって! あははは!」
「追加で仕掛けたいたずらは不発だったけど、充分楽しめたわね」
「もう満足満足。そろそろ出ようか」
「おい! その本、僕が読んでた本じゃないか!! 君がいたずらしてたんだな!!」
「は!? 私何もしてないわよ! なによあんた!」
 私達は図書室を後にした。出る直前に何か激しい言い合いが聞こえた気がしたけど、一体何だったんだろう。


「次は職員室に行ってみようと思います!」
「ま、まじか! 緊張感あっていいな!」
「……」
 私の提案に蓮子は乗り気じゃない様子。
「蓮子は嫌?」
「いえ、構わないわ」
「よし、じゃあ何をするかというと、きっとデスクに向かっているであろう担任の大岩先生を廊下に移動させたいと思います!」
「なるほど、特別用事がない私達が職員室の中に入ることは難しいから、外で反応が見れるいたずらをするわけね」
「そゆこと!」
「じゃあ私と希は無重力を利用したいたずらを仕掛けておくわ」
「え?あたしも職員室の中でいたずらしたい……」
「いいから」
「ちぇ……」
「ぷぷ、希さん残念でしたー!」
「あ?」
「さ、さて行ってきますかねー」
 そんなわけで、私は早速いたずらを始めることにした。
「時よ、止まれ」
 まずドアを開ける。職員室の中には昼食をとっていたり必死にデスクに向かっている先生達がいた。担任、大岩巌地もその一人だった。彼は予想通り自分の割り当てである隅のデスクに向かっていた。
 この男をどうやって運ぼうか少し悩んだ。結局椅子に座らせたまま運ぶのが1番楽で面白そうなので身体はいじらずにそのまま椅子を動かした。流石無重力、楽チン楽チン。ただ何かにぶつけると職員室をめちゃくちゃにしかねないのでそこにだけ細心の注意を払う。さあもう少しだ。やはり大人の、それも平均以上に大きい男を乗せているだけあり、脚がタイヤの椅子でも運ぶのが大変だ……あれ?
「よお……優乃。何してるんだ……?」
私の目の前にいる男はうっすらと笑みを浮かべ、とても優しげだが異様に低い声でそう囁いた。いつも苗字を呼んでくる人から急に下の名前を呼ばれるのって、結構ドキッとしますよね。


「蓮子マジありがとう!! いやー流石だな! 砂時計使う上で細心の注意を払うべきは、やっぱり時間だよな!!」
「当然よ。持ち主さんはいたずらに夢中ですっかり忘れていたようだけど」
 放課後の教室。いるのは私と、そして裏切り者二人だ。
 あの事件のあと、私は担任にみっちり叱られ、今日中に反省文を原稿用紙5枚分書いてくるよう言われたのだ。もはやこの二人の煽りに反抗する余力も無く、ひたすら聞き流しつつ着実にマスを埋めていっている。そもそも原因が自分のミスであるため立場的に何も言えないのがつらい。でも二人共煽ってくるのはずるい。もう拗ねてやる。
「もう二人共帰っていいよ。私バカだからまだまだ時間かかるし」
 こう言いながら寂しさを感じている自分が悔しい。
「……はい、五分十五秒。優乃にしてはよく耐えたわね。」
「あはは、やっぱり優乃いじめるの楽しいな。 絶対三分以内に折れると思ってたけど頑張ったね優乃ちゃん」
 頭を撫でてくる希の手を払うに払えない。何故か知らないけどすごく寂しくてこの手が一秒でも長く私の頭の上にあってほしいと思ってしまう程に私のメンタルはダメージを受けていた。
「あれ、払わないのか……おい、手止まってるぞ」
「あ……」
 慌てて再び書き出す。
「……思ったより傷ついてるみたいね。やりすぎたわ、ごめんなさい」
「通りでいつもの反抗がないわけだな……。悪かったよ」
 急に優しくされるとすごく温かい気持ちになるのわかる人いますか。ボロボロのメンタルにある意味トドメを刺すような優しさ。我慢出来ず少し涙腺が緩くなってしまった。恥ずかしくて顔を上げられず、ひたすら用紙に目を向ける。そして思わず口を開く
「あの……終わるまで……一緒にいてください……」
 一瞬物音ひとつしない沈黙が流れた。そしてその後二人の笑い声が聞こえてきた。
「フフッ。いきなりどうしたのよ。もちろんそのつもりです」
「うひひ、優乃かわいいわー。ずーっと一緒にいてあげまちゅからねー」
 一気に頬が熱をもったように感じた。直後に私は最後の一文字を書き終え同時に声を上げた。
「馬鹿にすんなー!!」
 今日はひどくついてない日だったはずだったけど、なんだか割と幸せな一日だったように思えた。これも砂時計のおかげ……かな?

三話「放課後」

 終礼のチャイムが鳴った。明日も乗り越えればいよいよ土日を迎える。土日があるから、休日があるから、何からも束縛されないでいい日があるから私は生きていける……!!
 そんなことを考えながら私は伸びをした。そこへ休日より私をいじめることに生き甲斐を感じてそうな方からお声がかかった。
「今日も疲れたな〜。さっさと帰ろうぜ〜」
「そだねー。帰ろ帰ろー。あれ、蓮子は」
「ヘッドホン探し。昨日お気に入りのやつ壊しちゃったらしいよ」
 通りで今日はやたら不機嫌だったわけだ。
「ふーん。じゃあ二人で帰りますか」
「そだな。荷物持ちじゃんけんする?」
「しない。絶対しない」
 何故なら希の鞄の中には教科書の他にダンベル、漫画、携帯食料という名のお菓子など余計な物が詰まっており、私の鞄よりはるかに重たいのだ。負けた時のリスクが大きすぎる。
「じゃあさ、下で一緒にジュース買お」
「え、いいけど」
 希にしてはかわいいお願いだったので少し動揺しつつも了承する。


 私達は玄関を出てすぐのところにある自販機にたどり着いた。品揃えはいまいちだが、校内の自販機は他より少し安い。
「優乃、あたしと一緒のやつ選べよ」
「え、一緒に買うのはいいって言ったけど一緒のを買うなんて――」
「あ、別のやつでいいや!あたしと一緒のやつ選ぶなよ」
「はいはい」
 読めたぞ。こいつ、一口飲ませろとか言って私のジュースがぶ飲みする気だな。三秒以上飲み続けたら時を止めて奪い返そう。
 希はビンゴリンゴという果汁がランダムのリンゴジュースを買った。ランダムと言いつつ全部十パーセントだったりして。私は安定のオレンジ百パーセントという果汁百パーセントのオレンジジュースを買った。


 希の提案で、ここら辺では一番大きいダイナモ公園へやってきた。そう、ここはあの老婆と出会った公園だ。そういえば住所も知っていることだし、今度顔を出してみようかな。
 門限が近いからか、奥に数人の子供が見えるくらいでガランとしていた。
「ふう……」
 希は近くのベンチに腰掛けた。私も横に並ぶ。すでに希はジュースを口にしていた。
「んっ……ぷはぁ、四十七パーセント」
 何者なんですかあなたは。当たってたら尊敬します。ていうかランダムって一桁単位でランダムなんですか。
「優乃も飲んでみ」
 私の予想とは逆の展開、私が飲まされることになるとは。四十七パーセントってどんな感じなのか気になるしお言葉に甘えて飲むことにしよう。ただ、こういう時って口をつけていいのだろうか。嫌がる人もいるだろうし、ここはつけない方向でいくことにした。
「あーん……」
 私は口を大きく開けた。
「ん? の、飲ませてほしいのか?仕方ないな」
 しまった! 口をつけるかつけないかに気を取られて受け取る前に口を開けてしまった。確かにこれじゃそう思われても仕方がない。う、やめ――
「こぼれたらもったいないから口閉じてくれよ」
「くひ、ふけへおいいお……?」
「ぷっ! も、もちろん、ふ、ふけへおいいお…ぷふっ!!」
 私は初めて顔を真っ赤にしてジュースを飲むことになった。せめてものあれで思いっきり口をつけてやった。うん、悪くない。四十七パーセントなのかはさっぱりわからないけど味は悪くない。
「おいちーでちゅかー優乃ちゃーん」
 無視して目を閉じひたすら飲み続ける。ひたすら、そう、ひたすら……もうしばらく……まだまだ……って長い! 苦しくなってきた私は希に目で合図を送る。
「あ、さっきの子達みんな帰ったみたいだなー」
 ……こっちを見てない! もう我慢できない……!
「ん〜!!」
 私は出せる最大限の声を出した。
「あ!」
 気づいた希は慌ててボトルを口から離した。しかしそれは悪手である。頬いっぱいになるくらい口に溜まっていた液体は風穴が空いた瞬間一斉にそこから外へ出ようとした。私はしばらく噴水と化した。私は気づかなかったが希曰く、虹がかかっていたらしい。


「それにしても綺麗な虹だったなー」
「もう言うなー! 大体誰のせいよ!」
 オレンジジュースを片手に私は声をあげた。
「悪かったってー」
「ふん……まあいいや。日も暮れてきたしそろそろ帰ろ」
「荷物もとっか?」
「いい。子供扱いしないで」
「いや、今のはそういうことじゃなくてお詫びというか……」
「じゃあ代わりにこれ飲んで。夕飯が入らなくなっちゃうから」
 まだ半分程残っているオレンジジュースを希に差し出す。
「お、おっけ。こ、これでおあいこ――」
「なわけないでしょ。他の形できっちりお詫びしてもらうから」
「は!? それはおかしいだろこのおにゆうの!」
「鬼はそっちでしょ!」
「まあまあ、その変でやめましょうよ二人共!」
「あ!?」
「なにいきなり横から……あ、愛花ちゃん!」
 希との争いを仲裁してくれたのは一個下の一年生、野丸愛花(のまるあいか)だった。
 私はついこの間行われた新入生歓迎遠足で、弁当を忘れた私は蓮子の弁当箱のふたを手に誰かに天の恵みを頂こうと彷徨いていた。そこへ彼女が現れご飯とおかずを分け与えてくれたのだ。それがもう美味しくて美味しくて……。この味をもう一度……いや、何度でも楽しみたい。お礼もしたかったし、そこで私は僅かなコミュ力をフル回転させ彼女とお友達になった。今では顔が合えば挨拶する仲である。
「今日は料理部行かなくていいの?」
「もう終わったんです。今五時半ですよ?」
 現時刻を聞いて私と希は驚いた。私達は一時間以上この公園にいたようだ。
「いやー、優乃のやつが突然虹吹き出してさー」
「虹を……ですか?」
「おいおいおいおい! 私が愛花ちゃんに変なイメージ持たれたらどうすんの! 違うんだよ愛花ちゃん、あのね――」
「優乃がいきなり口を大きく開けたんだよ。ジュース飲ませてくれって甘えてんの。仕方なく飲ませることにしたら、あたしに身を預けるようにして一生懸命飲み始めたんだよ。おいちーよおねーちゃんとか言っちゃって。」
「黙って聞いてりゃちょいちょい捏造挟みやがって! いい加減にしろよ希ぃ!!」
「わああ! く、口調変わってるぞ優乃! 暴れるな、よせ!」
 周りを気にせず私は希に飛びかかった。もうどうにでもなれ。
「ふふ……あはは!」
 後ろから笑い声が聞こえる。思わず振り返った。
「はあ……ふう……。やっぱり優乃さん達面白いです」
 乱れた呼吸を整え、涙を拭きながら愛花ちゃんはそう言った。そこまで笑うこともないんじゃないか?飛びかかっちゃうぞ。
「そういえば、蓮子さん?は今日はいないんですか」
「ああ。あいつはヘッドホン探しに――」
「行ってきましたわ。最新モデル買っちゃったのよーうふふふ!」
乱れた服装を整えようとした矢先にまと後ろから声が聞こえ慌てて振り向く。後ろには眼鏡を外し、ヘッドホンを着用した蓮子がいた。これが彼女の外での平装。まさに真の姿だ。
「皆こんな時間まで何してたの?愛花ちゃんは料理部があったとして、そちらの二名は」
「いやー、優乃のやつが虹を――」
「おい!」
「蓮子、野暮なこと聞くな」
私の怒声に流石の希も改心した模様。
「な、何があったのか非常に気になるけど聞かないでおくわ……」


 流石に遅くなってきたので、私達は公園を出た。帰り道、愛花ちゃんが口を開いた。
「実は、クラスに一人孤立している人がいるんです」
「へえー。うちも一人浮いてるのならいるけどな。なあ遅刻魔女」
「いるね。浮いてるボス猿が」
「この人達は気にしないで、続けて?」
「は、はい。その人、大人しい女子なんですけど、悪い人には見えなかったんで声をかけてみたんです。そしたら一応会話はしてもらえるようにはなったんですが、いまいち仲良くなれなくて……」
「なるほどね……」
 私と希は後ろでどつきあいながらも、話はちゃんと聞いていた。割とシリアスな話なので希に休戦を提案し会話に参加することにした。
「それじゃあさ、とりあえず私達にも紹介するってのはどう? みんなで何かしたら打ち解けられるんじゃないかな」
「実はそれをお願いしたかったんです……! 遊びに誘いたくても何したらいいのかわからないし……企画とかもお願いしちゃっていいですか……?」
「先輩に任せなさい。その代わりさ、今度何か美味しいの作ってくれないかな……はあはあ」
 私の無茶な頼みに愛花ちゃんは快く返事をしてくれた。
「あんなものでよければ喜んで……!」
「やったー!」
「え、じゃああたしにも!」
「私の分は大丈夫よ、この人達から奪うから」
「いえ、蓮子さんの分も作りますよ!」
「それじゃ、今度の日曜日にパーっと遊ぼう! 愛花ちゃんはその子と約束できたら連絡してね」
「わかりました! ありがとうございます!」
 愛花ちゃんは丁寧にお辞儀をした。サラサラと金色のやや短い髪がお辞儀に合わせて軽やかに舞った。


こうして今週の日曜、ゲームデイは消滅した。でも、またあの料理が食べられるなら惜しくない!

四話「最初で最後」

 昼休み。蓮子はパソコン室へ遊びに、希は運動不足だと校庭へランニングしにいった。教室に残っているのはガリ勉と読書好きと私くらいだ。愛花ちゃんからはまだ連絡がない。砂時計はついさっき書き写していない板書を消されそうになった時に使ってしまったためしばらく使えない。
 教室にいてもすることがない私は校内を散歩することにした。余談だけど、今日は珍しく後ろ髪を結んでいます。何故か後ろ髪の一部にすごい寝癖のようなものが残っていたから……。


 しばらく歩き回ったが特に何も起きなかったし変わったものも見かけなかった。これなら寝てた方が良かった。若干ブルーな気持ちになりかけていた時、目の前に辺りをキョロキョロと見回している女の子がいた。通り過ぎつつ何をしているのか確かめることにした。動きからして恐らく落とし物だろう。
 彼女を後ろからよく見ると、明らかに髪がおかしい。右側のみを赤い紐で結んであるが、左側は一切手を入れてないようで、左半分ストレート、右半分サイドテールのような状態になっている。これもファッションなのか。直接聞けば済むことだが、そういうのはあまりしたくない。仕方ない、一肌脱ぐか。
 私はトイレへ向かった。そこで髪を解いた。鏡で確認したところ、変な寝癖は取れていた。これなら私にもう紐は必要ない。
 さっきの場所へ戻ってみると、前より沈んだ表情で必死に床を見つめている女の子がいた。ちょっと声が掛けづらい……。知り合いでも自分から声を掛けるのはあまり得意じゃないのに、ましてや全く知らない人に、しかも推測で声をかけるなんて……。
 私は身体をくの字にしている彼女に後ろから近寄った。そして肩を叩く。彼女は少しびくっとして振り向いた。間髪入れずに一言。
「これ、私の紐。もし必要だったら、使って。それじゃ」
 私の緑色の紐が彼女の手に渡ったのを確認すると、急いでその場を後にした。良い事してるはずなのに逃げてるみたいで自分が恥ずかしい。しかし、これが私の中での最善択だったのだ。


 残り時間は教室で過ごすことにした。
「優乃先輩!」
 席についた瞬間愛花ちゃんが現れた。きっと報告だろう。彼女の元へ向かった。
「あれ、携帯に連絡くれればよかったのに」
「いえ、大した距離でもないので直接お話した方がいいかと思いまして。それより、せっかく引き受けていただいたのですが、今回彼女は来れないそうです……土曜日でもダメらしいです」
「そっかー……。じゃあ愛花ちゃんだけでもくる?まだ一緒に遊んだことないし愛花ちゃんと遊びたいな」
「もちろん、私は行きますよ! ちょっと緊張しちゃいますけど」
「やったね! すぐに慣れるから大丈夫だよ。蓮子も希にも伝えとくから。わざわざありがとね」
「楽しみにしてます! 失礼しましたー」
 正直まだ何やるか決めてなかったし半分救われた。ただどんな子なのかがすごく気になる。来週にでも企画第二弾を計画することにした。


 その日の夜。ついに念願の休日を迎えるということで、プチ宴会を一人で開いていた。食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。幸せだ。今話題の大人気RPGゲーム、「ロストフレンド」がまだ未クリアなので、今日はとことんやる予定だ。このゲームはストーリーはもちろん面白いが、最大の魅力はなんといってもやはりボス戦でボスを倒した時の状態により演出が変わるというところだ。HPが満タンなら圧倒的な実力差を見せてのクールな倒しっぷりを、HPがギリギリなら互角の戦いの中一瞬の隙を突いての紙一重の勝利を高クオリティCGで見られる。無傷で倒したのにその後の戦闘シーンで苦戦してるような場面を見ると、気持ち的に何か違和感を覚える。その点に関してほんとこのロスフレは――
 突然来た一通のメールに私の思考は中断させられた。
「ぬ、いいところで。あ、愛花ちゃんからか、なら許す。なになに……。明後日の件、例の人も来れるようになりました……おお! やっぱり人数多い方が楽しそうだし、こりゃ朗報だ。みんなに伝えてから計画練らないと」


 そして当日。時刻だけは愛花達から要望があり、午前十一時にダイナモ公園に集合となった。現在十一時二分、私は薄手の緑のパーカーに紺色の七分ズボンという格好ですでに公園内にいる。
「揃いも揃って遅刻か……。遅刻するやつってほんと最低だな」
 そんなことを言ってる間に人影が見えた。赤いラインの入った黒いコート
、その他同色のブーツにたまに見える真っ黒なショーパン。さらに黒の指出し手袋……。一度は着てみたいと思うくらい厨ニ心をくすぐるその服装、羨ましい……。
 そんな格好をした彼女はどんどんこちらへ向かってくる。少し前傾姿勢で、若干上目遣いでこちらを睨むような目だ。髪はツインテールでまとめられている。何故か右側は赤い紐で、左側は緑……緑? も、もしかしてこの子……昨日の……!?
 超至近距離まできたところでようやく彼女の前進は止まった。そして一呼吸置いた後、ついに彼女が顔を上げ、口を開いた。
「優乃……先輩、ですよね……?」
「えっと、その、は、はい……優乃先輩です……多分」
「優乃先輩……親友になってください」
「えっと、その、は、はい……はい!?」


 私はとりあえず彼女をベンチに誘導し、詳しく話を聞くことにした。
「急に変なこと言ってすみませんでした……。幌路芽衣(ほろろめい)って言います。この間はお世話になりました。遠くから見ただけで状況を把握して、的確な対処をして、恩を着せることもせずにすぐに立ち去るあの振る舞い……クールでした。すごく感動しました」
 そういう捉え方もあるのね。
「そうだったんだ……。ありがとう」
 まだ若干動揺してるものの、相手が後輩で、それにまだよくわからないけど私のことを良く思ってくれてるみたいだからか精神的には割と落ち着いてきた。
「私、周りに合わせるのが苦手で……。かといって周りに強要する気もないので、誰とも仲良くなれませんでした。でも、変わりたいという気持ちはあったんです」
「わかるよ。私も人付き合いあんまり上手じゃないから……。今はこんな私でも仲良くしてくれる人が現れて楽しいけどね」
「……」
 彼女はすごく切なそうな顔でどこか遠くを見つめていた。
「芽衣ちゃん。いや、芽衣」
「……!」
 芽衣はびっくりした様子でこちらを見た。もしかして呼び捨てにされたことがないくらい人と距離を詰めたことがないのだろうか。
「友達になりたいって言ったの、さっきので何回目?」
「一回目です……」
「……ちょっとつらいこと聞くかもしれないけど、友達は今までに何人できた?」
「……少なくとも私が友達だと思えた人は一人も……きっと向こうも……」
 信じられない。私は言葉を失った。この子は高校一年生でまだ友達が一人もいないのだ。逆に考えると、先程の親友になってくださいという発言は彼女の大きな一歩、というよりも最初で最後のSOSかもしれない。
「芽衣、どうして私を……」
「野丸さんから優乃先輩がこういう機会を作ろうと動いてくれたことを聞きました。昔似たようなことがあったんですけど、その時は……」
「他の人達だけで輪ができちゃって、結局一人に……?」
「はい……。ただ私を否定された気がして、余計に他人に絡むのが怖くなりました。なので、今回もそのことが重なってしまって、怖くて辞退したんです。でも……あの一件のおかげで変わりました」
「紐……?」
「そうです。あの時、あの人に相談したら、助けてくれるんじゃないかなって思ってしまって、実は後をつけちゃいました……」
 え、あの時後ろをつけられてたんだ。驚いたけど、まだ話が見えてこない。
「そしたら、私の前に野丸さんがいたんでこっそり覗いてたら、さっきの女性と話してるのを見たんです。もしかしたらって思ってその後確認しました。その答えからこの紐をくれたのは優乃先輩だったことが確定したので……。これは昔とは違う、神様がくれたラストチャンスだと思いました。だから……その……」
 聞きたかったことは全て聞けたし、私がしないといけないこともわかった。早速実行に移った。
「ありがとう。よくわかったよ。でも私、大した人間じゃないよ?」
「そんなことないです!そんなこと、言わないでください……」
「大した人間じゃないから、もっと近づいてきていいんだよ。それにさ、親友じゃん」
 芽衣の表情が固まる……。そして少しずつ解けていく。彼女の固くなった心も、同じように解けていってくれればいいのだけれど。
 バランスを崩しそうな少女を私は抱いた。そのまま語る。
「まだ泣いちゃだめだよ。私があなたの親友。芽衣のためなら何でもする。その代わり、芽衣は芽衣のためにもう少し頑張ってほしい。まずは、愛花ちゃんと打ち解けて。ここまで打ち解けろとは言わないから。彼女だって芽衣を心配してたんだよ。愛花ちゃんが相談してくれなかったら、今回のことだってなかったかもしれない」
「わかりました……。頑張ります……。本当に、私の親友に……?」
「うん。私もこんな素敵な子が親友になってくれたなんて信じられないや。あ、その紐、返さなくていいからね」
「この紐は私の宝です。返せって言われても返しませんよ。優乃先輩、私もあなたのためなら何でもします。あなたが最初で最後の親友です」
「え……こら、さっき頑張るって言ったでしょ」
「頑張ります。でも、頑張るのは友達作りです。親友はあなただけでいいんです。これだけは譲れません。」
「が、頑張るならいいの。すごく嬉しいよ。私もこんなに頼られたことないから、すごく新鮮で良い感じ……」
「はい……私も……」
「コホンコホン!」
 突然の咳払いに、別世界に行きかけていたところを止められた。声の方に顔を向けると、そこにはこのシーンを一番見られたくない人物が立っていた。
「おいおい……。作戦通りいったみたいなのはめでたいけどさ、いきすぎだろお前ら」
「の、希……てか作戦って何!?」
「愛花が提案したんだけどな、そこの芽衣ちゃんがえらく優乃のことに興味持ってる様子だったから二人きりにしてみたらどうだろうって話になったんだよ。だから二人の待ち合わせの時間だけ一時間早めといたんだよ」
 時計を見ると針は十二時を指していた。
「くっ……やられた……。いや、ありがとう」
「変な方向に行ってないだろな?」
「行ってない行ってない。それより希も芽衣と挨拶しなよ」
「ならいい。あ、そういやそれが今回の目的だしな。あたしは香田希、よろしく!」
「幌路芽衣です、よろしくお願いします」


 芽衣はその後やってきた蓮子とも挨拶を交わした。
「芹澤蓮子と申します。仲良くしましょうね」
「幌路芽衣です、よろしくお願いします」
 私は一つ誤解していた。芽衣の問題はてっきり恥ずかしがり屋な部分なんじゃないかと考えていたが、二人への挨拶に恥ずかしそうにする仕草や態度は一切なかった。眉一つ動かさずに挨拶を終えていた。彼女は長年のぼっち生活により、無意識に壁を作るようになってしまったのか。ならば大問題だ。友達ができないわけである。少しずつでも、氷漬けになっている彼女の心を解放させ、救い出さなくてはいけない。いや、私を慕ってくれている彼女のためにも、今日にでも解放してみせる……!

悪魔の砂時計

悪魔の砂時計

平凡な女子高生が登校中に怪しげなお婆さんと出会う。その際に手に入れた悪魔の砂時計により平凡な暮らしとは無縁の、しかし一生忘れられない高校生活が始まる。 日常系ファンタジー。 砂時計を全く活かせてない上に話が面白くないので打ち切ります。つまらないものを載せて本当にごめんなさい。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-05

Copyrighted
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  1. 一話「三日目の朝」
  2. 二話「砂時計」
  3. 三話「放課後」
  4. 四話「最初で最後」