アイシテル

携帯電話があなたの着信を知らせる。
特に英語が分かる訳でも、
話せる訳でも無いのに、
ただあなたが好きだと言った洋楽を、
わざわざダウンロードして着信にした。

「…もしもし?」
『蒼?俺だよ』
「…隼人…さん?」
『その呼び方やめろって』

ははっ。と電話越しにあなたが笑う。
あぁ…笑ってる。
あなたが、私の面白くも無い冗談に
笑ってくれている。

「はっくん?」
『あぁ、そうだよ』
「…」
『…』

数十秒の沈黙、あなたに、
私の心音が届きそうな静寂。

『来月さ…』

あなたが口を開く。

『二週間くらい帰れそうなんだ』

来月…二週間…

「短いね…」
『レコーディング始まるからな…』

ごめん...とあなたが呟く。

なんであなたが謝るの?
あなたは今、日本中の人に知られた存在なのよ。

「謝らないで…」

謝らなくていいから、今すぐ会いにきてよ…

『だって俺、蒼に寂しい思いさせてるし…』


一年前まで、あなたは名も知れない
アマチュアのアーティストだった。
あれから一年、今やあなたは、
一年の半分を東京で過ごす
プロのアーティストになった。



勿論、寂しい。


でもそんな事言ったら、
あなたの夢を否定する事になる。
就職した会社を辞めてまで、
全力で夢を見るあなたを私は見てきた。
夢を追い駆けるあなたが私は大好きだから、
離れてもずっと、支えたいと思ってる。

私は、夢をみるなんて許されない。
夢なんて、所詮叶わないのだから、
だからずっと、あなたが夢を叶えて、
有名になっていくのが嬉しかった。

『寂しくさせてゴメンな』

少し擦れた声。それを聞くたび、
なんだか泣きたくなる。
あなたが夢を叶えるのを、
まるで私の夢が叶うみたいに思ってた。
だけど最近は、それが私たちを引き離す。


大切な人に、愛してるって伝えてますか?
もし、伝えられていないのなら、
今すぐ隣に座っているあなたの大切な人に、
愛してる。って言ってあげてください。
手を握り合って、目を見つめ合って、
愛してるって言ってください。

アイシテル

アイシテル

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-10

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