わたしのなまえ

西木眼鏡

twitterで行った企画の第二弾で書いた短編になります。お題は「わたしのなまえ」だったので、お題をくれた〝しるこ〟さんのお名前をお借りいたしました。

『わたしのなまえ』



 わたしのなまえは何だっただろうか。よく思い出せない。おとこだったのか、おんなだったのか。そもそも私は人間だったのか。
 覚えていることは、わたしには過去が無いということ、未来だけを見るようにプログラムされているのは、きっと私を作った人がそうしたから。なぜ。その問いに答える者はどこにもいない。私はもうこの星に独りぼっちなのだから。
 
目が覚めたのは、暗くて小さな小部屋だった。ベッドはやけに硬くて冷たかった。暗い室内に目を凝らすと小さな瓶やピンセットが転がっていて、ここが何かの実験室なのだということが分かった。それから、机の上に一冊の手記を見つけた。そこにはわたしが造られた人間であるということが書かれていた。これで納得がいった。わたしが誰だかわからないのも、ここがどこだか知らないのもすべてが初めてだからだ。この世界を知る手がかりはこの手記だけだった。
 遠い遠い昔、この星には人間が住んでいた。きっとその時にわたしは作られたのだ。初めての機械人間、名前はある単語の頭文字をとってエス・アイ・アール・ユー・ケイ・オー、『しるこ』と自ら命名した。
 そのわたしを作った人間はどうしたのか。手記を読むと二十年くらい前にこの星の住人総出で宙の果てに出て行ったらしい。もうこの星には誰もいないのなら、わたしはひとりぼっちだ。
 これからどうすればいいか、考えるために研究室の外に出てみた。外の世界はとても広かった、実験室と同じくらい暗かったが、それにはキラキラ光る粒が張り付いていて、大きな黄色がわたしを照らしていた。
 少しだけ歩くと不思議な箱を見つけた。眼がたくさん付いていて、私を動かす乾電池と同じ形だけど、ちょっと大きめの金属の筒が縦に並んでいた。その下には横に長い口が付いている。
「あなたも置いて行かれてしまったのね、かわいそう」
 機械の箱は答えない。しばらくして、私は機械の箱を蹴った。それが引き金となったのか、機械の口から乾電池の形をした何かが落ちてきた。それは私と名前が似ていた。
「おしるこ、ってなにかしらね。きっとこれの名前ね」
 よく見ると引っ張れば取れそうな出っ張りがついていたので、それを引くと中身が出てきそうなくらいの穴が開いた。茶色くて粒々が入っている。これは燃料ではないなと思った。思いきってそれを舐めてみると甘かった。そういえば、実験室にもこれと同じような形の入れ物が落ちていたことを思い出した。そうか、これは飲むことができるのね。そう理解すると、一気にあいた穴から中身の「おしるこ」とやらを飲み干した。
 すごく甘い。

 この星にたった一人取り残されてしまったわたしはいつか人間がこの場所に戻ってきてくれるのを待ち続けることにした。そうして、わたしを作ってくれた博士にお礼を言うのだ。私を作ってくれてありがとう。

わたしのなまえ

わたしのなまえ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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