旅立ちの童話

君代紅圓

 ある日のこと、ムッターはいつものように、寝室に寝転んで昼寝をしていました。寒い寒い冬の北風が、すぐそこまでやってきていましたが、その日だけは不思議なことにぽかぽかとしていました。だから寒がりのムッターも、こうやって眠ってしまったのでしょう。
 ムッターが目を覚ますと、子犬のヌヒが寄ってきました。そして目覚めたばかりとのムッターに、もう旅に出ると言いました。それを聞いたムッターは、何も喋りませんでした。ただ黙って、ヌヒの食べるパンと外套を持たせただけで、あとは、泣くこともありませんでした。
 明くる日ムッターが床を出ると、ヌヒはいませんでした。既にヌヒは、街へ出かけてしまっていたのです。ムッターは悲しくはありませんでしたが、少し心細くなりました。次の冬が越せるか心配になりました。お腹が空かなくなって、到頭、骨と皮だけになってしまいました。
 どうしようもなくなって、いつものように昼寝をしようと床に横たわると、突然玄関の扉がコンコンと叩かれる音が聞こえました。開けると、ヌヒでした。ムッターに会うために、またここに戻ってきたのです。ムッターは急に気持ちが楽になって、心がほっと温まりました。
 ヌヒはムッターを連れて、高く高く昇っていきました。
 それから純白の地に降り立つと、二人は永遠に、幸せに暮らし続けました。

旅立ちの童話

 昨年の一一月ごろに執筆した作品です。解釈は人それぞれですので正解はありません。題名から本文に至るまで、様々な考察をして楽しんでいただけたら幸いです。

旅立ちの童話

苦痛と快楽に、普遍性は存在しない

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-04

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