花散る郷/(桜に捧ぐ新作短歌)

はるのいずみ

駆け寄りて(いだく)く鼓動の高まりに
   夢ではないと知る桜木(さくらぎ)の下

(いにしえ)の逢瀬も見しかこの桜木は 
   覗く月をば花で隠して 

月登り桜の下で待つ人を
   想いて駆ける郷の山道

花舞台前座務めし梅散りて
   今や遅しと待つ桜かな  

春風とともに旅立つきみの背を
   桜の蔭でただ見送りぬ

別れの日乙女の胸に想いは満ちて
   満開の花も散りゆく無情の 雨に


朧夜に花散る郷を夢見れば
   あの日の君にまた逢えるかも

ただ一重花の模様の衣を纏い
   恋しき人を待つ桜影

七重八重花のくぐり戸開かなば
   時の彼方の(ひと)は待ちたり

七重八重と花のくぐり戸開かれて
   残る一重の君は眼を閉じ


我が歌に桜よ汝なかりせば
   色艶も失せ情も流るる


(以下の7首はNHKの日本全国の
桜を追う番組を見て詠んだものです。)

雪溶けて淡きピンクの花咲けば
   北の大地にも(ぬる)む春来る

日の本の誉は雪を頂く富士か
   はたまた心を揺さぶる桜か

夕暮れて祇園の路地のあちこちに
   行きかう舞妓の花のかんざし
   
世を捨てたつもりのはずが
   しつしつと桜を描く寺の軒下

仁淀川浪ゆく鯉も焦がれずや
   水面に映るあの桜花

千年の時を越えずばこの櫻
   下に数多(あまた)の契り叶わず

花の下薩摩おこじょの紅の頬
   猪口盃もなく匂うのは何故

白秋の謳いし桜はいずれの人か
   偲ぶ窓辺の面影の花

例うるに久米の桜は恋乙女
   純白の淡き心にのち薄紅の差す


*桜の歌のお好きな方は「さくらによせて」のコーナーも
ぜひご覧ください。140首以上掲載しています。 (いずみ)

花散る郷/(桜に捧ぐ新作短歌)

花散る郷/(桜に捧ぐ新作短歌)

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-04

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