禁断

禁断

 何を考えているのか、わからない人がいる。特に私の叔父である。叔父は、ビジネスマンとして、大きな成功をおさめて、財産もある。それにも関わらず、叔父は結婚をしていない。一度叔父に、尋ねたことがある。叔父は笑って何も答えなかった。ただ、ある夜叔父は、私を食事に誘ってくれた。叔父は私に細かなレストランでのマナーを教えてくれたし、話も面白くてためになるものだった。私は、その夜、最後に叔父にこう告げられたのだ。「私は、近々海外に行くかもしれない」私は、出張あるいはビジネスのためだろう、と驚きもせずに、私たちは別れた。それから、3ヶ月後の冬だった。叔父は、飛行機に乗って、アイルランドに行ってしまった。叔父は、たまに私に手紙を書いてよこした。Eメールでもいいのに、何故手紙を書いたのだろう。叔父は、同時に私に都内に住む一人の男性に手紙を届けて欲しいと書いてあった。その男性は、叔父に似て、整髪料で頭を固めていたが、同時に、叔父の名前が出ると、びっくりした顔をするのだった。私は、この男性を叔父の友人だろうと思っていたのだが、それならば何故直接やり取りしないのか不思議でならなかった。都内では、いろいろな自由が奪われていった。通りで、歩くカップルの姿は消えて、街はひっそりとしていた。監視カメラだけが、我が物顔で、存在を主張している通り。私は、学校に行くために、いつも、閑散とした道を歩く。たまに、外国人らしき人々が歩いているのをみかける。きっとアメリカ人だろう。アメリカ人以外は、入国できないはずだ。2,3度叔父に頼まれて、手紙を届けた帰りに、暗い目をした黒いコートの男に声をかけられた。目つきが異様に鋭い。「あの男の家に何しに行ったんだ?」私は、直観的に、本当のことを言っては、まずいと思い、「私の父の友人なんです」と言った。コートの男は、疑わしそうに、私を見ていたが、諦めて手を振って私を追い払う。私は、そそくさと家に帰ると、秘密の暗号で手紙を書いた。この暗号というのが、実に便利で、普通の言葉、社交辞令に満ちているのだが、その実は、別の意味を持つ言葉という不思議なものだった。私と叔父が、共同で発明したものだ。その後、一週間経ち、叔父から手紙が来た。そこでは、暗号を使ってあることが書かれていた。「彼をアイルランド行きの飛行機に乗せてくれ」それだけだった。私は、アメリカ経由でアイルランドに行く飛行機を予約して、男性の家を訪ねた。男性は、私が、「何も言わずについてきてください」と言うと、黙って着の身着のまま、外にでる。後に黒いコートが見えたので、私たちは、走り出す。後から、大きな怒号が聞こえてくる。飛行機に男性を乗せてしまうと、疲れと緊張で、家に帰る気力もない。父から電話がかかってきて、「警察が家に来てる。しばらく帰るな」と言われた。私は、友人の家で2,3泊過ごして、ほとぼりが冷めた頃に家に帰った。その後、叔父から二度と手紙は、届かなかった。

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物語作家七夕ハル。 略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。 受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。 初代新世界文章協会会長。 世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。 twitter:tanabataharu4 ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」 URL:http://tanabataharu.net/wp/

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更新日
登録日
2016-03-01

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