究極のダイエット法

セレソン28

 都内某ホテル。会議会場の入口に『重大発見に関する記者会見』という表示が出ていた。会場の中にはたくさんのイスが並べられ、すでに大勢の記者たちが座っていた。彼らの正面にあるテーブルには所狭しとマイクが林立しているが、肝心の主役はまだ来ていないようである。その為か、会場内は少しザワついていた。
 週刊トポスという腕章をした黒縁メガネの男が、となりのボサボサ頭の男にささやくように尋ねた。
「おい、今日は何の発表か、聞いてるか?」
「さあな。おれは科学雑誌の記者だから呼ばれたと思ってたんだが、お宅の雑誌は芸能が専門だろう」
「いや、結構お堅い記事だって載せてるよ」
「まあ、それならいいさ。だが、さっき会場内を見渡して驚いたが、女性誌やファッション誌の記者も来てる。一体、何の話か、おれにも想像がつかんよ」
 その時、司会者がマイクを手にした。
「みなさま、大変長らくお待たせしました。たった今、到着されました。尚、事前にご案内させていただきますが、質問は挙手をして、いつでもどうぞ、とのことです。それでは、古井戸博士のご登壇です!」
 白衣を着た白髪の老人が、正面のテーブルの後ろに座った。
「ああ、ええと、マイクは入っとるかな?あ、そう。さて、わしが古井戸じゃ。みなさんお忙しいところ、呼び立てたのは他でもない。先日、わしが発見したことを、広く世間に伝えるべきじゃと思ったからじゃ」
 ボサボサ頭の男が手を挙げた。
「マニアック・マガジンの東条です。その発見とは、ご専門の超時空現象に係わることでしょうか?」
 すると、古井戸博士は照れたように笑って、手を左右に振った。
「いやいや、そうではない。専門分野の発見なら、先に論文で発表するよ。全くの専門外じゃ。だから、発表するべきか迷ったのだが、公共の利益になることを隠すわけにはいかないと思ってのう」
 今度は黒縁メガネの男が挙手した。
「ども。週刊トポスの下野です。ズバリ、服が透けて見えるメガネですか?」
 この発言に女性記者たちからブーイングが起きたため、司会者が下野をたしなめた。
「発言にご注意ください!」
 だが、下野は、一向に応えていないようで、そのまま質問を続けた。
「で、どうなんですか?」
 博士もさすがに苦笑した。
「残念ながら、ノーじゃ。まあ、とにかく、経緯から説明しよう。わしには何人か孫がおるのじゃが、先日、今高校生の一番末の孫娘から相談を受けた。『おじいちゃん、確実にやせる方法ってある?』とな。わしは驚いたよ。なぜなら、孫娘はちっとも太ってなどいないんじゃ。だが、本人に言わせると、『激ヤバ』らしい。そこで、専門外じゃが、研究を始めたのじゃよ」
 会場内に「おお」という、どよめきが起きた。
 すぐに、女性記者が手を挙げた。
「週刊女性イーブンの寺門と申します。それはつまり、究極のダイエット法を発見された、ということですね」
 博士はまた照れた。
「いやいや、究極かどうかはわからんがね。とりあえず、考えられる方法は自分で試してみたよ」
「東条です。それは、ご自分を実験台になさった、ということですか?」
「まあ、他人を使うわけにもいかんからのう。そこでじゃ。最初は試しに運動をしてみた。ところが、ほとんど効果がない。人間の体というのは効率的にできとるから、少々運動したぐらいではカロリーを消費せんのじゃ。やはり、入ってくるカロリーを抑えるしかない」
「下野です。わかりました。超強力な下剤を作ったんですね」
 またしても、ブーイング。
「発言にご注意ください!」
「逆じゃよ。食欲を抑える薬を作ったんじゃ。極めて安全で、副作用もない」
「寺門です。わかりました。そのお薬の製法を発表なさるんですね」
 だが、記者たちが驚いたことに、博士は首を振った。
「それが、そうではないんじゃ。その薬のことを孫娘に話したら、『やったあ、いっぱい飲んじゃお』と言うのじゃ。そんなことをすれば、食欲がゼロになって、大変なことになる。そこで、わしは考えた。要は、食べる量を減らすメソッドを考えればいいのじゃと」
「寺門です。メソッドとは、どういうことですか?」
「例えば満腹の時を100%とすると、食べる量を80%にとどめる、というメソッドじゃ。これを習慣にすればよいのじゃ」
 会場内がシーンと静まり返った。
 記者たちが互いに目くばせをする中、ボサボサ頭の男がしかたなさそうに手を挙げた。
「東条です。すみません、博士。その方法なら、以前からありますよ。腹八分目、という」
「ほう。わし以前に発見者がいらしたのか。何という博士じゃね?」
(おわり)

究極のダイエット法

究極のダイエット法

都内某ホテル。会議会場の入口に『重大発見に関する記者会見』という表示が出ていた。会場の中にはたくさんのイスが並べられ、すでに大勢の記者たちが座っていた。彼らの正面にあるテーブルには所狭しとマイクが林立しているが、肝心の主役はまだ来ていない......

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-29

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