死んでいった小説の話
これは、暇なときに書いたやつなので凄く短い短編です。
だから、同じように暇なときにお読みください。
死んでいった小説の話
ー0ー
時を遡る。……なんてことは常人には可能ではない。
なぜならば、人生にリセットボタンは存在しないからである……。
まあ、それは当たり前なのだが……、
セーブもロードも現実世界にはないものであり、それは幻想だ。……が、
誰しも、あの頃に帰りたいと思うことはあるだろう。残業疲れのサラリーマン等が良い(悪い)例である。
それでも、それが出来ないことだと理解出来るものにこそ理性はきちんと存在するのであって、……ただ、思うことに関してはおかしいことはない。
誰だってやり残したことはあるだろうし、誰かれ少なからず人生をやり直したいと思っているんじゃないだろうか?
これについて、僕がいったい何を言いたいかというとそうそう特別な人間なんてものはこの世に現れないということである。
人間は自分の意思を完全に変えることは出来ない。
人が考える人生の生き方というのは元々やりたいことがある程度決まっていて、また限りがあって、その限りを越えられなければ運命なんてものは変えられないのだと思う。
きっと、人生という道の中でウロウロしたり真っ直ぐ行ったり、あるいは小石というものに躓く位の違いでしかない。
運命を変えるということはその道を外れることにある。
ならば、もし、自分達がやり残せた過去に戻れるとしたら……?
自分の道の先が見えていたら?
はたして、その未来は変わったろうか?
運命というやつに打ち勝ち、未来を変えるなんて荒唐無稽なことが果たして可能なのだろうか?
ならば、その人間は特別で特異で余程変わった人間ということになる。
考え方がコロコロ変わる。これがダメなら、次の手はあれだと。直ぐに考えを移行できる。
まあ、そんな織田信長みたいな奴は早々いないと思うが。彼も余程考え方が変わる性格だったと聞く。一体何を考えて生活していたのか少し気になるが、
閑話休題
話を戻そう。別に今は歴史をしたい訳じゃないし、元々歴史は苦手科目なのだ。
いや、ホント何が悲しくて何百年も前の話をされなきゃならんのか謎である。
が、しかし……
今回、特別な人間について考えるに当たって歴史上の偉人というやつは案外的を得ているのだと思う。
彼らは確かに歴史を発展させ時代を進化させてきた。
彼らは得異であり、特別だと十二分に言えることだろう。
ということは、だ。偉人と同レベルになれば運命を変えられるのか。
……いや、これは違うだろう。
彼らは才能で歴史にのしあがってきたのだ。
この世には「努力して成功しましたー」「失敗したけどその成功をいかしてー」だとか言って自身の人生をまるで物語のようにエッセイとして読者に提供している人物がいるが、なんにせよそれにしたって「そういう成功が決められた人物」なのである。
偉人もそれと同じ。天下統一も、宇宙到達も、新大陸発見も、そういう成功の一部であって「才能があり、それを発揮できる人物」または「努力したら実力が発揮できる人物」なのである。
逆にそういう才能はあるのにも関わらず、それを使おうとしない人物もいる……。
……そいつは偉人か?
答えはNOだ。
つまり、そのレベルになったとしてもそれを扱えなければ意味がない。宝の持ち腐れ、というやつである。
この世にはそんな才能も持たず、努力をする人間がいる。しかし、才能を持たない人間は才能を持つ人間に追い抜かれてしまうのである。
そして、下へ下へと追いやられる。
その人間はどんな悪いことをした?
ただ、努力をしただけなのに下へ追いやられるのは理不尽ではないのか?
世界とは至極残酷であると僕は思う。
結論として、成功しない人間にとってはこの世界は生きていたって意味がないのである。
……僕のような人間は、尚更。
この人生はキツすぎた。生きていられない。
死んでしまいたい。居なくなりたい。
何度となく叫んだ。だから、もう、いいと思うんだ。
これが僕の思いの丈、最後の選択だ。
生まれ変わりたくもない、どうせなら永遠に無でありたい。
なので、僕は今日をもって、
――自殺します。
ー1ー
……荷物整理をしていると、遺書が出てきた。僕の今までに貯まったゴミを先程捨ててきたのだが、まだ押し入れには遺書とかいう場違いなものが残っていたらしい。
とりあえず読んでから備え付けの白いテーブルにペラリと置いて少し考えてみる。
「なんだ、これは……?」
いや、遺書なのは分かる。そのまま封筒に書いてあるからな。
随分昔の物だろうが、僕はこんなもの書いたっけ……?
そう思いながら、茶色とも黄色ともつかない色の封筒をひっくり返しながら、万年筆で書かれたであろう『遺書』という達筆な字を眺めていた。
「僕が書いたとは思えないくらい字が上手いな……。」
つまり、これは僕の書いたものではないということだ。そう、僕は字が汚い。
いや、根拠はまだまだある。
そんな死にたいと思ったことはないし、僕はこんなにひげた性格はしていないのである。
それにしても何故、こんなものが僕の部屋にあったのか。
正確には押し入れの奥に挟まっていたのであるが、細かいことは気にしない。
「くそぅ、……やっぱりここ選んだのが間違いだったのか………、」
……それはまあ、ここがアパートだからだろう。前にこの部屋に住んでいた人物が自殺でもしたんだな……。
あの時の不動産屋の笑みはこれを物語っていたのか。いいんですか?って三回も聞いてきやがった。
家賃1ヶ月3000円て……意味が分かると怖い。安すぎるわ。
「……はぁ。嫌なもの見つけちゃったなぁ……」
僕は怖い話が苦手である。
よくやってるバラエティーの心霊写真の紹介とかあったら三秒で他のチャンネルに変えるくらいには……
場合によっては子供番組を見ることすらいとわない。や、ゲームが大概だけど。
というところで、元の話から外れていることに気付き、話を戻す。
「……さて、この遺書。どうしようか……」
はっきり言っていらないし、気味が悪い。
捨ててしまう、が最善だろうか。
そういえば、今日はごみの日である。まだごみ収集車は来ていないだろうから急いで行けば間に合うかもしれない。
共有ごみ捨て場、
僕がごみ袋に遺書を詰め込もうとすると、
「あ、」
と呟く人影がいた。
振り替えると僕より少しだけ背が低い少年である。
「その遺書、ぼくのなんですよっ!」
「あ、そうなんですか。」
見た目は僕より若いのに凄いものを書くんだなぁ、
と、なんとなく関心した。……すべきことでもないんだろうけど。
「ありがとうございます、見つけていただいて。ぼく思い出して処分しようと思って来たんですよ。」
ならば、彼は遺書を書いても、自殺はしなかったということだろうか。
今ここにいるということは。
実際は彼の物じゃない場合もあるが、別に取られたって困るもんでもない。
「それ、くれませんか?」
「あ、はい。どうぞ。」
僕は言われて、遺書を渡す。なんだか、渡すときに重みを感じた。
「それ、どうするんですか?」
僕は尋ねる。まあ、今の彼に聞いても大体無駄だとは思うが……
そう思っていると、彼は微笑みながら答えた。
「持って帰るんですよ、……あるべき場所へ。」
「…………?」
訳が分からず、無意識に首をかしげる。
「……まあ、分からないでしょうね。少しだけかっこつけたかったんです…。気にしないで下さい。」
そんな、大人びた彼と話していてなかなかどうして呆然とここから離れられないのだろう?
何か、この少年に僕は思い当たりがあるような気がするのだ。
この少年にあったことはない。
けれど、彼を知っている。
この少年と喋ったことはない。
けれど、彼を知っている。
この少年の口調は知らない。
けれど、彼を知っている。
そんな気がするのだ。してしまうのだ。
そんなことを考えていると、
「貴方の名前は……?」
と少年が聞いてきた。
僕が漢字四文字答えると、彼は「やっぱり」と言って笑う。
そして、笑いながら、言う。
「僕が死にたくなったのは………、貴方に殺されたからですよ。……何度も何度も何度も何度も、試行錯誤を重ねて、やり直して、殺されたからです。……そして、いつかそれでうんざりした。」
笑って言うべき事でもないと思ったが、これも彼なりの気遣いなのだと気づく。
「君は……、………。……なんかごめん。」
僕は、そんな彼の笑顔を見て気づいたのだ。
彼が何者か。それも分かった。
だからこそ、湧いてしまう罪悪感。残り続ける嫌な感じ。
しかし、少年の方はそれ以上に苦しんだろう。そうなれば、僕は何も言えない。
必然的に僕の方が幸せになってしまうことなのだ。
同情なんて嫌みや皮肉にしか聞こえないだろう。
開き直ったってそうすれば良いと思ってる小心者にしか思えないだろう。
そんな僕に少年は言った。
「……それでも、希望は残してくれたから。―――だから、僕は生きていられた。」
彼は言う。
努力が出来ない人間も、努力が出来る人間も、才能がない人間も、才能がある人間も、やる気がない人間も、やる気がある人間も、失敗した人間も、成功した人間も……、
どんな人間でも……
「やっぱり、希望がないと、生きれない。……絶望や憎しみだけで生きている人間なんて勝手に人生から外れていきますよ。」
彼はそういって、気恥ずかしそうに笑った。その笑顔は僕が出会った瞬間から変わっていない。
すると、彼は笑顔でいれるような、道を歩けているのだろう。
なんだ……、僕なんかよりよっぽどすごいじゃないか。
「……お、」
遺書を握りしめて懐にしまう彼は、道の先に誰かを見つけたようである。
どうやら、連れがやって来たみたいだ。
「もう、いかなければなりません。」
「……うん、分かってるよ。」
僕は頷いて、彼を見送る。
「さようなら、神様」
そんな言葉も消えてしまう頃には、彼は銀髪の少女とどこか遠い世界へ行ってしまった。
きっとそれは、僕が行けるような場所ではない。
……しかし、どうしようもない人間が希望を持って生きれる世界だ
……了
死んでいった小説の話
ネタバレ
僕は作者自身
ぼくは僕の書いた小説そのものです。
僕は小説の中で色々なものを殺して、かつその小説のシーンを手直したり、試行錯誤して改編しました。
そして、色んな話がボツになる度にこの小説は『殺されていた』わけです。
訳のわからん……と、思っていた方。辻褄があったでしょうか?
理解していただけたならば幸いです。
以上、
『作品に愛される』をコンセプトに書いた短編でした。