凍て空日和

さいこ

 雪の降った翌朝は、決まって彼の機嫌が悪い。
 今朝のニュースでも言っていたように、この辺りのような太平洋側の平野部は雪に降られることに慣れていない。少しでも積もれば子供たちは待ってましたとばかりに大はしゃぎで外を駆け回り、汗と溶けた雪でびしょ濡れになるまで遊ぶし、反対に交通機関は一斉に麻痺して謝罪のアナウンスを繰り返すことになる。
 遅れに遅れて間引かれた通勤電車には、スーツを着たおじさんや、顔をしかめた学生たちがこれでもかと詰め込まれ、電車の中は地獄と見紛う様相を呈する。
 学校から電車で一時間くらいかかるところに住んでる彼も、きっと今朝はその中でもみくちゃにされて登校してきているに違いない。
 自転車通学の私は、ただ道端にどけられた雪山や雪かきの残りにタイヤを滑らせないように気をつければ良いだけだったが、彼はそうはいかないはずだ。
 昨夜しんしんと降り積もった雪は、必ずや電車を遅らせ、間引き、彼の機嫌を損ねているだろう。
 むっすりとして何も話してくれないであろう彼の機嫌をどう直したものかと考えていると、何だか憂鬱な気持ちになってくる。
 昨年そうなった時は放課後部活を終えるまでずーっと機嫌の悪いままで、大変な心労だった。
 ああ、憂鬱だ。
 その時、ガラリと音を立てて教室の戸が引かれた。荒々しい所作で開けた戸を後ろ手に閉めるのは、案の定彼だった。
 私がクリスマスにあげたマフラーに口元を埋めた彼の顔は、一見いつもと変わらないように見えるけど、私にはやはり不機嫌そうに見えた。
 彼はのそのそと教室を歩き、乱暴に荷物を置いて自席についた。机に頬杖をついて窓の外に視線をやる彼からは、明らかに剣呑な雰囲気が漂って、辺りの空気がじとりと重くなる。周りで少しでも大きな音がすれば、その刺激で机を叩き割りそうにすら思える。
 普段は彼が来るといつも彼の席までやってきて談笑している彼の友人も、その不穏なムードに気圧されて近寄れず、私の方に視線を向けてきている。
 お前が行けということだろうか。
 私はしょうがないなと視線で答え、ゆっくり席を立つとできるだけ刺激しないように、さり気なく彼に近づいた。
「おはよう」
 彼は頬杖をついた姿勢のまま何も答えない。最高に機嫌が悪い時は決まってこうなる。
「今朝は冷えるね」
「昨日ってさ」
 彼は私の言葉を静かな威圧感を孕んだ言葉で遮った。面食らった私は思わず言葉を止めた。
 ゆっくり彼が続きのセリフを放つ。
「何の日だったと思う?」
「えっ? ……あっ」
 それっきり、私が何を言っても彼は反応してくれなかった。あっちの方で聞き耳を立てていた彼の友人に目をやると、まあ頑張れというメッセージのこもった視線を投げてきている。
 私の陰鬱とした気持ちをからかうように、教室の入口のドアがガラリと鳴って、担任の先生が入ってきた。
「じゃあ、2月15日のホームルーム始めるぞ」

凍て空日和

凍て空日和

掌編1200文字強

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-26

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