Reminder of the past 第二章

Reminder of the pastの第二章になります。初めての方は第一章よりお読みください。


「学生証を拾っていただいたのでご存知とは思いますが、来御崎真琴と申します」
 うん、と頷きながら桜庭さんは席を立ちました。
この部屋は桜庭さんの研究室、なのでしょうか?ところどころに山のように積んである書物や書類があります。見た感じ若い方なのに、この大学の教授ということはとてもすごい方なのかもしれません。
少し緊張しながら乱れていた制服を直していると、トレイを持った桜庭さんが戻ってきました。
「大したものは出せんが飲むといい。あったかいぞ」
「ありがとう・・・ございます」
 桜庭さんから湯気の立つカップを受け取ると、紅茶のいい香りがしました。やけどに気をつけながらひとくち口に含むと、優しい味が口いっぱいに広がりました。さっきまですごく不安だった気持ちが、少しだけ和らぎました。
「思い出させるようで悪いが、前もあんなことはあったのか?」
「いえ、今日が初めてです・・・」
 そういえばあの人も知らない人でしたし、なんで私なんかが狙われたんでしょうか。
「そんなに思いつめた顔をするな。あいつも今頃警察だろうし、俺の連絡先を教えてあるからそのうち連絡も来るだろう」
 そう言って桜庭さんは私の頭を撫でてくれました。こんな風に頭を撫でてもらったのはいつぶりでしょうか・・・。
「・・・通報しますよ」
「「!?」」
 いつの間にか空いていた扉の方から声がして桜庭さんの手が離れてしまいました。ちょっと名残惜しい感じがします。
「なんだ悠陽か・・・落ち着け、通報しないでくれ。俺は断じて少女趣味はない」
「・・・どうだか」
 桜庭さんが「少女趣味はない」と言ったときなぜか胸の奥のほうがチクリとしました。不整脈でしょうか・・・?
「で、来御崎さんでしたっけ?親御さんに連絡しなくていいんですか」
「あ、えっと」
「そうだな、夜も遅いし迎えに来てもらったほうが・・・」
 窓の方を見ている桜庭さんをよそに、悠陽さんという方が私の方をじっと見てきます。男の人とは思えないほど綺麗な顔立ちをしていらっしゃいますが、なんだか睨まれているようで怖いです・・・。
「心配していただいてありがとうございます。でも、私一人暮らしなので・・・」
「なら尚更連絡したほうが」
「あ、えっと・・・親は、いないん、です」
 正直言いたくありませんでした。でも、しょうがありませんよね。
「高校入学の時に孤児院を出て一人暮らしを始めたので、親はいないんです。だから・・・」
 予想通り、桜庭さんは唖然とした顔をされていました。
「そうか・・・なら、俺の家に来るか?」
「え?」
「え!?」
 なぜか私よりも悠陽さんの方が驚かれていますが、それどころではありません。予想の斜め上を行く答えが桜庭さんから返ってきました。
「ちょうど学会も終わったばかりだし、どうせ家には猫くらいしかいない。あ、猫アレルギーとか大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですけど・・・」
 展開が早すぎてついていけません!
「ちょ、先生!いくらなんでもそれは」
「いいじゃないか。明日は俺もこの子の高校に用事があったし、朝は車で送っていくさ。な?」

 この時、悠陽さんの顔がひどく悲しそうだったことに桜庭さんは気がついていませんでした。

Reminder of the past 第二章

Reminder of the past 第二章

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更新日
登録日
2016-02-26

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