コズミックヒーラーN0.7
「私はコスモの波動を感じ取れる男」
商店街を抜ける一角。
明らかヤバそうな人と、目が合ってしまった。
悲鳴を上げるべきか、逃げるべきか。基本めんどくさい。
私、朝野ミキは、これから船見くんとの2回目のデートに興じなければならないのに。
2回目は大事なのだ。そう雑誌にも書いてあった。
「この力を持つ者は、世界に7人しかいない。人呼んでコズミックヒーラー・ナンバーセブン」
引き続き、男はなんか言ってる。
どう見ても、佇まいは手相占いである。
しかし、ずっと若く、20代かそこらの、言動こそアレだが、美形に属する男だった。
「あの、急いでますんで、すいま…」
「デートだな。あたりだろう。しかも2回目」
男は右手を妙な型でひねりながらそういった。
私の思考は、そこで止まってしまった。
「私はそんな怪しい者ではない。第三宇宙の波動哭、コズミックウェーブを2次元因果律にフィードバックさせる能力を備えているだけだ」
一体何を言っているんだ。
厨二なのかすらも微妙なところだ。
「いえ、あの、すみませんが…」
私の拒否など、冒頭からお構いなしだ。
「君の大事な人に“死相”が出ている。私の話が信じられず、デートでもなんでもないなら、このまま行くがいい!そして戦慄するがいい!」
「えっ…」
船見くんの顔がよぎる。
「フフフ…。ハハハっ…」
この変人は、なおも真剣に、第三宇宙のナントカとやらを、手のひらに集中させているようだ。
「この力を持つ者は、世界に…」
「7人ですよね、さっき聞きました。な、なんなんですか?なにか、悪いことが起きるんですか?」
「私は、それを回避させることも、また、君のささやかな悩みや望みも解消することが出来る」
「…コジマウィーク」
「コズミックウェーブだ」
男は手前のテーブルを指さし、
「お前の出した金額、それと等価のクオリティで、未来軸を修正値の範囲内で歪めよう。安ければ雑に、高ければエレガントに。さあ、望むなら、お金と、その手を出しなさい」
「……マジですか」
私は、恐る恐るバッグから財布を抜き出していた。
「一つはその死相の回避をお願いします」
「ほう、まだ望みがあるのか?」
「もう一つは、個人的なことで…」
* *
「それ、絶対怪しい」
船見くんは、ドリンクバーで3回目のエスプレッソを口にしながら、一部始終を聞いてくれた。
「い、いや、私だってそう思ったけど…!」
よくよく考えれば、まあ考えなくても、十分怪しいあらすじだ。
「俺が死ぬって?ふざけんなよ」
少し強がりながら、船見くんはファミレスの外を落ち着きなさげ見る。
「……狙撃とかされないよな?トラックが突っ込んでくるとか…」
やっぱりかわいい。というか、そういうのは映画の見過ぎだ。
私なら、病気とか気にするんだけど。でも、どう見ても健康優良だ。
「まあ、回避するための占いだから」
「いくら払ったの」
「500円」
「もったいねえ!もったいないから!」
船見くんは心の底から、沸き起こすように言った。
「あのさ、人の生き死にをダシにカネを取るのは、犯罪だよ確か」
「え、そうなの?」
「刑事ドラマで見た気がする」
船見くんは曖昧な憤りを見せる。
自分が弄ばれたことと、私がそれにカネを払わされたことが、そうさせているのだろう。
「よし、一度そいつに会おう。商店街だろ?行こう」
「え…」
2つ目のお願いが露見するのは、勘弁してほしい。
* *
「で、2つ目というのは何だ?」
コズミックヒーラーは、私の手をぷにぷに触りながら、聞いてきた。
手相など見ている気配はない。
「これから、2回目のデートなんです」
「知っている」
「あの…それでですね…」
「早くいえ」
「手を繋ぐタイミングというのを、いろいろ模索しているんですが…」
ヒーラーは嘆息混じりに、手に力を込めて、
「………簡単なことだ」
と言う。
「え?」
彼は、最初から全部わかっていた、みたいなシタリ顔で、
「私に会った時からのことを、全部そいつに話せばいい」
と、言った。
* *
「ホントに行くの?」
「客としてならいいだろ別に」
ファミレスを出たところで、船見くんは先陣を切って歩み始める。
「いいよもう。もっと別なとこいこうよ」
と、別の選択を促す。
船見くんは少し考えた後で、
「悪い、やっぱ一回だけ会っとく!」
と譲らず、「朝野さんも来て」と手をとって、街の中を速いペースで歩き始めた。
「……」
そして、直後に背後でガシャン!!と、短く鈍い音がした。
「?」
「?」
地面は小鍋大のセトモノの植木鉢と土が散乱していた。
見上げると、高層マンションのベランダが立ち並んでいる。
頭部直撃スレスレだったのかもしれない。
「………」
「………」
私たちは、微妙な顔でお互いを覗きこむことしか出来なかった。
コズミックヒーラーN0.7