三題噺 「カエル・ホルン・坂」
自然界ではメジャー?な物語
長い。なんて長いのだろうか。アマゾンといわれる地域に生息すると言われている聖なる大蛇なんかよりも大きく、太く、長いかもしれない。
天を貫く超大木様方が果てしなく遠い大天に浮かぶ火球の球花火様の恩恵である光を程よく遮ってくださっている。そのため高い気温にしては暑さを感じることはなかった。
ミーンミーンミーン
ジィウィジィウィジィウィ
セミたちの発声練習がそこらじゅうに響き合っている。 各々で叫ぶように練習しているため不協和音を醸して出している。
半分ぐらいまで登って来れただろうか…。
この森には一年に一度開催される音楽祭が明日に迫っている。そのため、どの動物も演し物の練習をギリギリまでしている。例外はあるけれども…。
「やぁやぁやぁ、これはこれは …」
そう、この嫌味な口調のトンボだったり…。
「や、やぁ、ご機嫌だね」
「そりゃそうさ。明日は年に一度の音楽祭だぞ?上機嫌にならない方がおかしい」
そう言いながら、僕から離れすぎない程に上下左右に行ったり来たりしている。
このトンボはよく僕にちょっかいをかけてくる。どうしてかはわからないけど…。
「君は今日も練習かな?いやぁ、大変だね。私たちの隊列発表なんてレベルが高い割に皆さん完璧にこなしてしまいますからね」
事実、毎年のトンボとコオロギの合同発表はレベルがとても高く、高評価を得ている。
「流石ですね。僕らも恥の無いよう精一杯やらくては」
「恥じることなど無いですよ。毎年毎年素晴らしい演奏なんだから。今年も楽しみにしてますからね。」
「アハハ。今年は夕方の部に出るのですか?」
「ん?そうだな…。確かそのはずだな」
音楽祭は朝の部、昼の部、夕方の部、夜の部、深夜の部と5部構成となっている。朝の部から夕方の部にかけてセミたちがコーラスを行い、その中で様々な発表がされる。主にセミのコーラスがメインとなっているが。夕方の部の途中にコオロギのバイオリン発表、その後、トンボとコオロギの合同発表を行う。僕らカエルの出番は夜の部のど頭だ。
「カエルのオーケストラは夜の部の最初だよね。とてもいい順番だ」
そう。とてもプレッシャーの大きい出番はなのだ。ああ、お腹が…。
「ええ。なので、選ばれたからには精一杯頑張らなければ」
カエルのオーケストラだけに限ったことでは無いが、大抵は音楽祭の発表に参加するメンバーを厳選している。数が多いのはもちろん、より良い物にするために自然にやるようになっていた。このトンボも選考に最後まで残っている。
演し物は毎年恒例のものがほとんどだが、決まりきっているわけではない。自由に演し物を行える。今年の注目度が高いのはコオロギのバイオリンアンサンブルだ。実は密かに楽しみにしている。
「それは、ホルンかな?重そうだね」
「ええ、それなりに。でも、幼いときから一緒なのでそこまで苦ではないですよ」
僕は小さいときからホルンに憧れていた。オーケストラの中で目立つところはない事がほとんどだ。けれど、あの暖かく包まれるような音に惚れてしまったのだ。
あれはまだ水の中にいた頃、手足が整いきったときだった。友達に誘われて初めて音楽祭に行った。ちょうどその時がカエルのオーケストラがやる時だった。その時の曲はホルンのソロやソリがあり、今も耳に残っている。陸に上がってからはすぐさまホルンの吹き方を教わった。あの衝撃が間違いなく僕をホルン吹きにしたきっかけだろう。
あの時の曲を明日するのだ。さらに緊張してしまっている。
「重たそうだ。上まで持って行こうか?」
「いえ、平気ですよ。もう少しでこの坂のてっぺんですか」
「そうか…。では、オレはここで。本番とても楽しみにしているからな。練習頑張って」
そう言ってトンボは彼方へ飛び去っていった。
それか数分、坂のてっぺんが見えてきた。そこからすぐのところに今日の練習場所がある。
もう少しだ。
そう自分を鼓舞して坂を登りきった。すると、湿っているが秋を感じさせる風が前方から吹き抜けた。
三題噺 「カエル・ホルン・坂」