姉の同棲

「ねえ聞いてよ」
また姉からの電話通信だ。今度の話も「彼」との同棲生活についてのことだろう。
「私の『彼』がさ、なかなか帰ってこないのよね、今から帰るって連絡あったのにい」
「彼」の仕事先から姉の家までは3.5光年と、そう遠い距離ではない。待たせる方が思いは募る、という駆け引きを楽しむような「彼」ではないので、姉がそのことで電話してくる気持ちは分からなくはない。

「でさ、『彼』って食器を同時に三枚洗えるんだけどさ、洗い方が雑なのよねー。また私が洗い直さなきゃいけないから面倒なのよ」
バミューモレンダ人である「彼」は腕が6本あるので、家事を効率よくこなせるとテレネットのワイド番組でよく言われているが、洗い方の基準は人それぞれだ。姉は、食器に少しでもべたついたものが残っていると嫌なのだろう。
「あ、でもね、彼特製のチンネンタ入りパンケーキはおいしいのよー! 」
そうですか。
チンネンタとは地球のネズミに似た宇宙生物で、姉も私も小さいころからチンネンタの見た目が苦手なのだが、姉は愛の力で苦手を克服したというのだろうか。料理上手な「彼」なんてうらやましくなんかない。

「●▼☆×○」
姉との通話が始まり一時間ほど経ったころ、バミュー語らしき音声が、電話通信の向こう側からかすかに聞こえてきた。
「あっ、『彼』が帰ってきたみたい! じゃあまたねー」
唐突に電話通信が切れた。私は通話の間じゅうノロケ話を延々と聞かされたのだった。まったく。

新銀河暦になってはや二一〇〇年。太陽系を人類が飛び出した年を元年と定められた新銀河暦は、太陽系外の知的生命体との関わり合いの歴史で彩られている。学校で習う歴史ではいくばくかの戦争、荒廃、再生があったが、今は平和なものだ。現在では姉のような地球型人類が、異星に生きる者と同棲するようになっている。
姉にとっては、バミューモレンダ星人だから付き合っているのではなく、「彼」だから付き合っているのだという。姉がみずからに言い聞かせるように、私へ明るく電話してくるのは、この地球での、異星人との交際に対する強い風当たりを跳ね返そうとしているからなのだろう。本人たちは、決して自分たちが差別されているなど口にはしない。
「彼」と姉が同棲を長々と続けているのは、いまだ地球法では、地球の女性と雄性異星人との婚姻が認められていないからだ。とんでもない差別が地球法には盛り込まれていると思うのだが、地球にはまだ保守的な層が多い。なんにせよ、これからなのだ。
チンネンタ入りのパンケーキを好きになった姉のように、物事は見かけによらないのだ。今度私も食べてみようかな、チンネンタのパンケーキ。

姉の同棲

姉の同棲

時空モノガタリ103回「同棲」で書いたものです。見た目によらない話です。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted